No.579

あんな人になりたいんだ
きみがそう口にするたびに
死んじゃいたいって思った
朝にならない夜を行こう

団地の壁に太陽が反射してる
聞きなれない靴音
聞きなれないことにしたかった
気分まで分かる靴音をたてて

今日も誰かが愛をする
昨日も誰かが愛をした
めくらましで強がりで
寂しくていい加減に

分かり合えないね
この気持ちも考えも
分かり合えたと思った時
ふたりは永遠にふたりなんだね

じゃあひとつがいいな
摩擦がないから
そして何より愛がないから
ひとつでいることはまとも

まともな光を避けて夜を歩く
そのうちに光が分かる
それが何だったか
それが、本当は、何だったかが

それは甘え
それは手段
それは祈り
長い秘密を明かすための、ずるい言い訳

1+

No.578

露呈したい
吐き出したい
曝け出したい
隠さず言いたい

ほら、無理だった。
そうでしょう?

無力だと知らしめたい
救えないと叩きつけたい
降りてはこられないよ
ロープがないんだもの

あなたはやがて戻る人
帰り道を確かめられる人
迷った時にいま迷子だとわかる人
つまりかなしいほどに真っ当な人

手のひらに出したい
膨張した挙句張り裂けた
心臓みたいな果実
真贋は確かめようもない

すくすくと伸びやかに
歌声のようにありたかった
あなたには容易いでしょう
生きて、転んで、それでも幸せだったと笑って。

眩しすぎたんだ
もったいないと思ってしまったんだ
誰がぼくに教えたんだろう
こんな感情なんて寄越したんだろう

ほら、無理だった。
そうでしょう?

