2+

No.626

雨音がきこえる
ずっときこえる
白い教会のある町だ
ぼくたちに血のつながりはなかった

昔の人たちが守ってくれた
目隠しの存在には感づいたけど
誰も責めたりしなかったよ
正しさの敵はまたべつの正しさで

鏡と鏡を向かい合わせに置いて
その真ん中に立ってみたんだ
どこまでも永遠が連なっていて
なんだってかすり傷に思えた

雨音がきこえる
晴れていても今日も聞こえる
誰一人としてぼくと同じ音を聴かない
この町でたくさんの血が流れたんだ

2+

No.625

夕陽、カラーセロハン、折り鶴、夢見心地、ドロップ、鍵盤、波、サイダーの泡、片足だけのローファー、黒猫の瞳、きれいなものを見つめていると、消えてしまいたくなるのはなぜ。調和のとれた景色の中に立つことを、まだ許されていないと思う。きみのとなりを許されていないと思うから。吸う息を半分にして、もう一息でいのちを半分こにして、文句なんて言わないで、卑屈なこと自分がよくわかってるんだ。ぼくのほうが優勢で、きみのほうが劣勢だとしても、ぼくはいつまでも恥じるだろう。いたたまれない、その衝動だけで踏み出してはいけない一歩をかんたんに踏み出してしまうだろう。見つめられたくない、ただ見つめていたい。視界にうつりたくない、ただうつしていたい。肉になっても、骨になっても、きみが誰かを愛して傷つけられるだけのその時間を、ぼくは何も感じない神さまみたいに守りたいんだ。これはきっとバグだから、ただしく修正されることだろう。きみは安心安全に、ぼくを忘れて生きていけるよ。報告します。生きてこられたよ。きみのおかげで。きみのせいで。ぼくは正常であり、異常なし。身体検査なんて不要なくらい、次こそまともにうまれてみたいな。命令をして。死んではいけないと。そうしたらぼくは初めてきみを裏切るだろう。バグは回復しなかった。きみの発明品は自我を持った。すばらしい、絶賛の嵐だ、きみは少し泣くかな、泣いてくれるのだといいのだけどな。命令をして。

4+

No.624

あなたにふれるといつも思い出す。ぼくがほんとうはとても弱かったこと。あなたみたいな影がよぎる時にいつも思い出すんだ。ぼくがあなたに嫉妬していたこと。おなじ春なんて来ない。悲しいニュースが破り捨てられて、世界はいつも美しかった、誰の目にも平等にうつっていて、だから心がひしゃげていたんだ、あなたの吐き出す言葉の熱で。たとえばそれを毛糸にして、生まれて一度も休まない心臓を休ませてあげれば良い。たとえばそれをチョークにして、使う人のいない黒板で消えてなくなるまで削れば良い。たとえばそれを、たとえばそれを、ぼくからあなたへの贈り物だと言って、毒と名づけたため息を叩きつければ良かった。ああ、あの日、そうすればよかったんだ。傷つけないですんだのに。今ごろきっと忘れていたのに。残酷でなければただの夜に、優しくなれない光が降るんだ。誰もいない、誰もいない真夜中のなかだ。あなたの声だけが頼りだなんて、心もとなくて仕方ないや。

