5+

no.405

理想も夢もどうだっていい。今が未来になるから。ぼくの言葉は汎用化されきみは酸素のように取り入れるだろう。そうしていることにも気づかずに。本当に好きなものを好きだと意識できるひとは多くない。好きだ好きだと繰り返すのは、思い込むための儀式だった。ほんとうの気持ちを消そうとする虚しくて悲惨な努力だった。それは幼年者の殺戮だった。もしも困っている人がいたら手を差し伸べるんだろう。自分をそこに投影して。誰かに救いを求める勇気をたたえて。ほんのすこし。ほんの少しの違いだけなんだ。刻一刻と世界から消えていく、きみをきみは忘れないで。抱えきれないその時は、要らないぼくだけを忘れて。その時にはもう、きっと染み渡っているから。きみが眠りにつく時。眼を覚ます時。卵を割る時。歯を磨く時。踏み出す一歩。花畑に残る足跡。同じ道を辿るためじゃない。生きた証が、道なき道を進んだ気配を知らしめるため。

5+

no.404

言い切ることをしないで答え合わせから逃げるの。一瞬一瞬で生まれて死ぬんだって、分からないのも無理はないよね。かわいいと思えないこともないんだ。僕は少しずつ無機質になるけど君はそれに合わせなくていい。また百年後に再会できれば。何があっても笑っていようよ。無理した時にいちばん難しい表情だからさ。多くの人は誤解してるんだけど。特に君にとってはそうだよ。つくりものを嫌う人だったから。愛は、ずるいね。それを知らない人を迷わず除け者にするんだ。優しくは、ないね。信じられない人を冷たくするんだ。絶対がないって、例外もありうるって、どうしてそこだけは見逃しちゃったかな。素っ気なくしている暇はないよ。君の命はそれほど長くはない。少なくとも僕にとっては。こわがらずに傷つけていいよ。それだって僕は忘れることができちゃうんだ。降ってくる雪のように有限であり無限。紙でつくった街の夜だけが二人を認めていた。これは、そんな夜だった。朝が来ない終わりだってあるんだ。それを、覚えておいて。いつか君のことを思い出せなくなる僕のことを、君は忘れないでいて。

4+

no.403

ぼくには見えるよ。きみが生きていきたいみたいに。太陽が沈むときに世界が切り替わる。その一瞬だけでも。名前なんて関係ない。どんなふうに呼んだってきっと変わらなかった。水滴がいくつもこぼれて、道具は要らなかったと後悔をした。血の中から誕生と破壊を繰り返す。誰もまだ正しくないよね。それなのに、そう見える。ぼくたちみんなわざと視点をずらしているのかもね。つまり、正解が分かっているんだ。やがて別のものにすり替わってしまう特性も。この傘は一人分だけど、ふたりで濡れることだったらできる。降り注ぐものがぼくたちの知らない色をしていても。ぼくには見えるよ。きみは化け物とも天才とも違う、ただぼくの好きなひとだ。

4+

no.402

この世界でもっとたくさんの明日を迎えたいって初めて思った。きっと運命なんだよ。深夜番組で涙を流すことも、お気に入りが生産中止になったり、みんなに笑われた恥ずかしい思い出、ナイフを買うために何度も往復した狭いアパートの長い廊下、うまく笑えないことへの罪悪感、深海なんて知らないけどそれとたぶんよく似た、誘蛾灯のささやき、もっと生きやすいようにモザイクにしてあげるよ、その悪意さえも甘くて美味しかった、チョコレートよりずっとそうだった。世界は言うだろう。君に、僕に、何者かになれと。ただちに染まってしまわなくても大丈夫。何のためにならなくても、存在して問題がない。質問は何かの答えであるということ。僕は次の朝も目覚めるよ。誓ってもいい。必ず目覚めるさ。君は、どう?(いや、ちがう、いいたかったのはそれじゃない)。君も、どう?何度でも呼びかけるよ。

3+

no.401

なかったことに戻すには時間が深すぎた。百年後もきみを救うために、いま誰を癒せるだろう。真夜中を歩く。僕の足跡が誰かの通り道になれますように。ここにはない、夏の川辺、写真の散財した部屋、転がった命、そのときに愛していたもの、みんなまるく飲み込んで、そのことを誰にも言わないで、沈黙みたいに、指でかたちづくる輪っかみたいに、きみと僕とはここにいよう、迷ったときに戻るためじゃなく、迷ったことがわかるためだけに。それだけのために。できるだけ正しくない方法で始めよう。光は、初恋にだけじゃなく見つかりたくない相手にもきみの居場所を教えてしまうだろう。捨てて良いものはきみにとって優しくて、だけど実際は甘やかさなかったものばかり。この光はどんな闇にも追いつけない。だけど真夜中にしか生まれない。この矛盾。言い換えれば奇跡。傷つけるもののために祈ろう、僕たちは。