到底抱えきれないんだ。

1+

No.577

ぐわんと鳴った
頭の中が
あるいは視界が
簡単に倒れた

人はかんたん
かんたんに、つくられる
かんたんに、こわされる
生き死には非常にかんたん

神さまを信じる人が怖かった
なにを言っているんだろう
なにを見ているんだろう
いないのに、そんなもの、いないのに。

好きを殺すのはべつの好き
あなたが思いを遂げたために
あの子はひとりで泣いたんだ
ないよ、美しくない、わけがないよ

叫びも衰えくぐもっていく
まともでいたいと思ったがために
あなたは気づいてはいけなかったのに
備えてはいけないものを手に入れたんだ

白いつま先がぼくの前で止まる

だいじょうぶ、
きみもいつかわたしたちみたいになれるよ。

きれいな表情で教えてくれる
ああ、出会った、また、信仰、だ。
それを優しさだと感じてしまった
もう生きる理由はないって確定する。

1+

No.576

時間をかけて死んでいく
笑ったり泣いたり
体調を崩したり
そして持ち直したりしてさ

まぶたの向こうにきらめく
目を開けている時より暖かい
止まった時間はぼくの
永遠にぼくだけのもの

いつか並んで見た映画
こっそりハサミで切り刻んだ
あのシーンがちらついている
繋ぎ止めようとする

得体の知れない
知ろうとしない
罪のあるもの
分かり合えなかった罰で

溶け合うのは簡単
なので肌がつくられた
ずっと昔の胎内で
葛藤のための輪郭が

そして生まれた
まろやかな薬品の匂い
脱脂綿の陰から見る空
赤でも青でもない、あれが本当の空。

1+

No.575

どうしよう、気づいてしまった
僕はもうあなたのことあまり、
好きじゃない。

この気持ちを誰に伝えたらいいんだろう
泣きたくなった夜があって、
今までだったら、
あなたが話を聞いて聞いてくれた。

だけど今度は無理だよな、
さすがにこれは言えないよな、
言っちゃいけない。だよな、

桜吹雪の中で見たあなたがあんまり綺麗だったから
恋に落ちたと錯覚していたのかもしれない
本当は恋が僕たちを落としただけ、
なんてことはないのかな

このまま交わることもない、それで平気
一人はひとりのまま生きていく
耐えられないで二人を落としたんだ

あなたのことを好きって、
言えなくなくなってしまった僕は別人みたいだ
これまでは落とされた自分のことを別人みたいだと思っていたのに

変わってしまった
目に映る水面も星空も
変わらないあなたばかりを残して
青春が終わっても世界は変わってばかりいる

あなたを忘れそうな僕は、
簡単に消されちゃいそう、今にも、
それだけが怖いな
手をつないでなんて言えないのにな
もう一度なんて、言えないのにな。

4+

No.574

赤い糸なんかじゃない
指先から伸びたのは
誰にも言えない秘密ばかり
ぼくたちを繋ぐ唯一

断ち切ることは出来ない
刃物の使い方を探すうち
余計に絡まったんだ
どちらかが意図してるのかも

そして目を覚ます
湯気が光を包んでいて
はちみつの匂いにくすぐられる
正解を掴み損ねて目を覚ます

きみとぼくはそれぞれの制服を着る
それぞれの帽子をかぶって
それぞれの武器を持つ
出口だけは同じ毎朝、さよならも言わない

刺し合うフォークも
したたる赤い血も
皿の上だけで起こる出来事
空っぽだけをこの部屋に残して

2+

No.573

深夜のバス停
冷たい手を握ってる
この命が終わる時
瞬間を逃さないでいられればな

生きるって何かと物騒だね
髪に残る光跡がぼやけていく
ただそれを見ている
知らない言語を判読するように

何本かやり過ごした
ふと時計を見そうになって
袖口を引っ張った
あなたの頬は赤くならない

他人が網のように二人を追い込む
しかし目をくぐって逃げ出せる
先のことなんか考えないで
百年後に後悔するのかも

ぼくたちは考える
何をか教え合うことはしないくせに
考えてるってことを隠したりしない
そのせいで会話は少ない

殺すというのも一つの手だよな
間違った考えは優しくて
まるで正しい
たったひとつ浮かぶ灯のよう

もしどちらかが口にしたって
どちらにも正すことはできないだろう
こんなに途方に暮れているんだもの
こんなにも純粋であるんだもの

砕かれても星になったりしない
雪になって毎年降ることもない
埋め尽くすことも覆うこともできない
何よりそしてもう会えない

溶け合いたかった
最高の思い出も全部
何本目かのバスが二人の前を通過する
あなたはとつぜん気づいて顔を上げる

もう見えていないんだ、私たちって

手を握ると握り返してくる
とっくに物事を終えていた
安堵のため息をもらして空を仰ぐ
知らない星座ばっかりだってあなたが笑う

2+

No.572

ワルツを
ワルツを
誰もいないホールで
キラキラが舞っている

実体未満の感情
打ち明けられなかった秘密
こぼれなかった涙が
満月に引き出されて

輪郭がにじんでる
ぼくから連れ去ろうとする
鮮やかさは奪われて
優しさが最愛を殺すの

そんなこともある
そんな夜もある
ダンスを
ダンスを

誰だって一人で踊る
視線が絡まないよう
迷わず振りほどるよう
淵に来て、ターン

閉じ込めても良い
どこに行かせなくても良い
きみは年をとった子ども
孤独だったぼくが光を編んでつくった命

4+

No.571

七年前に買ったレースが今日も窓辺で揺れている。本を、読みたくない。行間が躊躇い傷に見えるから。思い出すかもしれない。あなたに救いはあったんだろうか。町内放送が空に付箋を貼っていく。群れていた小鳥たちが散り散りになって虫を捕まえに行く。たまに付箋に衝突して墜落してくる。深呼吸をひとつ。これだけのために何百年もかかった。瞬きをひとつ。このために千年を超えてきた。どうしてちゃんと分かりやすくしておかないんだろう。見落としてしまうところだった。分かっているのか、見落として、しまう、ところだったんだ。すべて仮定でしょ。狡いんだから。あなたは呆れたように笑っている。この奇跡のためにいくつもの夜を越えてきた。数え方が分からなくなるまで夢を見た。ここも妄想の続きかも知れない。いつだって作り出せる体温は証拠にならない。なかなか醒めない。深い、長い、物語だ。甘い、眠くなるような、今となってはもう、欲しかったかどうかも、分からなくなるような、いっときの風だ。

5+

No.570

そうでもなかった
言っちゃっていいかな
前ほどじゃなかった
そう言っても?

雲と風ばかり流れる
見えない光について書いている
視覚に負けないように
ここにない香りを嗅ごうとして

好きな人の好きだった人の
出ている映画がそこそこ綺麗で
好きになってしまったんだ
あなたが今ようやくわかった気がする

同じふうに見ていられない
その軸はあなただけのものだから
舞い上がるプラスチック片
頭上を覆う枝葉に悲鳴が絡まる

平気でいることができたんです
あなたの愛するものが誰かに愛されていると
悪くないと思えたんです
そしてマグカップに新しいミルクを注ぐ

生きていくんです
死ぬことなんか考えないで
あまりに当たり前でしょう
生きることは死なないことです

もったいないものなんて無いんです
向こう見ずな選択肢は失われた
あなたが素直になれないくらいで
ぼくが支配する何も妨げられたりはしない

3+
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