No.731

到底理解できなければ演技は続いたのに
目を瞑ってたってわかることがある
きみに似ている人は少なくない
留まるものがあっても時間の問題

意地悪で片づけて良いんだろうか?
誰にも伝えたくない
誰にも気づいて欲しくない
きみが弱くて血の流れていること

まわりが勝手に脱落したんだ
天国はそっちじゃないよ
詐欺師のいい加減なインフォメーション
純粋が粉砂糖をまぶされて落ちていく

(もったいないよ、
死ぬことが綺麗なうちに生きるなんて)。

好きでも嫌いでもない
正しいという判断で分離してしまった
きみは邪推の餌食になった
六月のプールに沈められて

繰り返さなければいけない?
いいや、そんなことはない!
いつでも「これで最後」にできるし
そのためのトリガーだって与えたよ

なるべく素っ気なく優しくそれでいて
魅力的なことをぼくは教えてあげるのに
おまえの言いなりにはならない
そう言ってきみはまた始めちゃうんだから

ハサミを持つ手も疲れてきた
緞帳を開け閉めすることにも
だから下界に向けて背面跳びをかます
ここではその行為を自殺と呼ぶ

ぼくは落ちる
落ちたことのない六月のプールに
とうとうやってしまった、どうしようもない後悔が
驚愕に見開かれた目で吹き飛んだ

あの、はじめまして
は、はじめまして?
こっちへ来てみた
あ、ようこそ?
ぼくは空から落ちてきました
はあ
もし迷惑でなければきみを助けたいです

戸惑う二人をつなげたまま、意思のない水面はキラキラ光った。

2+

No.730

たぶんかけがえのない早朝
トラックだけが追い越していく
歩道の真ん中に三毛猫が硬直していた
廃棄されたコンビニのおにぎりみたいに

ぼくは知らない
きみが生きたことをぼくは知らない
きみも知らない
ぼくが生きていくことをきみは知らない

しゃがんで写真を撮ってしまうこと
それじゃなんの弔いにもならないこと
大事にしようと思うんだ
抱えて行ったりできないんだ

靴紐がほどけた、と思ったら
みるみるいっぴきの蝶々になった
絵の具みたいに正しい水色へ溶けて
それはもう戻ってこない

大事にする
ねえ大事にするよ
ときどきひらいて
ときどきとじて

呼吸に似せて
孤独に寄せて
硬直を避けて
孤独を避けて

感じたことを忘れないでおくね
忘れてもまた約束をするね
言葉が尽きずさみしいぼくは
部屋に戻るやきみの隣に潜り込んだ

ねぼすけさん、ねぼすけさん

ぼくらの街は死でいっぱいだったよ
今日は靴紐もなくしてしまったよ
だけど美しかった
きみの魂ってやわらかだね

2+

No.729

繊細な世界に存外丈夫なぼくがいて、ひずんでいくのを止められないでいる。読めない文字が書かれた旗が風のなかに揺れていて、どうかそれが救いを求める類でありませんように。祈りながら視線を逸らし、端的に言えば無視をした。撓みながら平均値へもどる途中、つまづいたふりをして群衆から離れた。泣き顔を見られたくないんだ、理由もなく笑ったように思わせていたいんだ。こちらの茨は鋭いな。だけど目隠しで両手がふさがる。真夜中の迎えがあんまり遅いので、ぼく一人の影なんかじゃ命一つも憩えない。

