No.847

雲のない空
雲ひとつもない青い空
空っぽのくせに吸い込んでくれない
ぼくの腕や脚や眼球などを吸い込んでくれない

消えてしまえ、
言われなくても願っていたよ
誰よりもぼくが願っていたよ
横取りしてくれないかそういつも願っていたよ

だったら心臓を、譲渡できる。
唐突に親友が言うのでまさかと回答した
でもおまえいつも譲渡したがってたろう
なぜ知らないふりをしてはぐらかすんだ

親友と呼ばせた親友はぼくへ緻密な計画を話す
抜け漏れ無くはないけど完璧は偽物だって
片目をつむったほうがまっすぐに歩けるんだって
知らないほど無知な子どもじゃない

譲渡するんだ
消えるんじゃなくて
奪われたり売りつけるんじゃなくて
ただ譲渡するんだ月夜に、終電が過ぎた頃に

なんてことを教えるんだろう
リアルを見物したいのならスマホでも漁っていろ
心からの笑みをこぼしながらぼくは応答した
おまえはきっと耐えられなくなる

重いと思うのか
おれが時間を巻き戻せないことを悔いるまでに
心を持った人間だと信じてくれるのか
ぼくはしばらく黙った後で

笑いながら泣いた
器用すぎるんだ忍ばせた選択肢
そこにぼくが気づかなかったらどうなっていた?
昨日と明日のあいだの小さな暗闇でふたりは泣きながら笑った

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【小説】鈍感とサバイバー

サバイバーって呼ばれるらしいよ。生き残って大人になれたら。そんなの嬉しくてマジ泣きそう。望んでないのに光栄すぎん?

夏が過ぎて水を抜かれた学校のプールは大きなゼリーの型みたい。ざらざらの縁に腰掛けてスニーカーの爪先を交互に揺らした。

スニーカー。ふむ。

おまえの話がホントであるなら、じゃあ、それはいつ買ったんだろう。誰に買ってもらったのだろう。それほど汚れてもいないし、ボロボロでもない。嘘なのか?今のこいつの話は?おちょくられてる?

「ああ、人は足元を見られるから、って」。

こちらの考えを見抜いたようにおまえが言う。

「世間体は気にするんだ。息子から何と思われようがちっとも気にしないのに、形の無い世間体には甘い親だよ。だから靴は割と良いやつ。おれも気に入ってる」。

おとなになったらなにになる?

そんな話をしようと思ってた。こんな話を打ち明けられる前は。

おまえは大人になったら自動的にサバイバーになるのか。その一単語でくくられて、復活を余儀無くされる。次世代のサバイバーを救いなさい。サバイバーではない私達にそれはできないから。社会に言われる。時に悲しい目を向けられる。

困ったな、とも、大変だな、とも言えずぼくはただ苔に似た何かを睨んでいた。

静かな笑い。笑うことを許されなかったやつってこうなの?

あのさ、おまえ、いつもそう。
人の話を聞いてる時にさ。
痛いよ心が痛いよって顔をするだろ。
騙されるよ。
優しすぎるもん。
やわなの隠せてないんだもん。
仕方ない、騙されるぜ、それは、ちょっと賢いやつに。

おれみたいに。

「え。おまえ、騙されたの?誰に?」
「ただの願望」
「騙されるのが願望?」
「騙されるのって、いったん信用したからだよ」
「うん?」
「誰かを信用した証だろ。おれは誰も信用できない。だから願望。わかんない?ごめん忘れて分かり合えないや」
「騙そうか」
「おまえが?」
「うん」
「おれを?」
「うん、騙そうか」

あ、こいつこういう笑い方もするのかと思うくらい笑われた。

「傑作、いいねいいね、おれおまえ欲しい感じ」
「ぼくが思うに、おまえは人生が短いと思ってる」
「違う?」
「違う?ってここで訊き返す奴が思ってるよりは確実にな。個体差、一年だろうが百年だろうが人の一生ってそんな短くないよ、おまえ、退屈のあまり幸福になると思う」
「ひでえ預言」
「預言はだいたいにおいてひでえよ」

