2+

no.435

できそこないで安心をした?誰も汚いなんて思っていない。一番を知っているのに。本音を口にしたって嘘をついている気がして何も言えなくなる。(だって、きみに、嫌われたくない)。傲慢だよ。好かれる努力もしていないのに?そう、これが、まだ、はじまりであるせいだ。森の奥に隠せばだいじょうぶだと思っていた。それでいて、今すぐ見つけて欲しいと思った。こんなにわがままだったなんて。知らない生き物を見ているよう。炭酸水越しに見る世界。(生きても、いいよ)。伝えたいのは逆のことかも。(どっちでも、いいよ)。歪んだ言葉を耳にする。優しい。喉ばかり正常で、飲み込んだなら発する。ぼくの不器用さが誰かを救うなら。うまくできないんだ。何も、うまく。美しくありますように。きみのせいで今日の朝も明るい。美しく、なりたい。きみのいるせいで、この世界から目が離せない。

2+

no.434

君がいなくなって僕だけが残った意味を考える。この街がうしなったものについて。前と後で何か変わっただろうか。もったいぶって答えを先延ばしにしている?誰も気づかないマジックアワーも水たまりにうつる空も。のぞきこんだら君から背中を押されそうで、だから、しない。目を離したすきに読みかけの秘密が暴かれてしまう、すごろくの上で繰り広げられるインチキ合戦、にせものの三角形に心惑わされること。もう、無いなんて。夢みたいだ。とんでもない、夢みたいだね。もう一度雨が降っても君に呼び止められることがないなんて。悪口を言っても怒鳴られることがないなんて。どうせ消えてしまうのなら消してしまえばよかったな。それをしなかったら何がごほうびになるの?いつまでも踊っていたかっただけ。何も知らない夜に。明日のことを未来なんて呼びたくなかっただけ。明日はただの明日だ。僕にけだるい空腹を持ってくる。行き交う細胞は愚痴なんか言わない。君がきれいだねと言ったこの目は、もう誰にも褒めてもらえないだろう。睨んでいく。キャットフードを知らない猫みたいに。平気だって言う。ちっとも違っていても。明日は明日。今日は今日。血は今も赤い。蜜に濡れて重たいまつ毛で風向きを知る朝。わるくないだなんて、つまらない嘘をつく。

1+

no.433

みんなすこやかであってほしい。きれいごとだって笑うんでしょう?生まれたときに、いちばん好きだったひと。ぼくの、いつも、大好きになるひと。わかっているなんてうそだったね。でもそれは、それしかないひとの、せいいっぱいの「だいじょうぶだよ」だった。支え合えないこと分かってる。少しでも誤解されないよう、怯えながら歩み寄るしかないことも。二度と戻らないんだとしても。未来は想像していたよりずっと、ずっと、なんにもない。ふたりは絶望にすこしだけ期待していた。夕焼けがきれいな日に死にたいね。まだ柔らかさのある、しめった手をつないで。音楽の教科書が鞄に残ってる。(あなたたちの選んだ楽曲は何の未練にもならない)。かすり傷ひとつひとつはぼくたちを守るものだった。昨日、道で、見た、内臓と毛玉がいっしょくたになった小さなもののようになれるかな。分別のつく前に。お互いの手がまだ愛しいうちに。やがて分かってくるんだ。それでも生きていけちゃうことに。他人と自分のあいだにある時差ぼけは修正できるってことに。笑うことも泣くことも自然だってことに。緑に隠された夏休みの入り口。ぽっかり空いた穴の奥には何があるんだろ。誓ってこれは好奇心だ。もう行っていいでしょう?この先を知りたいんだ。ぼくたちに関係のあること。のぞいてもいいでしょう?贅沢に呼吸できたこと忘れないから。数字になって会いに行くよ。

3+

no.432

人体に珊瑚色は備わっていない。きみはぼくを凡庸にしてしまう。泣くこと、こんなに簡単だったんだね。壁なんかなかった。見えないものを勝手に見る目が、真贋を見極めるふりをしていた、他に使い道のない特権で。

夏になると現れるぼくの人魚が、もうシュートできないバスケットボールを抱えている。卵を守るみたいに。楽園は液晶の中でじゅうぶん美しいからわざわざ本物を見に行く必要はなかった。ワンルームで、溶けない氷にシロップをかける。月額4万円の。

人魚は断罪のためなんかじゃなく、他愛もないわがままを言う。そしてぼくには拒否しない自由がある。永遠なんてどこに見つからなくてもいい。いつだって感じることができるんだから。シアンが足りない、この、他所者を迎え入れるにはあまりに怪奇なこのワンルームパラダイスにおいて。

まばたきするたびに鱗がオーロラに光ってる。痛いです、神さま。はやく終わりにしたいです。そう、これも、わがまま。以前の、言葉、の遊戯。子どもみたいにいつまでも無頓着なわけじゃないよ、きみがもう履かなくなったシューズを壁にかけっぱなしでいるのは。優しくならないでほしい、許すだなんて言わないでほしい。王子様になれないなら、ずっと嫌われていたいんだ。

泡にならないよう、消えていかないよう、きみが期待したってぼくは裏切らない。それがぼくたちの過ごす楽園での、たったひとつの、さいしょでさいごの、破ったとしても誰にも裁かれない掟。小瓶の底にいるのと変わらない。悲劇とは思えないでたゆたっている。

夢に見ながら。口ずさみながら。たまに目配せをして。笑い合ったりもしながら。運命、なんて、すごくどうでもいい。心底どうでもいいです。名前なんて剥奪してもいい。ぼくが加害者であろうが、きみが被害者であろうが。まるで過不足がないね。だけど人前では悲しい顔をしていようね。だって、平気だろう?

