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No.498

いまね、近づいた気がした。あなた否定するけどね。いや、気づいてないんだ。ぼくたちのあいだにゃ硝子があって、今も昔も遮られてる。どうせなら色付き硝子がよかったね。磨り硝子でもましだったろうな。そんなに透明な涙を知らない。勘違いしないで、ぼくたち、たとえこの硝子がなくたって別々の生き物なんだからね。溶け合うことや混じり合うことはできないんだからね。そう思うと、まだ少し呼吸できそう。一度に。べつの生き物になってしまうの、無理かなあ?きっと無理だなあ。何世代も何世代もかけて進化していくんだから。どうしても、無理かなあ。うん、どうしても、無理だよ。明白に無理だよ。それに、ぼく、嫌いじゃないよ。この、どうしようもなさ。みんながなに言ってもね。ぼくたちが失敗なわけないじゃない。ぼくたちを生んだ存在が失敗するわけないんだから。平気だと思ったんだよ。そのひと、きっとこれが一番だと思ったんだよ。あなたの目の色がわかる。歌は届かなくても、あなたが撫でる軌跡で文字が読める。ぼくらそうして溶け合ってこうね。笑われながら、呆れられながら、飽きるほど重ねようね。硝子があってよかったっていつか言おうね。生まれ変わる必要ありませんって伝えられるよう、不具合だらけの今を大切に生き抜こうね。