2+

No.728

透明はせつない
立ち去る気配を隠しもしない
月の光をとおしてしまった綿あめの糸
体に溶けてもひとつになれない

夜の終わりを見てられなくて
あかるい場所でぼくたちは寝転んだ
流れる音楽と絡み合う話し声
自分が自分でいなくてもいい場所で

慢心の結び目はすぐにほどけて
怠惰な決意がトリップして
泣きたくなっても布は眠ってて
近寄るきみへ読解を強要する

きみがぼくにささやいたなら
ぼくの価値はゼロに戻りバグは消えんだ
きみがぼくに布をかけたなら
ぼくはぼくに戻り夜の終わりをまともに見るんだ

2+

No.727

ベランダに咲いた花と玉ねぎを炒める匂い
ふて寝していたと起きてから気づく
何をあんなに罵っていたんだろう
簡単に嫌いになれるほど運命は甘くない

あずかり知らぬところで発生した愛が
関与できるところで消されるわけはない
その証拠にきみは玉ねぎを炒め
ぼくは後味の悪さばかり覚えてる

ヒーローは世界をすくうんだって?
だけどぼくのことはどうだろう?
好きになってくれたあの子のことは?
ヒーローじゃないぼくがなんとかすんだ、そうだろう?

与えられた縛りと逸脱への感度
間違わないために痛みがあるんじゃない
ぼくのする想像ときみのする回答を答え合わせ
起こされたくて寝たふりをするこども

3+

No.726

手に入れてはいけなかったのかもしれない。僕には治療できない傷を見ながら途方にくれる。

霧の晴れた朝、やがて光が追いつくだろう。あなたは白い林檎をかじる。芯や種まで飲み下して、おヘソから樹が生えるかもと笑っている。そうしている間にも手のひらの下から血は流れて、流れて、ついに流れるものもなくなったとき、星がひとつ落ちたんだ。

覚えていてなんかやらない。教えてくれたもの。教えてくれたこと。魔法を使ってあげたい人、そんな人は他にいないんだ。

朝が来る。夜が来る。真夜中がきて、また朝が来る。それを僕は繰り返すだろう。繰り返すことができてしまうだろう。魔法が使えなくても。魔法が使えなくても。

乾いた苗床から若葉をすくいあげ、潤いを求めて歩き出した。誰も知らない顔で。誰も知らない名前になって。見つけられないということ。呼べないということ。もしこの先どこかですれ違っても、お互いにお互いが気づくことはないんだ。

目覚める度に僕は自分に言い聞かせる。
無傷の命があなたの欲しがったものではないはず。
眠る前に僕は自分に言い聞かせる。
間違えないことだけが正しさではないはず。

みすみす終わりを早めたりしない。置いていけなかった若葉が、また種子に戻るのを見届けるため。その日の最初の一滴。僕のする不器用な解釈が、もう孤独じゃない葉脈で鼓動するから。

1+

No.725

手のひら一枚にのせることのできる外の灯りに祈っていた。でたらめな文章、届かなかったときの言い訳も用意して。星はそんなにきらめきたいの。違う、ぼくが暗い場所から出られないだけ。夢を果たしていく仲間たちはもう生まれ変わって、次の愛を見つけている。ぼくの思いは昇っては落ちて、泥濘にとられて、また起き上がっては雨に降られる。いないのか、そこにはまだ誰もいないのか。懲りずに幻を追いかけているぼくが悪いのか。廃墟に横たわる満員電車。気まぐれに舞い降りたきみは、発光する朝顔の棺でぼくの目を見ている。頑張ったねえ。慰め。承認。許し。受容。ぼくの欲しかったもの。自分以外は無敵に見えてたんだ。白い花弁が紅い色に染まっていく。空から降ってくる、穴のあくほど見上げ続けた空からそれは降ってくるんだ。「おまえは守られていたんだよ。ずっと」。そうきみが教えてくれる。「信じることをやめなかったからね」。だけどきみに会えたということは、ぼくもやめてしまったということか。「そうとは限らないよ。これはぼくの気まぐれだから」。きみの言葉が粒子になってぼくの体を持ち上げた。ぼくのいた場所が血だまりになっていたこと、見下ろしたときに初めて知るんだ。

