薄い膜の向こう
名前を覚えていると
悟られてはいけない
初めてのように挨拶をした
産まれたんだものね
死んだんだものね
やり直しではないんだ
新しい命になったんだ
僕は神さまによそ見をされて
記憶が少し残ってるんだ
ただの初対面になりたいのに
きみは同じように笑うんだ
懐かしいね
事あるごとにきみがいう
なんだか、懐かしいね、
あなたといると懐かしいな
ふと、
良いのじゃないかと思った
本当を言っても
覚えてることをそのまま言っても
どうせ信じてもらえないなら
僕の話を聞いたきみは
そんな気がした、
と呟いた
そんな気がしたんだ、
って
うん、それきり
このお話はおしまいで
後にも先にも続かない
なんなら僕の創作かも知れないね
妄想と現実が混在して
どこからが本当か分からない
どこからが嘘かも
きみが何度も聞きたがるせい
境界線は今日もほどけていく
力を込めないリボンのように
するすると微かな音を立てて
あまりに甘い夢から隔たりを奪っていく