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No.497

そんなんじゃ生きていけない。
笑う、好きだ、
嘘ばっかり。あれもこれも、
どうせぜんぶ嘘にするつもりでしょう。

だまされない、ぼくはだまされない。
でも、振りはできるんだ。
そんなに守りたいなら。
だまされてやっても、いい。

地上で爆ぜる白い雪、
微睡みにくゆらせて上澄みをすくう。
痛くないよ、守るためにもらった傷だ。
生まれ変わっても傷だらけだ。

ようやくふと思い出した。
あなたの背中につかまって夜を泳いだ。
沖へ行くの、砂浜はどこなの。
どちらへ行ってもなんにもないよ。

それはなんて偶然、
それはなんて僥倖、
それはなんて最愛、
それは、なんて、えそらごと。

絡まった糸は飲み込め。
おまえを釣り上げる馬鹿者はいない。
もう人間になどなるな。
わたしの忠告を悪く思うな。

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No.496

素敵だ、ここまで潜ってきたの
帰り道はなくしてしまう
水平線をつまみあげて
もう浮上できないように

花火の魔法
夏の幻
海中は相変わらずです
よくぞここまで来てくれた

発達しない器官を
想像力でおぎなって
それぞれのストーリー
それぞれが満たされる音楽

地上にまだ誰も届けていない
凶暴な静寂
連れ戻されたくない
ぼくは誘拐されてなどいない

だけど引き裂かれるまどろみ
時間帯と角度のせいで
あなたが泣いて見えた
夢ならいいと思ってた

1+

No.495

ぼくきっと目を覚まさないよ
いま眠ったらさいごになる
眠らないでいいよう夢を再現して
初めてみたいにわくわくしたいんだ

命綱のない空中ブランコ
手と手だけが互いのすべてだ
観客は一瞬不幸を期待する
すぐに幼い高揚感に掻き消させる

心優しいナイフ投げの悲劇
胃袋で休みたい猛獣使い
鱗で覆われた美貌の双子
脱出マジックで無理心中

息をしてくれなきゃ嫌だよ
どんな朝にだって一度は笑って
ぼくなんだってするよ
あなたが笑うのなら何だってするよ

2+

No.494

下手だね、優しいふりとか
どうして僕じゃないんだろう
あなたそう思ってる
君を泣かせるものが僕じゃ、

もうないんだって、ストローをくぐる
虹は誰にも発見されず
消えて行く、私以上に
弱いものはなくて仕方がなくて

雲より大きな金魚だよ
私ガラスに生えた苔なの
青空は澄み切った水槽
境目がわからなくなるんだ

あなたに後悔してほしい
どうして見当たらないんだ
タイムマシン、一夏だけでいいのに
その思いを抱えたままいくつも超えてほしい

白状する、私、金魚を欲しかったんじゃないんだ
あなたが命を蔑ろにするところを
見たかったんだ、厄介払いのためだけに
ずっと完璧だったあなたがボロを出すところを

封印した秘密が匂い立つ
誰もこの部屋を外から開けられない
怖くて、今は失うものが多過ぎて
だけど生きていく、この傷は治さない。

あなたが見たかった星空を
この湖に映して金魚は飲み飲む
街を、電柱を、夜を、ちいさな藻を。
夢を、傷痕を、恋を、ほのかな光を。

1+

No.493

呼ばれるだろう

平・成・の・大・虐・殺。

なぜも何もない
悲惨なものは叩きやすい
残酷なものは罰しやすい

言い訳する間も無く窓から投げ出される
むき出しの腕の白さを見ていると、
誰もきれいなんかじゃないと思う、
笑えなくなるくらい荒廃したらいいのに。

想定と妄想は口外できないほどだ、
炎天下の番兵、同じ窓を見上げてる。
あそこであった事件を思い出してる。
氷をかじりながら笑っていた男のこと。

道徳。
倫理。
高貴。
崇拝。

失態は見過ごされてる罪の多さだ。
救いにもなるし、ならないこともある。
当然、隠蔽したほうがお得なことも、
それで不平等が存在しないことになるなら?

(好都合、)。

もうちょっと自覚を持つべきだ。
こんな時に何を言うんだと怒るんだろう。
おまえ少し螺子を緩めたほうが飛べるかもな。
他人の痛み以外にぼくを惹きつけるものはない。

夢だったんです
小さいころから
ぼくの夢だったんです
傑作、それ、笑える。

かんたんに丸くなるなよ
本当は混じってるはずさ
どうして慈愛を否定する?
人のつく嘘くらい慣れろよ。

潔癖のくせに手を染めたがってる、
誰でもそんな感じだ。
人は生き物を信じるから死ぬんだ。
命なら銃口に預けたほうがまともだ。

口数の多いやつ。
舌の根が待ちきれないんだ。
おまえはもう少し素直になるといい。
弾はすべて抜いてある。

おれの流儀。
聞ける間に聞いておかないか。すなわち、
素手で殺せないものを殺してはいけない。
傑作、それ、笑える。

笑ってる場合か
じゃなさそうだ
信じているのか
あんたぼくのことは殺さない

芝居の果てにあるのは現実
重苦しくて絶望しかない
でも知ってる
絶望の原型は希望だったって

ぼくはそれに賭ける
あんたは迷ってる
ぼくがいない世界
それって味気ないよな?

殺すのは惜しい
生きてても癪だ
だけど死んでほしくない
自分にぼくを殺してほしくない

銃口になりたい
冷たく火を噴くだけの
だけどならない
ほら、もうすぐ白状させてやる。

長いプロローグだったな
エピローグかと思ったよ
ああ、エピローグだった
だからこれはもう別の話。

1+

No.492

黒猫になる
また会える
塀を駆けて
姿かくして

夜に埋められて
ちゃんと生きて
陰口をかわして
約束をかわして

蝉と選挙カー
ぼくの時代だ
白い花が落下
知り合いの首

きみに伝える
この国は亡国
精霊は焼死し
異論は除かれる

黒猫になり
また生まれておいで
通りの夜は明る過ぎる
黒毛くらいでちょうどいい

2+

No.491

浮遊するクラゲが心臓を、
でも痛くないんだ、ぜんぜん痛く。
あなたは顔をしかめて見せて、
ほら生きているんだって、訴える。

うん、曲がり角にあるだろう?
水銀みたくまんまるした鏡がさ。
あれに夕焼けが映る時に、
平成元年に戻るんだよ、街も空気も。

ぼくはたまに振り返るんだ。
だけど背丈が伸びてしまって、
もう太陽は映らないんだ。
さよなら、だ、スーパースター?

