No.866

薄い膜の向こう
名前を覚えていると
悟られてはいけない
初めてのように挨拶をした

産まれたんだものね
死んだんだものね
やり直しではないんだ
新しい命になったんだ

僕は神さまによそ見をされて
記憶が少し残ってるんだ
ただの初対面になりたいのに
きみは同じように笑うんだ

懐かしいね
事あるごとにきみがいう
なんだか、懐かしいね、
あなたといると懐かしいな

ふと、
良いのじゃないかと思った
本当を言っても
覚えてることをそのまま言っても
どうせ信じてもらえないなら

僕の話を聞いたきみは
そんな気がした、
と呟いた
そんな気がしたんだ、
って

うん、それきり
このお話はおしまいで
後にも先にも続かない
なんなら僕の創作かも知れないね

妄想と現実が混在して
どこからが本当か分からない
どこからが嘘かも
きみが何度も聞きたがるせい

境界線は今日もほどけていく
力を込めないリボンのように
するすると微かな音を立てて
あまりに甘い夢から隔たりを奪っていく