1+

no.431

潮が引くのにさらわれないぼくを意識していた。太陽がのぼっては月に追いやられ、夜の上に朝が何度も降り積もっていた。

雪を初めてみたあの人みたいに一日の終わりと始まりを見続けたって飽きることはなかった。拳銃、それは、友達ですか?

複雑めいたアルゴリズム。本当はとってもかんたんなこと。願いを打ち破られないよう魔法をかけてあるんだ。それは柔らかく頼りがないから。

壊れてくれたら楽だったね。愛をさせてよ、愛をしていてよ。守りたいって、いつも口にする。

かわいそうだよ。言ってくれるきみがいないから、こいつを鳥かごに入れておく必要もなくなった。飛んでいけ、味気ない自由に見放されまでは。誰にもかえりみられないふたりを彩るために。

沖。はぜる。蟹。どろ。飛行機。そら。山。うみ。

ぼくは書く。

草。はな。すみれ。砂糖。充血。思い出せるもの。新しいもの。病みついたように。

文字はさらわれて深海でくらげにでも生まれ変わるだらろう。いま、いま、きみが思い出になっていく。遠く離れるよりもはるかに、ぼくごときにどうしようもなく。光なんか要らない。ここはじゅうぶんもう明るい。

3+

no.430

この手を離すこと
きみが逃げ切るためには
ぼくを救った透明のビニール傘に
色がついて前が見えなくなっちゃう前に

大切なものを大切にしすぎて
壊してしまうなんておかしいよ
わかっていたのに壊れたんだ
それは、壊れてしまった

時間は止まらなかった
世界はおろか
ぼくひとりの時間さえも
絶望にそんな力はなかった

活字を切り抜いていた
さかさまの影で生きられるよう
手首は良くないよと言った人が
澄み切った目の色をしていたから

いじわるな手紙の届かなかったことを
今なら良かったって言える
こういうことの繰り返しなんだろう
壁に向かった答えあわせばかりだ

当事者でないから苦しくない
明日どうやって目を覚ますんだろう
景色は少し変わっているかな
手を離したら嘘が鮮やかになってしまうね

(きみの食べる朝ごはんが
美味しいものでありますように。)

1+

no.429

思い出さないでほしい
こんな一日の終わりに
きみは偽物のまま美しい
逃げ切れば愛される

(そういうことだった
つまり、そういうこと)

最後に読むもの
放り出された物語
見捨てて行けなかったのは
弱さだとなじられるため

本物かどうか
そこに価値はない
幼いまま奪われる
夢ばかり残される

夏に間に合わなかった
ぼくを忘れないで
色が多すぎて何も見えない
見えない世界で呼吸だけを覚えたい

4+

no.428

きみの腕は食パンみたい
ぼく、まるであたりまえのように食べたいな
それを、だって誰もいらないのでしょう?

雨をすきっていう
しんじられないことがたまにある
要らないものが降り注がれているふうに思うの

だからかな
めんどうくさくて嫌なんだ
傷つけたりしないよ、傷つけられたがっているひとなんか

誰かの思いどおりにはならない
今はきみに対して言っているんだよ
何度でもいう、優しくすることが罰になるなら

空中に浮かぶレモンをみたくて
何度でも海に放り投げる
みんな笑って見えるよ、うそでもほんとうでも

2+

no.427

真夜中に走る車の中で目をさましたい。ゴールなんてさがさないでいたい。ある時ふときづきたい。ああ、ぼく、あいされたかったんだ。まんまるい月は食べ損ねたうさぎの瞳みたいだった。怖くないよって誰も保証してくれない。みんなそれぞれを険しい顔つきで生きている。笑って。犯人、を、知っている、ほんとです。だけどそれはぼくの大切な人なので、秘密を暴きたいというあなたがたのわがままには付き合わないんです。まばたきのたびに波が遠くなる。海にかかった長い橋。すれ違う車はない。すこしでも休んだらべつの命になっちゃいそうだな。下にはたくさんの生き物が泳いでいるのだから。夢みたい。そうだね。死んじゃったみたい。そうだね。ぼくたち何かから追いかけられているようにいつまでも走るね。そんな妄想、風に吹かれて飛んでいって。どこにも行き着かない旅を。すべてがふたりを拒むだけの優しい夜を。

3+

no.426

夢ならよかったのに。あなたがそう感じながら目を覚ます朝にはそばにいたい。優しさのためじゃなく、弱みにつけこむために。

白くぼやけた世界が迎えに来るんだ、金魚すくいのように、連れ去ってしまうんだ、あの夏の花火みたいに夜空の鳥を蹴散らしながら、この時間はぼくのもの。

オートバイで走り去るものがどうして自分じゃなかったんだろう。誰もいないところへ行きたい。生きていけないくせに。じゃあ生きなくてもいい。生きていなくても、いい。

ささやく声が雑音に変わって、自由の記憶の残酷さを知るだろう。ぼくがいばらの茂みに手をのばして、ちょっとの傷なら気にもとめなかった理由を、知るだろう。

眠りは肌を冷たくする。だけどそれがまたあたたかく灯ることを分かっている。期待とか未来未満の確実さで。空にはまだ雲もない今、ぼくのわがままが少しだけきみを救う。

誰にも理解されないんだというきみの思い上がりが、ぼくを少しだけ後押しする。言葉未満の始まりに、骨を焼いた後の灰のように寝たふりをしている。ちいさな蘇生を繰り返し味わうために。

1+