2+

No.724

誰かにとってはじめての朝に
アリバイを見つけらないまま目覚めた
嘘つきと同居を始めて早三年
伝えたりない罵声が遊泳している

人のいない街を好きだ
こんなふうに思わなければマシなのに
落とし穴を探して歩いた
自分の代わりに自分を傷つけてくれるものを

公園の隅っこで猫が寄り添う
橙と黒だ
どこででも生きて死ねる姿で彼らは言う
思い上がるな隅っこはそちらだぞ、と

玄関のドアをあけて帰宅しても
出かける途中だったかもと錯覚する
あなたがまだ目覚めていないので
頭の中では置き去りにできるのに

スニーカーを脱いでただいまと言う
透明な糸で巻き取られていて
寝入る傍に立ち尽くした
猫よりずっとぼくに似た生き物を

なんでちゃんと殺せないんだろう、
なんでちゃんと生きられないんだろう、

あなたのことも
ぼくのこともだ

もうこぼれないと諦めていた涙がこぼれて
悲しいせいじゃないと言い訳を用意する
悲しいせいでも寂しいわけでもない
虚しい、ただただぼくが、無力なんだ

目を開けたあなたがぼくを見ていた

光が、邪魔だなぁ
「行けなかった、どこへも」
顔に、書いてある
「早くあなたをひとりにしてやりたいのに」

貫通することのない長い針を
憎しみさえ忘れて心臓に突き立てる
そんなイメージで言葉を放った
あなたは不遜に笑って目を閉じるけど
ずっと見られている感じが消えない

べつに構わないけど朝はやめろ朝は
おまえにはおれを殺す
チャンスなんかこの先いくらでもあるから
朝はいろいろと参るんだ

(は、ふざけやがって。)

感想が重なり合い不覚にも笑ってしまう
後悔したいのにできはしなくて
伸ばされた腕の中に倒れ込んだ
ぼくは救いようのないあなたの同居人だ

0

No.723

生ぬるいものに生かされている。
たとえば明け方のシーツ、手探りで探し当てた端末のあたたかさ。
産まれる前みたいな、これとだけ生きてみたいな。
脱ぎ捨てたシャツにいずれ消える体温が今はまだ残っている。

きみが料理なら食べるのに、消えてかないよう内側に入れてしまうのに(消化されてぼくになればいいのに)。

前髪を切りそろえるように平熱にそろえて、高いだの低いだので別れていく、離していく、捨て去っていく、平気でいる。

ぼくは目で警告をする。
仲直りしたくてきみを傷つけることがあるよ。
ぼくは態度で伝言をする。
治療したくてきみを壊すことがあるよ。

(きこえていた?)

でたらめに結びつける時間の中に潜んでいた疾患がきみと出会ったことで発散されて世界の色を変えて見せる。

バランスが分解されて欲しくもなかった平和を臓腑から吐き出す。

願うふりはしてもいいけど、だってそれに殺されるかも知れないでしょう?

どんなラベルがつけられていても抱いた時にどうあるかだ。

きみを守れない平和ならいらない、きみにさわれない命ならいらない。

深く潜って柔らかい青に叫びたい、
きれいなものが多過ぎるんだと、
そしてそれはぼくを翻弄して底へ落とそうとするんだと、

(落ちてもいい。底なんてないから。
もし底に見える場所があるなら、
私そこで手を広げて待っているから。)

そこへ落とそうとするんだと。

2+

No.722

耳で聴く雨
これは刺されなかった者の血だ
憎まれなかった者の血だ
腕の中にある何かをしつこく手繰り寄せて

ダースで命が輸送されていく
どこよりも広い窓からそれを見てる
来訪者は驚いたように言うんだ
ここには窓なんかありませんよ

きみは一歩足を踏み入れて看破する
寂しいところに縛られているんだな
随分と多くの人に誤解されながら
手首は今も晒せないのかい?

ぼくは血なので
ぼくは骨なので
ぼくの魂は源であって種なので
根っこが枯れるわけにいかないだろう

きみだってぼくから生まれた
雪の降る朝にさ
銀色に光るあたらしい刃で
痛みと無縁の自傷の果てに

羨望と懇願で張り裂けそうになる
ここにいて誰よりも知っているので
臓腑がとても柔らかく脆いこと
刻んでもそれはぼくを忘れていくこと

真相に気づいて心臓を受けたぼく
雨粒と一緒に蹴落とされ親のないまま生まれた
きみはぼくを拾って祝福の辞を述べる
いい目をもらったね、夢に見た奈落へようこそ

3+