2+

No.552

明方に夢想する
これは誰かの夢じゃないかって
光を孕んだ
闇は静かに駆逐される

目に届くだけじゃない
あたためるために
太陽が昇って
なけなしの寂しさを拭う

遠いどこかで
あなたも見ているといい
分け隔てないこの空を
そして不自由に気づくといい

僕たちに与えられた程度に
真相は雲のように形を変えて
それぞれの感情も留まらないって
変わらないことを誠意と呼ばないで

僕が手放したもの
あなたが手放したくなかったもの
それだけで十分
本当はそれだけで十分なことなんだ

隠し事は川底から引き上げられる
かつて命だったものの形をして
大人になるなんてずっと先のことだった
僕たちは見つけて覗き込んだ

単なる死骸がどうしてあんなに
周りの風景を掠めるくらい
呼吸を忘れるくらい鮮やかだったろう?
かつて生きていたからだとは気づけない

夕日を照り返す五臓六腑
僕たちは言葉を分けた
通じるのに通じない
それよりは幾許かマシだろうと

日に縫い目などないように
変わりゆく僕たちにも嘘偽りがない
それほど高度になることはない
いつまで経っても覚束ない

死者ばかり美しいか
そんなわけはない
どちらからともなく始めた遊戯
生きている者にも手向けの花を

運命のように出会ったこと
忘れても染み付いている
こみ上げる涙は取っておく
百年後に来る再会のために

2+

No.551

欲しいもの
禁じられている
蒸留されて
宝石になるために

きみは手を伸ばす
その手で支えるんだ
支えられていると思っていただろう
きみなしで夢はこの世に居られない

目を覚ますたび無色の光が
からだいっぱい満ちてきて
おはようを言ってくる
昨日のことなんか忘れたみたいに

何度も逃げ出したのに
びくともしないで
枕元にある
不安を食い尽くしてかがやく

たまに思い出すんだ
思い出すことを忘れないよう
手のひらに浅く彫ってある
きみもいつかいなくなるって

何も特別なことじゃない
特別は特別に埋もれて日常になる
だからって平然とできるわけじゃない
生まれながらに贅沢なんだ

なのに不思議でたまらない
きみたちはまるでこう生きる
百年後も千年後もここにいるみたいに
何食わぬ顔で他人を傷つけ他人を欺く

きみたちの一生は花の一生だ
無知が癒しであることの認識すらないまま
素直になることを放棄する
それでいて何もかも知ったふうに笑う

喧嘩している間にも
沈黙を保っている間にも
時は刻まれる
残りの明日は減っていくのに

手遅れになんないように
あとで泣いたりしないように
ぼくが今きみを愛そうとして
好きだって言うと急に泣いたりする

やわらかくて弱い者、
ちいさくて賢い生き物、
きみがぼくを慈しむ時
ぼくはきみの集めた幸福にさらされている

1+

No.550

ここはあまりに色彩豊かで
どんな夢も生きてられない
誰も見ることがないならば
あなたが忘れてしまうのならば

太陽は同じ場所でリセットされた
ある人はそれを恨んだ
ある人はそれを幸せだと言った
抽斗の剃刀がひとりでに血を流す頃

まだ見ぬ接続口を探してる
仮面のままぬくもりを探してる
ぼくもまた人間ですと証明したくて
人間にだけはなりたくなかったのに

密室でカレイドスコープ
(肉体は連れていけない)
想像のプラネタリウム
(あなたが粒子に戻るまでは)

なりたかった?
なれなかった?
いいや、なろうとしなかった
それが真相、それは秘密。

何回殺した?
(何回でも)
何人死なせた?
(ぼくばかりを)。

2+

No.549

あ、ここまでだ。
過去に体験したわけじゃない
誰かに聞いたわけでも
ましてや標識があるわけじゃない

行きどまりだ。
って、そうわかるんだ
分かる、ってことは願望だ
ぼくたち、ここを行きどまりにしたい

見据える強さが欠けていた
でも誰も責めらんないでしょ
って反論する強さだけあって
つまりとても幼かった

幼さは無知で罪でかけがえがない
土台となって形成を支える
積み重ねる全てがこれへ捧げられる
ぼくたちに眠りは要らなかった

それでいつもハイテンションだった
まどろみは克服すべき仇だった
おとな、連れて行くつもりなんだろう
秩序があって平穏で退屈な日常へ

それでぼくたち逃げ出したんだ
夜が明けたら太陽の影へ
赤と青の実が惑わす深い森へ
時には野良猫の中へだって

何者かわからないでいたい
お互いに名前なんてなかった
どうせお互いしかいないんだから
景色に馴染むほどやわでないんだ

(そう、信じていたかったな。)