乾いたプールを屈託の無い笑いでいっぱいにして。

「じゃあさ、待ってる」
「うん」
「信じて待ってる」
「おいサバイバー、馬鹿みたいに死ぬんじゃねえぞ」
「言われなくても、生きるしか知らない、馬鹿だもん」

クッソ話し過ぎたあ〜誰かさんのせいで〜とため息ついておまえは立ち去る。

ぼくを残して。去り際、頬に唇をあてて。

チャイムの音ではっと我に帰ったぼくは、いったい、いつ、どこで、なぜそうするに至ったか意図を不明に感じつつ先行者の後を追う。

キスか?定かではないがキスというものに今のは近似しているな?

そうか、感謝の証か。ぼくが預言を実現しても反故にしても、おまえが不幸になることはない。ぼくだけが荷を背負ったんだ。は、結構じゃないか。何の勲章も保障されてないんだ。生きたって、生き残ったって、呼称は無いんだ。

(キス?しかし、なぜ?)。

首を傾げつつ踵を返せばぼくの背後で置き去りの青がプールをいっぱいに満たした。

誰も見たことのない景色がなみなみと湛えられてありきたりの日常を欺くまで。

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No.846

澄んだ風に黒い髪がなびく
触らないで
誰にも何にも触らせないで
私はあなたのものだと跪いて欲しい

死がふたりを分かつなら
死をもたらすものを排除して
予測変換のでたらめをピリオドで黙らせる
冷酷になるくらい何度でもする

優しい笑顔の優しい人が
本当は怒りを湛えてるの知っていたんだ
分かるんだ
目を逸らさないとなじってしまうほどに

汚されなかった空白が
今は保身を嘆いている
誰にも言えないでいる
聞いてくれぼくは非常識なまでにさみしい人間

おまえはうつろな瞳でぼくを見る
うつろに見える瞳でぼくを見て
骨のように白い腕を差し出す
望むならきっと連れて行ってあげよう

甘美な極彩色の世界だそこは
望むことから解放されるそのものから解放
すべては取り上げられもう自由に悩まされない
知っているかあなたが苦しいのは自由のくせに空っぽだからだ

