No.867

呪いも祈りに変わる
光をまとえば
遠くから聞こえる叫び声も
安眠を助けてくれる旋律

時間が流れて
月が昇る
いつか同じように見ていたね
名前は覚えていないけど

思い出すために忘れるの
出会うために別れるの
つなぐために手離すの
慈しむために突き放した

ずっとあるもののようで
いつまでも続くことのようで
永遠なんか要らないと
あなたは有限の中でいつまでも笑った

5+

No.866

薄い膜の向こう
名前を覚えていると
悟られてはいけない
初めてのように挨拶をした

産まれたんだものね
死んだんだものね
やり直しではないんだ
新しい命になったんだ

僕は神さまによそ見をされて
記憶が少し残ってるんだ
ただの初対面になりたいのに
きみは同じように笑うんだ

懐かしいね
事あるごとにきみがいう
なんだか、懐かしいね、
あなたといると懐かしいな

ふと、
良いのじゃないかと思った
本当を言っても
覚えてることをそのまま言っても
どうせ信じてもらえないなら

僕の話を聞いたきみは
そんな気がした、
と呟いた
そんな気がしたんだ、
って

うん、それきり
このお話はおしまいで
後にも先にも続かない
なんなら僕の創作かも知れないね

妄想と現実が混在して
どこからが本当か分からない
どこからが嘘かも
きみが何度も聞きたがるせい

境界線は今日もほどけていく
力を込めないリボンのように
するすると微かな音を立てて
あまりに甘い夢から隔たりを奪っていく

5+

No.865

傷をえぐれば許される
もう充分だと擁護してもらう
足りないと悲惨なまま
ぼくたちは居場所を失う

顔のない犯人
姿のない不特定多数
ぼくだってそうだ
ぼくたちだってきっとそうだ

光が眩しい
弱い力で前を向くより
眠っていても呼吸のできる
薄い青い終わりみたいな暗闇がすき

あのねで始まり
そうだねで終わる
ただいまとおかえりのように
生まれて死んでいくのだと理解をする。

7+

No.864

毛布の中で聞くラジオから
だれかの遺言が流れてくる
ここが世界ならいいのに
ここがすべてならいいのに

許される理由が見つからないから
息をひそめて
光に向かうことをやめにした
そんな決意もたやすく溶かし

さようならで仮死する
冷たい手で触ると
血のありかがよく分かるね
ふたりの意味がよく分かるね

優しいノイズにきみの遺言
かき消されずに繋いでいって
生と死を分け隔てないで
せまく暖かい宇宙をつくっていって

忘れようとしないで
忘れるとおりに忘れて
逆らわないで
夢で何度も再会させて

7+

No.863

僕たちは一度きりだ
実感できないことを語るとき
うそつき、と空から言葉が降ってくる
お利口に聞こえないふりができる

今年は一度きり
今日は一度きり
いまこの瞬間は一度きり
一瞬一瞬をつなげて雪原にしたよ

同じ時代に生まれたの
前世も来世も知らないよ
同じ次元に在ることの純粋
きみが日常になるという奇跡

6+

No.862

私は光がなくても生きられる
嘘でしょうと思うでしょう
逆なの、光があると生きられないの
謎謎のように感じるのは定着した証ね

あなたこの世界を正だととらえることに成功した
私が少し風変わりに映るかも知れない
それでいいの
それを望んだの、一緒に。

吐く息が少しずつ白くなって
人の手指が柔らかく温かなものに包まれる頃
ふと見上げた空に星がいっこも見えなくて
思い出すことを忘れたとしても

祝福されたこと
送り出されたこと
いつか迎え入れられること
舞台袖のような毎日で息をしていること

有限で綺麗なものを捕まえて
優しいものに捕まって
雪が降ったら私の言葉
雪が止んだらあなたの明日

音も無く区切りが一つ
ちいさな船を水難事故から救う
あなたの知らない世界の隅っこ
誰も知らないあなたの魔法で

6+

No.861

手を伸ばした
という事実が欲しいだけ
そういう触りかただね
誰も悲しませない

揺さぶられない感情は
何のため、とあなたに問うよ
答えられないあなたの目を見て
なぜ黙るの、と質すよ

理由なんてないんだ
つくらなけりゃ
意味なんてないんだ
欲しがらなけりゃ

上手になれない
器用になれない
ならなくていいよ、
そのままでいいよ、

あなたが言うのを知って待ってる
ぼくは小さな臆病者で
隙あらばいつでも消えたい
死ぬんじゃあまりに大掛かりなので

あなたに残る方法が見つからない
毒にも薬にもならない恋が
たったひとつの爪痕を残したくて
生まれ変わるくらいしてみせると豪語する

6+

No.860

百年に一度の出来事を
奇跡と呼んでいいのか迷う
口にしていいのか
君に伝えていいのか

二つ並んだ小さな星は
この距離じゃないと分からないんだ
ぼくのぼくのぼくの血がまだ
ぼくのものではなかった頃の出来事

生きている人は
死ぬなんて思いもしなかったよ
ぼくだってそう
会うことのない誰かへ血を送る

奇跡はこんなに日常にあって
迷うなんてちっぽけだよ
ほとんど隣同士に近い距離で
騙し合うための嘘なんて止めろよ

7+

No.859

ずっと守っていた
守られているのは自分だと
認められずに血を流した
綺麗な赤ほど生臭いな

(目と鼻のどちらかが嘘をついた)

僕の祖先が誑かしたんだ
愛をお告げよ
雛が羽ばたいて
歌を囀るより先に

目を瞑って
つむって
そのまま潰してしまいたかった
器官は嘘をつきたがるから

繰り返すだけ
呼吸
四季
生と死、連綿と
繰り返すだけ、同じように

鉄でできたレールなら
お喋りしながらはみ出てゆくのに
はなうたの合間に
だけど話題は生臭い繋がりだから
気がふれた振りで、ひらり離脱を謀る一人

8+