誰かに首を絞められる感触で気がつく
苦しくないのはきっととっくに死後だから
裏切ったのはどちらか?興味はない
多少の強がりであることは認める

なかなか思い通りになれなくてごめん
名前なんてつけようとしてごめん
あなたの選択の結末を見届けられない
それだけが唯一の心残りかな。

2+

No.548

言葉が出なくて空を見た
口に星が落っこちた
咀嚼して飲み込んだんだ
あす別の生き物になれますように

待っていれば落ちてくるのか
君の心がままならないことに
腹を立てているようではまだ
これからもまた翻弄されるんだ

差し出した手のひらをすべらせる
表示された色がイメージと異なる
違う、もう一度すべらせる
繰り返すうちに欲しいもの忘れてしまった

先に壊したほうが痛みも少ない
壊れやすいものを守ることは難しい
少なくとも僕にとってはそうだった
つけ込まれやすい平和はリスキー

目を開いておくよう伝えよう
無責任な甘い夢を見ないように
夜のすみっこを探さないように
僕に隠れて泣かないように

口を開けば星が降ってくる
躊躇わずに噛み砕いて飲み下せ
何千何億もの物語が無効になる
誰かを傷つけずに誰も生きられない

君は僕を傷つけていく
僕も君を傷つけていく
そうすることでしか埋められない
そうしたって分かることは何一つなかった

2+

No.547

嫌いになったりしない
理解できないくらいで
期待もしていない
拒絶されてもきっと平気

たぶん存在が邪魔なんだ
空気のようになりたい
あるいは水、差し込む夕陽
感覚で察知できないものに

記憶が形を持たないことは幸いだったね
恥ずかしくても生きられる
分かり合えなくても願うことができる
君は君の幸せを感じていてと

どうしても信じられなかった
信じられないままそばにいた
誰にも責められなかった
責められるはずもなかった

鍵は一番近くに隠しておいた
目に届いたほうが安心だろう
ぼくが毎日水を取り替えた花瓶だ
君は人より植物を愛するから

ごっこ遊びの延長なんだ
子どものまんま成長していない
嘘は思いやりの一形態で
器用に優しい毒を流し込む

みんな幸せになって欲しいなら
この世界を壊さないと駄目だったね
ただそれって現実的じゃないから
小さな単位を先に壊すんだ

生まれて今までに見た
夕焼けが一気に押し寄せてくるんだ
輪郭から解き放たれて
もういいよ、もういいよ、って

ぼくを迎えに来たんだ
君は強いから平気だよ
君は弱いから平気だよ
どんな言葉にもとらわれて欲しくない

何も言わずに消え去っていく
そのおかげで君は忘れない
ぼくを忘れない、忘れられない
卑怯だ、憂鬱だ、これが定めだ

3+

No.546

失うため生きた
失うことがしたくて
失えるものを手に入れ
約束どおりに失った

朝の海が橙だった頃に
熱中した自傷に似ていた
ぼくたちは持っていない
だから拾いに歩いた

液晶画面から流れ出す
流れ込むそれを
毒だとわかって
受け入れるんだ

解毒作用を確かめたくて
死の淵に立ちたくて
大丈夫か知りたくて
誰かを安堵させたくて

とっくに壊れているよ
やさしい声がささやく
その声を聞きたくて
何度も馬鹿をやっている

発狂の過程だよ
いやに長引くグラデーションだ
振り返れば平気かな
きみはいつから平気になった?

信じたものが形を変える
信じるほうが狂ってるんだよ
それは覆せない事実だ
夜が来るたびに最後を思う

可愛く思えないんだ
傷つかない生命なんて
ぼくがいなくても
生きられるかたまりなんて

(だって、そうだろ?)

口々に呪いをかける
古めかしい儀式は新しい
手のひらだけで割った卵から
青い鉱石が転がり出てくる

ピンを止めるんだ
どこかで時間を
変わらないことを恐れないように
もう誰もしなくなった恋とかを始める

3+

No.545

懐かしい声がした
子ども向けチャンネル
エンディングテーマ
きみの名前がそこにある

人違いかな
珍しい名前じゃないし
でも当たってるよ
そう考えたほうが世界はやさしい

三分間の夕立が
ミニチュアの虹を連れて来る
わたしここまで歩いたんだ
きみはそこまで走ったんだ

悪くないね
どちらの景色も
きっと悪くない
正解や間違いに怯えない限り

生きていける
何も犠牲にしなくても
生きてこれたよ
好きを嫌いに変えなくても

3+

No.544

誰かが残した道しるべ
初めてそれを見つけたぼくは
道しるべを立てた人を恨んだ
おまえのせいだ

幸せだったのに
楽しかったのに
おまえが道しるべなんて作るから
自分が迷子だと気付いてしまった

あの人を抱きたいと思ったことはない
抱かれるあの人を見たかったんだ
あの人が誰かに愛されてやまない光景は
この世でもっとも美しいだろうから

純粋だったのに
本心だったのに
ひとつの道しるべが水を差した
広く見聞きなんかするんじゃなかった

手綱が緩んだのを敏く確かめ
ぼくの馬は駆け出した
草むらに投げ出されたぼくはひとり
この世界には隅っこがないことを知るんだ

3+

No.543

届かない手紙を書いている
出さない手紙を書いている
宛先はきみで送り主はぼくで
手紙とは名ばかりの走り書き

ばかな勘違いしている人のほうが
幸せに見えることってあったんだ
いずれぼくもそうなりたいんだよ
思って、ガラスペンを手に取った

きみがいない世界は、
味気ないです。
つまらないです。
寂しいです。
あいたいです。

ここまで書いたぼくは笑い出し
おもむろに新たな白紙を引っ張り出す
今しがたの完成品は没にする
未完成でいられなかった物は没にする

きみがいない世界は
せいせいします。
快適です。
もし生まれ変わっても。
またあいたいと思えません。

書き終えた走り書きを三度読み返し
そこに嘘偽りのないことを確信する
いや、確信させようと試みる
そして見事に失敗をする

出さない手紙と出せない言葉
叶わない願いと叶えたくない思い
きみに後悔なんてさせたくないのに
真逆をぼくは強いているんだ

2+