No.870

使いきれなかった生を
もう一度まわしていく
嘘だって言われても
その言葉に圧力はないから

自由には色があって
きみの目と同じだった
だから離せなかった
だから何度も終わらなかった

百年後ぼくはここにいない
百年前ぼくがここにいなかったように
今日もまたかさぶたが剥がれるように消えて
明後日また生まれるのを楽しんでいる

日常から落ちこぼれた非常が
微かな光を乱反射させ増大する
正体を見抜けなかった大人たちが
子どもの真似をしてそれが本当に下手くそ。

12+

No.869

こんなもの大切にしてどうなるんだ
大切なものを辞書に探すような奴だ
光るものを疑って暗闇に引きずり込むような奴だ
きみの幸せを願えなくて一緒に落ちろと言って
受け入れられてなお笑えなかった奴だ
きみは頭がおかしいんだ
だから僕といて平気に笑うんだ
楽しいとか幸せだとか言うんだ
そんな君を心から羨ましいと思うから壊れて欲しい
知らないところで傷つけられるのは嫌だ
知らないやつに曇らされるのは我慢がならない
考えたくもないのに何億回も考えてしまって
一度で済むなら数として正しいので今からきみを解放する
ありがとうとさようならの無い人生に終わりが来たよ

7+

No.868

今日も世界の美しさを誰とも眺めなかった
他の贅沢を知らなくて他人の情事に首を突っ込む
お金はあるだけいいけれど言葉は控えめに悪どい
勇気を、もらっていたんだ
無いほうがきっとましだった勇気をもらってしまって
あなたの世界が輝いていることを知ってしまって
僕は生まれ変わってもそこへたどり着けない気がして
傷つけることでしかあなたに近づけないと信じてしまって
傷つけることのできなかったあなたを沈みながら眺めた

3+

No.867

呪いも祈りに変わる
光をまとえば
遠くから聞こえる叫び声も
安眠を助けてくれる旋律

時間が流れて
月が昇る
いつか同じように見ていたね
名前は覚えていないけど

思い出すために忘れるの
出会うために別れるの
つなぐために手離すの
慈しむために突き放した

ずっとあるもののようで
いつまでも続くことのようで
永遠なんか要らないと
あなたは有限の中でいつまでも笑った

4+

No.866

薄い膜の向こう
名前を覚えていると
悟られてはいけない
初めてのように挨拶をした

産まれたんだものね
死んだんだものね
やり直しではないんだ
新しい命になったんだ

僕は神さまによそ見をされて
記憶が少し残ってるんだ
ただの初対面になりたいのに
きみは同じように笑うんだ

懐かしいね
事あるごとにきみがいう
なんだか、懐かしいね、
あなたといると懐かしいな

ふと、
良いのじゃないかと思った
本当を言っても
覚えてることをそのまま言っても
どうせ信じてもらえないなら

僕の話を聞いたきみは
そんな気がした、
と呟いた
そんな気がしたんだ、
って

うん、それきり
このお話はおしまいで
後にも先にも続かない
なんなら僕の創作かも知れないね

妄想と現実が混在して
どこからが本当か分からない
どこからが嘘かも
きみが何度も聞きたがるせい

境界線は今日もほどけていく
力を込めないリボンのように
するすると微かな音を立てて
あまりに甘い夢から隔たりを奪っていく

4+

No.865

傷をえぐれば許される
もう充分だと擁護してもらう
足りないと悲惨なまま
ぼくたちは居場所を失う

顔のない犯人
姿のない不特定多数
ぼくだってそうだ
ぼくたちだってきっとそうだ

光が眩しい
弱い力で前を向くより
眠っていても呼吸のできる
薄い青い終わりみたいな暗闇がすき

あのねで始まり
そうだねで終わる
ただいまとおかえりのように
生まれて死んでいくのだと理解をする。

6+

No.864

毛布の中で聞くラジオから
だれかの遺言が流れてくる
ここが世界ならいいのに
ここがすべてならいいのに

許される理由が見つからないから
息をひそめて
光に向かうことをやめにした
そんな決意もたやすく溶かし

さようならで仮死する
冷たい手で触ると
血のありかがよく分かるね
ふたりの意味がよく分かるね

優しいノイズにきみの遺言
かき消されずに繋いでいって
生と死を分け隔てないで
せまく暖かい宇宙をつくっていって

忘れようとしないで
忘れるとおりに忘れて
逆らわないで
夢で何度も再会させて

6+

No.863

僕たちは一度きりだ
実感できないことを語るとき
うそつき、と空から言葉が降ってくる
お利口に聞こえないふりができる

今年は一度きり
今日は一度きり
いまこの瞬間は一度きり
一瞬一瞬をつなげて雪原にしたよ

同じ時代に生まれたの
前世も来世も知らないよ
同じ次元に在ることの純粋
きみが日常になるという奇跡

5+

No.862

私は光がなくても生きられる
嘘でしょうと思うでしょう
逆なの、光があると生きられないの
謎謎のように感じるのは定着した証ね

あなたこの世界を正だととらえることに成功した
私が少し風変わりに映るかも知れない
それでいいの
それを望んだの、一緒に。

吐く息が少しずつ白くなって
人の手指が柔らかく温かなものに包まれる頃
ふと見上げた空に星がいっこも見えなくて
思い出すことを忘れたとしても

祝福されたこと
送り出されたこと
いつか迎え入れられること
舞台袖のような毎日で息をしていること

有限で綺麗なものを捕まえて
優しいものに捕まって
雪が降ったら私の言葉
雪が止んだらあなたの明日

音も無く区切りが一つ
ちいさな船を水難事故から救う
あなたの知らない世界の隅っこ
誰も知らないあなたの魔法で

5+

No.861

手を伸ばした
という事実が欲しいだけ
そういう触りかただね
誰も悲しませない

揺さぶられない感情は
何のため、とあなたに問うよ
答えられないあなたの目を見て
なぜ黙るの、と質すよ

理由なんてないんだ
つくらなけりゃ
意味なんてないんだ
欲しがらなけりゃ

上手になれない
器用になれない
ならなくていいよ、
そのままでいいよ、

あなたが言うのを知って待ってる
ぼくは小さな臆病者で
隙あらばいつでも消えたい
死ぬんじゃあまりに大掛かりなので

あなたに残る方法が見つからない
毒にも薬にもならない恋が
たったひとつの爪痕を残したくて
生まれ変わるくらいしてみせると豪語する

5+