ほんとうは平凡だったあなた、
悪くない、ぼくの夢をほどくのも、
みんなや世界のためじゃなく。
あまった光はここへあつめて。

透明に生きる七色、
模様じみた蝶の標本、
禁じられた常套句、
幻はすべて機械仕掛け。

匿名希望のネオンを消して、
あした壊される遊園地を走ろう。
この手を離さなければ大丈夫、
誰もが羨む新しい朝が追いかけてきても。

2+

No.490

死に抗い、溺れることを否定した。あなたは言う。ぼくを何よりも大切だと。そしてもうこれ以上はどんな血も流させまいとする。どんな闇にも浸らせまいとする。人が羨む特性のために一番にはなれない。どうしてこんなところに生まれたのだろう。どうしてこんな星のもとに。ぼくは誰より近くであなたを見守ることができるし、見守られることもできるだろう。ただそれはあくまで慕情であって起伏を期待できるものではない。再び巻き戻して夢を見たりしてはいけない。輪の外からこちらの様子をうかがう敵手もそろそろ気づくことだろう。ぼくにはどうすることもできないってことを。手っ取り早く傷つけるか壊すかすればまだマシなんだろうか。比較対象は平穏無事。天災を待ってるなんて口には出せない。あなたはぼくに追いつかせまいとして加減をしない。それでいて歩幅を合わせているよう錯覚させる。もしも決まりごとが反対したとしても、本音を言ってくれないか。どれだけ懇願してもあなたは口を割らない。おまえが大事だよ。いちばんに大事だよと繰り返すだけで。王冠などいらない。栄光も、信頼も、輝く未来も欲しくない。永遠なんて拷問だ。あなたを想ってひとりで泣くしかない夜が欲しい。声が届いたらいつでも駆けつけて欲しい。神聖はとても疲れる。悪人にして欲しい。全部をいっぺん捨ててみようかと、冗談でもいい、ぼくがあなたの弟でなかった世界を垣間見せてくれ。

2+

No.489

忘却は救済だ。

そう考えたことがある?

欲しいと口にせずとも与えられるものを疎ましがるのは、愚か者のすることかもしれない。たぶんね。

だって、たとえば、棚から選んだメープルシロップの理由を言えるだろうか。休前日の夜、花屋で選んだ青い蕾の理由を?

分かりづらいのなら直感の話をしよう。第一印象は大抵の場合で正しいというやつ。気のせいなんかじゃない。きみはこれまでの経験や知見から瞬時に判断を下すんだ。直感とはきわめて合理的で、なんなら解体できるプロセスだ。

同じように過ごした一昨日も、出会う人に感じる思いもすべて、きみではなくきみの魂が記憶していることなのかも知れない。そう、考えたことは?

気味が悪い?
え、現象でなくてぼくのことが?
うーん、それってほんとにぼくのせい?

忘却は救済と言ったね。きみはその言葉に強い反発を覚えるのかも知れないね。でも、それって、なんでだろう?

忘れたくないことを忘れなければならなかったから?しかも、それを、忘れたくないと思っている相手から直に言われたんだ。それで否定したくなるんだ。

でも、平気。だいじょうぶ。

きみはメープルシロップそのものを嫌いになることはないし、来週末も花屋へ行ける。そこにあるのは、きみに選んでもらうためだけに咲いた花ばかり。そう、きみの存在は祝福されているんだ。なかなか自分では認めたくなくても。

忘却が救済だなんて信じない?それでもいい。そう思うのはとても自然なことだから。なぜそう思うか?それすら気にかけることはない。一度の人生に収まりきらない生を受けているから。魂がきみに味方するから。

どうして疑ったりできるだろう。ぼくにとってきみはいつまでも子どものようだよ。大人になりきることはない。だから汚れたことを憂えないで欲しい。そもそも汚れることなどない。傲慢とすら思う。

ぼくは勘違いした奴のように一度だけ目配せするだろう。今日、この世で、すれ違うだけのきみへ。約束どおりだ。きみは、ちゃんと、ぼくを忘れられたようだね。ほんとうに、いい子だ。ぼくの直感どおりに。

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