正論に次ぐ正論
ただしさは人を殺すと言うが
物理的にそれは可能だろうか
知らないが自分の体が溶けていく音を耳元で聞いた

ありがとうもさようならも言わない
十六で望んだ結末をいま手に入れる
いま手に入れたっていま手に入れたって
言いかけた台詞は後悔になる前に砂と吹き荒れる

今夜おまえは誰のもとに現れる
生前ぼくが愛した概念によく似た姿
少年少女の夢に出てきて甘ったるい夢を植え付ける
人ひとりの生を食らうずいぶんと息の長い死神なんだ

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【雑記】白紙に映す

A4ノートを買ってきて日記をつけ始めた。誰にも見せない、自分だけが書きたいことを書く用に。思えば人は(もちろん自分も)人に読ませる文章ばかり書いているな。作文もSNSもブログも。文章が伝える手段だから当然だが、ここだってそう。自己満足で、自分の好きなように書いている風でありながら、まったくそんなことはないんだ。例外的にバイアスがかかっていないということはない。なのでノートを買ってきた。毎朝、思ったことだけを書く。支離滅裂でいいし最低の人間のままでいい。何の狙いも衒いも不要である。私が死んだら誰かには読まれるかもしれないがそういうのも気にすることはない。これを書いているうちは、私が生きている間は、これが私の支えになるだろう。大袈裟なのかな。小学生の頃ずっと日記帳を書いていた。宿題とかではなく自分で勝手に毎晩。それは今でも残っている。いつから書かなくなったかというとそれがインターネットを使い始めてからの時期に重なるように思う。たぶんそう。手書きがタイピングになり、他の人の発信が目に入るようになった。ちょっとは比較するようになった。こんなに素晴らしいツールがあると知る反面、内面は逆に窮屈になったようにも思う。いいだけインターネットの世話になっておいてなんだが、こういうことも日記を再開して気づいたことだ。無駄にセルフツッコミしなくてもいい、セルフツッコミもそもそも読者を意識した上でのツッコミである、言われそうなことや思われそうなことを先回りにして潰す意味がある。それで文章が面白くまとまることもあるがなんだが矯正具のようにも思えてやはり実際に窮屈である。私は日記帳を書いていたそのまま詩を書くようになった。なんか現実をそのまま書き取ることが面倒になったのかもしれない。違うんだものな。言葉にするとなんか違うなという感じが拭えないし、言葉になってる時点でそれはもう大丈夫である気もするから。詩なんかもろ言葉じゃんって感じもあるが(セルフツッコミきた)、なんだろうなまだホヤホヤなんだよ。生。ナマの感じがする。あるものないもの、そのギリギリの境目にあって、いやまだ確定じゃないんだよって感じがあって、このまま差し出そう。ふう。と言った感じに終われるのが良い。文章や言葉は人に伝える手段としてだけでなく、書いた本人が考えや思いを捨てたり拾ったりするためにも使われるし、その機会を増やすことは大切と思う。ここはここで書く。それはそれで大切である。

2+

No.845

投げつけた言葉の
威力を確信できなかった
大丈夫だろう
甘えていたんだ

きみは強い
強くて平気だ
受け止めてくれる
衝撃に倒れたりせずに

季節が終わろうとするとき
始まりにばかり目がいって
大切なものを捨てたくなる
捨てて生まれ変わりたくなる

誰にでもできることじゃない
自由を渇望しないひとは
渇望する姿を見せなかっただけ
見せてくれなかっただけ

怒りの感情が何かに変わる
青い空に向かって、ほら吸い込んでくれ
酸素を、文末のかけら、夜の星の残像を
願うのは無力の証、そばにいたいと言え

会えたら言いたいこと
会えたら話したいこと
結んで開いた手で優しいまま驚かせたい
その瞳にも収まりきらない光量で以て

4+

No.843

逃げ込む先を探していた。本当は誰より早く見つけたかった。秘密なんか守りたくなかった。懐かしいものになじられるのは御免だ。あんなに暑かったのに。あんなに眩しかったのに。夏はまた過ぎるんだ。当たり前に過ぎるんだ。かき壊した皮膚が涙を流す、無視されたくなかった。耳を傾けてくれれば、あなたそんなに苦しまなかったのに。違う。違う。違う。否定して肯定を待ってる。おまえはぼくの単なる皮膚、あくまで構成要素、の一つ、剥がれ落ちて再生するもの、脆い命を包むもの。生きていたくない。呟いたぼくを「そんなはずはないよ」と否定する。否定なのに肯定する。生きているとこんなちぐはぐにたまに会う。生きていたくないんだ。振り払うように繰り返すと、言葉は放棄により終わる。豊穣、ぬくもりの世界。いつか消えるからいまあたたかい生き物の魂。ぼくを拾うために何を捨てたの。意地の悪い質問に、いいや拾わせるために捨てたんだ。そう答えるおまえの、躊躇わないところ、いつか自分にも向けられる眼差しだと覚えておくよ。責めはしないよただ覚えておく。

4+

No.842

思い出してから始めるなんて不純だよ。きみが唇を尖らせる。もっと他のことをしたら良いのに。忘れてたのなら。本当にはそれを望んでいないのなら。

誰かを攻撃したいんだな。攻撃された?そして、傷ついたんだ。図星だったんだ。そうだろう、正解は人を苦しめる。さっききみがぼくを苦しめたのと同じくらいに。

強くないのに、なぜ生きようとするの。ちっとも強くないのに。

きみの問いは問いから懇願に変わっていく。最初からそうだったかな。なぜなんて、考えたこともない。生きている実感が一日も無かった。少しだけ生命力の残ったおばけみたいに世の中を渡っていた。