3+

no.400

食欲をそそる、
ような暗闇に消えてった好敵手
ちゃんと命を狙うんじゃなかったの?
あれだけ豪語しといてさ

結露でぼやける光と舌舐めずり
どれが本物だっていいじゃない
偽物のいくつかをひっ捕まえれば
確率の問題にして運試し

引きずる片足の経緯は任せて
お話をつくることは僕にもできる
誰ひとり傷つけずに
ちいさな嘘をくるんじゃうんだ

誰も傷つけたくないの?
かんたんだよ
自分を傷つけさせるんだ
物語ってそういう需要があるんだ

きみのまだ知らない大人の世界ではね

かすり傷の理由を話してもらっていいかな
片っ端から消してあげる
暴かれなかった秘密をまとわせてあげよう
だって僕のものなんだもの

上手なことだけが正義にならないように
嫌われないことだけが評価基準にならないように

きみが殺されてしまったらもう、
僕の息の根を止められる子はこの世にいないんだよ。

だからこんなに切実な夜更け、
月は宇宙の心臓になんかなれない。

3+

no.399

声を聞かせてと言って。手をつないでと言って。ていねいだった頃を思い出して。忘れないでと言って。花束なんか要らないと、星も月も見えなくていい、太陽がのぼらなくても、もうひとりで泣いたりしなくて良いんだよって、言って、ねえ、また人間みたいに。ぼくたちまるで欠陥のないところが取り柄みたいで、だけど疎ましくも感じられて排斥を免れなかった。不安定であること、哀れだと思うよ。そこからたくさんの作品が生まれたんだろうなとも思う。整然としたものは、苦手?理想を追い求めるくせに到達することにためらって出した手をまた引っ込めるの。臆病なほうが可愛いとでも思ってるの。くだらないって言われたいの。ぼくも、きみも、冷たいひと。優劣じゃない。現象の話をしている。つめたいね。酸化する言葉でまだここにいたって気づくくらいの。でも時々なまぬるいんだ。錯覚のたびにもう百年、延命してしまう。これはそういうゲーム。勝って終わらせられない。あと少しって何度だって思ってしまうから。ふざけているよ。バグなんだ。ぼくが時々つめたくて、きみが時々なまぬるくなるのも。生きてるの。ううん、死ななかったの。それだけなの。ちゃんと尊いでしょ。もう一度大切にしてね。

5+

no.398

似たものを手に入れた
違いばかり目について駄目だな
無くして初めて名前を知ったよ
いつか青い風景の一部になりたい
巻き戻せない時間を抱えた人が
透明の七色に降り注がれているときに
手も足もまだ動いている
変わらない自分はもう飽きた
僕は確かに墜落したのかも知らない
だけど今いるこの場所は
墜落前よりはるかに高い
捨てられないものなんかない
一部になったものがもはや自分であるだけ
眼を覚ますより確かに変わってゆく
信じなくてもわかってゆく
待ち望んだ季節よりも確かに移ってゆく
忘れたくないものなら血にしてだって生きる

3+

no.397

セラミックは光を鈍くさせて嘲笑は都合よく解釈された。

ぼくたちはお互いに間違っている可能性を残したままで初恋に至ろうとしていた。

目の見えない子猫が夜に飲み込まれていったよ。噂話は鳥の餌になって新芽は伸び盛りを迎えなかった。

将来役に立つと教えられた言語はでたらめな文法で、それでも悪戯を遂行するのに役立ってくれた。

大人が本当のことを話したがらないのは、責任を取りたくないからだ。それでいて傷ついて欲しくないんだ。でたらめだよね。だからって冷やかすものじゃない。きっといつか同じ目にあうんだから。

少年少女はいつまで蝶々結びのできないふりをしていられるんだろう。

仕組みを暴かれた結晶が密室で何遍も生成されている間、より多くを滅ぼすための新型兵器は大空を渡っていた。

目をつむれ。
耳をとざせ。

そして思いだけになったとき、瞼の裏に浮かんでくるものは祈りの一節かも知れないし聞こえてくるものは舌打ちかも知れない。

いちいち傷つくような脆さなら生きていたって誰かの居場所を奪うだけだ。優しい人を求めたって求められなければどこも埋まらないんだ。

かわいそうに、きみは、いい子。
なぜって、正解を知っている。
だけど、覚えておいて、いい子。
本当はきれいじゃなくてもいいんだよ。

あの子を試そうとして神様が落っことしたナイフを、素手で受け止められなくてもいいんだよ。

枯れてしまった新芽はまだ多くの種子が眠る土の肥やしとなる。

冷たい夜にあっけなく溶けた子猫は黒猫となってふたたびこの世に生まれてくる。

そしてきみの汚せなかった手はその丸い背中をそっと撫でることができる。

辻褄を合わせる余地はいくらだってあり、歪んだ口元でも幸福をささやけるということ。

そのことを疑わずに目覚める朝が、これから先も何度もあるということ。

4+

no.396

にせものの命で言葉の通じない国に生まれた。スプレーで色付けられた花がビニール袋から覗いていてそれでも美しいと思うよ。あたたかな蜂蜜のこぼれている部屋にある時とおんなじように。ぼくたちは少しずつ汚染されている、そうして毎日判断を下しながら罰している。それは昨日あいしたひとであったり、明日のぼくであったりする。仕草はいちいち記録されて春はぎこちなかった。卵が割れる音で目を覚ました夜中。ひとつになりたがった。きずつけたこともないものと。それは危険だとぬいぐるみは言った。どうせ嘘だろう。どうせ嘘だよ。いつまでもここにいるよ。約束くらい簡単さ。助からないきみがいるならば。噛み砕いたキャンディみたく誰にも話したことのない思い出が窓の下に散らばってる。ぼくたちは本当の痛いを知りたい。

4+