比喩の魔法は消えて
柔らかな皮膚は消えて
魂が転がり落ちる
先の見えない坂道を
おそろしく長く
見通しの悪い坂道を
安寧は停滞と等しいこと
美醜は問題でなかったこと
輝けないからくすぶること
甘えだと呼ばれたくない
速度を増して光になる
剥き出しの敵意と自我で
もう誰も振り向けない
ぼくは遍く満ちている
きみの読みかけの本のなか
あなたが切りつけた刃物のほうに
カテゴリー: 詩
no.6
好きなもの同士がつながる
どうしてもそれを祝福できない
やさしくなりたい
雪につけた足跡は春になって洗い流せるね
さらけ出していいのは本心がきれいな場合に限るだろう
目から舌から暗雲が零れだす
ぼくの庭園には霊廟が並ぶ
色とりどりの虫や植物にも隠し切れない
そもそも彼らは無意識なんだ
やさしくなんかならない
なれない
そんなものを願ったり祈ったり
しているあいだは
no.5
消える幻に見慣れない僕の背中を見た
遠ざかりながら近づいてくる季節
青と白の曲線を境界線と呼んだ十四歳
死ねないものが笑い世界ははじけ続けた
壊したいのでなくて確かめたかっただけだと
それが傲慢だと分かったうえで分かってもらおうと
まっすぐな道を斜めに見据えた
矛盾を内包して音は水面に反射し続けた
どこかで何かが終わったりはしなかった
いつか見えなくなって抜け出しただけ
大量の流血に見立てた絵の具は赤色ではなくて
雲の無い青空を贅沢に照らし続けた
no.4
ちっぽけな嘘だった
暗号じがけの悪戯だった
謎はあまりに簡単で
目配せしないでおくほうが不自然だった
それからそれから
時と雲は夥しく流れ何度目かの花が咲き
あれからあれから
繰り返しを見せつけられて変化は起こった
拒まない光景はぼくを追いやり
有り余るやさしさでもって最果てに霊廟を築いた
手脚を損ないぼくはうちやられた
希望が絶滅して答えは持ち出せないまま
故意に時の数え方を忘れても
空隙を埋める補充は与えられないまま
転げる涙は透明できっと価値がなく
乾いた旅人の手を濡らしてもまだ
終わりには遠いと頑なに信じさせる
ぼくは気づいている
殺したのは終わり
終わりをぼくは殺したんだ
二度と起きることはない
緑のやわらかな世界のうえで
光と不死に蹂躙されながら
未来の懲罰に酔い痴れて暗号を解読した
(ぼくは
いいえ、
ぼくたちは)。
no.3
輝くものは残酷だ
視界がちらつく
伝わってしまうことを恐れ
俯いて歩くしかない生き物に
たとえば夜なんかは優しい
世界が仕組んだのではなく
ましてや思惑などなく
この塊が徹底的に無関心とされていること
そのことに安心を覚えるのにちがいない
遠ざかるほど青は澄みながら深く
ときどき銀色にけぶっては
振り返るぼくを柔らかく嘲笑っていた
持ち主のいない死体の
奔放な漂流を羨みながら
なおさら大事そうに抱えながら
前へ進むだけの非力なぼくを
臆病をゆるして
約束はしないよ
かわりに祈っている
光を奪ってそんなにも輝かないで
no.2
毛皮の魔法使いは言ったんだ
ほんとうの魔法はおまえが使っていると
森の王子様
眠る王子様
百年も夢を見ている
お姫様を助け出す夢を
いばらに覆われた高い壁
いつまでも眠るからいつまでも死ねない王子様
魔法に魔法をかけて
いつまでも閉じ込めておけたらなあ
鏡をのぞいたらわかってしまう
むこうに立っているのは
あなたが願ったぼくという魔法使い
おやすみ王子様
おやすみ森
おやすみ魔法
おやすみ月と太陽
おやすみおやすみ、
みんなおやすみあともう百年
no.1
好きになろう好きになろうと努力して
ますます僕を嫌いなきみを好き
いじらしくて拙い
状況としてかなりまずいよ
それは
どんなに庇って歩いても
靴は雨に濡らされる
濡らされまい濡らされまいとするから
僕が雨だ
きみは勝てない
雲の上で星座から放たれた光がわだかまる
届く場所へ届かないで
欲しいとも欲しくないとも感じさせないで