まばたき。そう、瞬きなんだ。星が一瞬だけ光る。蝶々が羽を休める。次の瞬間にはもう、そう、別のことを考えるだろう。それと変わらない。意味を考えることも、生きることも。

むずかしいことではなんだ。

納得は、いってないだろうな。どんな言葉をかけたって納得しないのだから。言葉の役目は終わったようだ。きみは問答を放棄し、ぼくの背中に健やかに眠る。

5+

【雑記】やさしさと柔らかさ

人の変化に寛容では無いかも知れんと気づく。今かというタイミングで気づく。新しい一面を見せられると人によって裏切られたと感じるらしいな。それに近いのかも知れんが、分かったところでどうですかね(?)分かってるから分からないフリをしていたのもあるよ、だって自分は変えられないのだものな。開き直りと思うだろうしなんとか改造してやれ!という気にならんでもないがなるべく自分を改造することなく私は私のままで生きていきたいというかそういう崇高めいたことではなくて、だって無理でないか。変えるとか改造するとか生まれ変わるとか、怪しいし遠回りっぽいし無理だよ。少なくともそれを書きつけてる人間には無理だよつまり私には無理ということで寛容になれない、自分だけが守られたいこの不健全な精神を抱えながら何食わぬ顔をして生きていくのだろうか?みんな上手いよ、よくできてるよ、心配要らない。優しい人が豹変して見えても、あなたも私もそうかも知れず、どうせいなくなるのだ、死ぬより遠いところへ行くんだ。そう思うと夏がさーっと過ぎ去ってもう秋の気がする。気がするじゃなくて秋なんだろうな。風が違うし虫が鳴いてるし外へ出かけようと思う。規則正しい食事を時に崩して毒を仕入れに行く、浄化のために。浄化されない自分を思い知って本当に好きなものへ戻るために。だってそうだろう。

というようなとりとめもない思考を数分の間にずっと巡らせてるからもはや好きなんだろうな好きでやってんだろうな。いや違う嫌いだという声を聞きたいだけだろうな。何も異常ではないや。

3+

【雑記】そう言って私は

はあ〜?これいつ書いたものですか。良い詩ではないか。しめつけられる。めちゃすこ。

っていうかけがえのない自己満が無ければ個人ブログなど続かないのである。自己満様々・万々歳である。

予約投稿してるので、数日とか数週間前のが目に触れて、もう、まったく別物なのである。書いた時は書き手で、読む時は読み手で、両者の間に隔たりがあるのでそれはまるで別人の書き物なのだ。

そう思うと、これまでいったいいくつの別人を失ってるのだろうかと思うね。

頭の中に浮かんだこと、心の中に浮かんだこと、いちいち気にしてたら生きていけない発狂する。たまに気が向いたら拾って磨いて棚に飾ったりまた磨いたり叩き割ってさらに中から小さな宝石を取り出して「ほらね」と笑う。

そういうことを人は繰り返す。

でも、そういうことせずとも生きていけるからしないこともある。

残さなかったものや残せなかったものはどこに消えるんだろう。誰の目に触れなくても落ちた雨粒が巡り巡って花を咲かせるみたいに、海に流れ着いてビーチパラソルが集まるように、そういうことなのかなって思う。

どんな日常や幸せも、死骸の上に成り立ってるのかな、って。ダークな意味ではなくて、足元の砂とか埃とか、そういう小さいものをさ、どうでもいい、という時、それを聞いてる何かがあるような気もしてる。

ということも書かなければ残らなかったし伝わらなかった。

一瞬一瞬の出来事なんだ、ほんとうに。

そう言ってなつさんは窓に養生テープを貼り始めた。

4+