3+

No.623

きみの手はもう痛まないだろう
柔らかな雪の上で爆薬を詰めないから
記憶を白黒で思い起こしたり
子どもの笑い声に苛まれることもない

隔たりは茎によって崩されたんだ
とたんに言葉が行き来を始めて
別れなんてどこにも無かったみたいだよ
そしてそれを幸せだと言う人もいるんだ

あの日もそうだったように
キッチンには甘い湯気が立っている
用意されたガラスの瓶に
七色の光が溜まっていく

忘れないように忘れないように
生きていきたいんだけれど
遠ざかって遠ざかってく
きみの手は真っ白だね

きみは知らないでしょう
だってぼくも知らないんだ
それだけがほんとう
隠したがった真相は腐りゆくジャムの中

3+

No.622

うつらうつら
パズルのピースが剥がれてく
ぼくが見たかったもの
ああ、ぼくが見たかったものだ

完成しないよう飲み下したよ
ウエハースみたいだった
そんな気がするんだ
そんな思い出にしたんだ

悲鳴も歓声も聞こえない
ほんとうの静寂は
ほんとうの平和は
色も音楽も要らなかった

ぽとりぽとり
鼓動のたびに血が海に落ちていく
なかなか帰らないので一滴一滴
次は夢で再会しよう

修正は必要ない
終われば良かったんだ
きみが見る夕陽に溶けて
今しかない、この今を照らすんだ

2+

No.621

夕闇も朝焼けも蜂蜜の瓶に詰めて
変わり過ぎた窓の外を見る
このガラスは決して割れないはずだけど
誰も信じられず四歩遠ざかった

恋人たちは愛ばかりして
たまに脇目をふったりする
視界に入るぼくにはまだ色がないので
安心したって声が聞こえて視線を外す

誰かの幸福が誰かの孤独の上にあって
誰かの涙が誰かの火照った体に落ちて
誰かのいとしい人がぼくには厄介で
誰にも害を与えず風船になって割れたい

苗床にもなれなくていい
肥料にはなるだろうけど
ぼくが溶けた土にこの世の花が咲くだろう
保存されない種には澄んだ風が寄り添うだろう

4+

No.620

信じられない
回転木馬がまわるなんて
信じたくない
命がめぐりめぐるなんて

だけどいつも祈りだった
信じたくないことは
いつも黙っていた
非力なぼくの発する祈りだった

おまえの幸せは凍てつき
ぼくの心臓を冷たくする
両手いっぱいの針で
傷ついてでも傷つける

まだ生まれてもいない春を待つ
どうせなら一度も明けない夜でいい
おまえが幸せでないよう信じている
おまえが不幸せでないよう祈っている

両手いっぱいの針を
いつか花束に変えられるよう
おまえに嘘を見抜かれないよう
つないだ時にもう痛まないよう

3+

No.619

月が街を照らしてる
人工の光が卑屈に滲む
どちらもきれいだと感じていた
冷たいベランダに裸足で立って

夢の中は静かだった
海に潜ったようで
ひとりなのに温かかった
本当にあたたかかったんです

手に入らないものを
見ているだけで満たされるものを
誰にとってもそうであることを
僕はしずかに分かっていた

昨日は黙っていてごめん
羽毛にまみれて待っていた
唇に残る甘い粉末
この恋が終わるのを待ってたんだ

3+

No.618

大嫌いな君へ
君がまだ出会っていませんように
僕ほど君を大切にできるひとに

大嫌いな君へ
君がもう二度と幸せになりませんように
僕との思い出だけで生きていきますように

大嫌いな君へ
君の悪い癖は死ぬまでなおらないでしょう
誰も笑って済ますことはできないでしょう

大嫌いな君へ
だっていくらなんでも酷いでしょう
限定ケーキは店頭に並ばない

大嫌いな君へ
大嫌いな君
大嫌いな
大嫌い

拝啓、

大嫌いな君へ
嘘をつくのに飽きたのでそろそろ会いたい
君も同じ気持ちじゃないと不公平です

2+

No.617

声を届けたいひと
声が届かないひと
声を持たないひと
声に傷ついたひと

いろんな声があり
声を受け取る暮らしがある
ハローでぜんぶ伝わればいいのに
意地悪だから近づかないで

ぼくはあなたにとってよくない
存在かもしれません
あなたがぼくを好きになっても
好きを返せないかもしれません

贅沢な悩み
そんなものはどこにもない
自分に素直になろうとして
無視できない感覚を声にしただけ

綺麗事の優しさに
気づいてしまったら一つ終わるね
あなたは弱くて強かった
自分の口にした綺麗事のとおり死んだよ

遠近法を利用して
自分を悩ます奴らを魔法で消しちゃうんだ
だけど隣人は善人かもしれない
そう言ってためらうんだ

みんなは善人じゃないかもしれない
みんなは優しくないかもしれない
みんなは愛してくれないかもしれない
みんなはあなたを許さないかもしれない

だけど、

悪人ばかりじゃないかもしれない
慰められることもあるかもしれない
愛せることとがあるかもしれない
許すも許さないも言わずそばに置いてくれる

そんな人がいないと思うほうが
ぼくにはずっと不自然に思える

だから行っておいで
行って見ておいで
ずっとじゃないから大丈夫
終わりは作っておいたから

つらい時は声に出すんだ
誰も聞いてなくてもいい
誰かが聞いていてもいい
つらいと自分が分かるようにしておくこと

そうしたらぼくにも届くからね
あなたは頷いた
ぼくはそっと背を押して地上へ落とした
この世のあなたの誕生前夜に

4+