小説『提言者』

年下会社員✕カフェ店主まとめ

残業があり夜ごはんを一緒に取れなかった日、あなたはすでに寝ついていた。
物音を立てないようベッド脇に寄り添って、ローテーブルにお酒の瓶をみつける。
もしやぼくの帰りが遅くてさみしい思いをしていたな、と自惚れながら跪くと、シーツの中から蔦のようにするすると腕が伸びてきた。
そのまま首に絡みつく。
されるがままに身を任せていると、掠れた声がぼくの知らない名前を呼んだ。

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【小説】夜におねがい

年下会社員✕カフェ店主まとめ

死んでくれたらいいのに。

あなたの姿を思い浮かべると、そう思わずにいられなくなる。

たとえば雲ひとつない青空の日。
滅多にしない深呼吸。澄んだ何かを肺に満たして、少しでも和解できた気がしたんだ。
だけどふと視線を下げると、血管の浮いた手から、まだ長さのあるタバコが投げ捨てられる。
笑い声とともに橙色の火がジュッと鳴って、植え込みのツツジの花弁がほんの少し焦げた時に。

(ああ、死んでくれたらいいのに。)

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【小説】あいにきたよ

花が散る、公園に残されたボール、毛づくろいする猫の朝。あなたにはバスで会いに行こうと思う。車も運転できるようになったし、コインパーキングのバック駐車にも慣れてきたけど。時刻表の背景、あの日に似ている空を見て、あなたがどうしているか考えながら。バスが来たら定位置に座って(もし埋まっていたらべつの場所でも良い)、すっかり変わってしまった街並みの中で、変わらなかったものを見つけよう。変われなかったのではなく、変わらなかったものを。それから乗り込んでくるひとの中にあの日のぼくを見つけよう。寝不足で、目をはらして、なのに足取りは軽やかだ。悩みがなかったわけじゃない。狭い視野いっぱいに、たったひとりを映していた。むくわれるよ。学生服の後ろ姿にエールを送る。そうするとぼくの過去にエールが上書きされる。だいじょうぶだよ。後ろは振り返らない。学生服のぼくは一瞬頭をあげて、窓の外を見た。それからまた目を閉じて、あなたのことを考えていた。白いテーブル。あなたを慕うたくさんの人。だけどこのうちの誰一人としてぼくのようにあなたをおもっていないはず。若さは傲慢で最強だ。そろそろ目的地が近づいてきた。誰にも先を越されないよう、降車ボタンに指をのせる。おとなげない自分に苦笑してしまう。バス停からあなたのお店まで歩いていく。たどり着くまでに学生服のぼくを見失う。変わらなかったドアを開けると、迎えてくれたあなたはひどく驚いた顔をする。「こまった。学生時代のきみが見えた。自分がおかしくなってしまったかと」それから笑い合う。埋まらなかった距離に泣いたあの日、埋める距離のないことがすこしさびしくもある今。よゆうだよね、とあなたが感心する。やっと報われたんだ、少しぐらい余裕ぶらせて。やがてコーヒーの香りがただよってきて、それにすら邪魔されたくなくて、あいかわらずおとなげないぼくは、追い越した背の、あなたの肩に鼻先をうずめる。

年の差。禁断の恋からの。

増えてきたからまとめた⇒年下会社員✕カフェ店主まとめ

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