2+

no.415

きみはもう逃げ込まなくなった。
きっと強くなった。
だけどたまに振り返ることがある。
あの弱さは僕を僕たらしめるものだった、と。
誰もいない暗闇の優しさとあたたかさを思い出して。

ほかに光がないおかげで自分の色を知ることができたんだ。

一気に忘れてしまいたかったな。
なのに、すこしだけ覚えてる。
それは悲しいことだった。

さよならを言っても振り返らないものを知っている。それが僕を生んでここまで育てたものの正体だとして、だけどしずかに失われてゆくんだ。希望だの愛だのにすり替わってゆくんだ。そのうちに違和感も覚えなくなってゆくんだ。

そんな牙じゃ風船も割れない。

だから優しい人に出会うといつも少し不安になるんだ。いつかさよならをするんだね。それは避けられないんだね。

だけど台無しにはしないよ。

それが、あの暗闇で佇んでいるだけだった僕が覚えたたったひとつの確かなこと。疑う必要もないことだから。

2+

no.414

言いたくない。きみだけが頼りだ。そう言えば多くのことを投げ打ってぼくを優先するんだろう。切り札にとってある。そうじゃなかった時を迎えたくなくて。言葉が時々は意味をなさないことを知っている、知っていた、知らずにいられるはずがなかった。役割のないものに愛着を覚えていられるよう、朝の水色、冷蔵庫のしなびたレモン、昨日の泥水が乾いたスニーカーの靴紐、取り替える指先、なんでもない時に泣いてもきみは見ぬふりができる。ぼくが不意に他人のようになってもきみはいつだって思い出させることができる。さざ波と緑。まるい太陽、はためくフラッグ。世界は広い。腕の中は狭い。ぼくたちは窮屈でときどき喧嘩をした。夢のようだね。幻のようだね。人と人が通いあうのって。何をしても奇跡になるよ。捨てきれないものを抱えて、だけどいつかさよならをするのかな。この不安も抱えたまま生きていく。今日が明日に笑いかける。どうだ、未来、今がうらやましいでしょう。

2+

no.413

いまは果物をあつめるとき
きみは深く傷つくだろう
生きたいと強く思い
それをたしかに実行したときに

甘くてあかい
あおくて硬い
すっぱいのや
からいのや

いつ役に立つかわからない
そんなものでも
いまはたくさんあつめるとき
数えることは必要ではない

誰かがやってきて言うんだ
それをください
またある人は黙って取っていく
きみはまだ人を信じられる

まっすぐに
なんて願うものじゃない
一度願ってしまえばあとはもう
しつこくて寂しい検証だから

好きなほうへ
明るいほうへ
信じられるほうへ
きみを呼ぶ声のするほうへ

きみが笑っていなくても
それはそれでいいんだ
少しわがままを言うと
本当はいやなんだよ

光がまぶしければ逃げていい
その方角にはまだ誰も
いないかもしれない
でも待っている人はいるかもしれない

誰かが来てくれないかな
そうしたらぼくも行くのに
そうしたらわたしも行くのに
そんな場所があったらいいな

劇場よりあざやかで
洋裁箱よりにぎやか
なぜってきみの命だ
いまは果物をあつめるとき

2+

no.412

瞳はみんな澄んでいる。新しいから上を見る。そこに星以外のお祈りを見つける。山ほどあった思い出は簡単に捨てられる。知らなくて良かったことを数えたら指が少し余ったんだ。きみは数え方を知っている?(そして、それは、正しい?)傷つけ合う時間なんて無いはずだった。それでも僕たちは戦った。贅沢な反抗を実践したくて。そしてそれを伝えたくて。神様が不足して息も吸えない子どもがいるんだ。それは明日のきみであったり、今日の僕であったりする。美しいだけが正解ではないよ。だけど正解は美しいことが多い。そうあってほしい人が望むから。血の色を知る。血の色を知らない人のいることを知る。初恋に禁忌なんてあるんだろうか。答え合わせが怖くてまだ誰も口を開かないね。

2+

no.411

指先は覚えてる
頭はもう忘れちゃったけど
初めてあたたかかった
スープを切らした雨の夜

この先何度も夢に見るだろう
その点では呪いかもしれない
ぼくは何も生みたくないし
きみは何も持たせたくない

似ているんだよ
繋ぎたくないんだ
それがひとつの決断として
認められることがなくても

褒められたって嫌だ
忘れることも無いんなら
閉ざされた浴槽
もう過去を躊躇うの?

嫌いなことに向き合う方が楽だった
そっぽを向かれて当然だから
好きなものだけが怖いんだ
嫌われたら死んじゃいたくなる

簡単だね
そうでしょう
意味なんてない
ある人に会ったこともない

2+

no.410

暗闇に目を凝らしてる
どうか新しい光が
他にもう見当たりませんように
きみはすこし意地悪

手首を陽に透かした
思い出の中に秘密は眠る
真相は残酷になれなくて
ただ淡々と突きつけられた

知らなくても生きていけるよ
生きることって重要なことじゃない
だけど誰にでもできることじゃない
ましてや何度もできるわけじゃない

想像もつかない道のり
傷だけが印になって名前になって
誰も手をつないでくれなくて大丈夫
迷子だと教える人もいないなら

星座の斑点を皮膚に宿して
ぼくはぼくを運んで行く
計画はないという計画
旅になるかもしれない気配だけで

手紙なんて届かない場所にいて
ぼくと二度と出会わないで
そしてどうかきみを好きなきみでいて
願うだけならわがままなんて言わないでいて

3+

no.409

それは救いだ
あなたを揺るがすものがあったなら
疑うことでは強くなれない
少し遠回りになるだけ

錯覚と疑心暗鬼、
神さまはそんなことを
言いたかったのじゃない
ずっとわかっていたはず

茜が何かを知らない人に
夕焼けをうまく伝えられないように
あなたを知らない人に
ぼくを語るのは難しいだろう

信じていた
裏切られたとしても
それはぼくの問題
あなたは本当に優しいだけ

4+

no.408

秘密を明かさなければいつまでも透明でいられる。だけどそれは濁る幸福からの意図的な逃避だよ。わかってる。形を持ちたいと、きみは、そう考えることはない?わかってる、わかってるんだ。あなたの言いたいことは。何故ってあなたは答えを知っているんでしょう。綺麗でない水も夜になれば外の光を反射してネオンのように輝くくらいできる。知らないわけがない。選ばなかった、だけのこと。そういう言い訳に騙されるくらいの余裕は欲しかったな。あなたは少し僕を買いかぶっているんだと思う。楽しいと笑わないのも、悲しいと訴えないのも、強さのせいだけじゃないよ。自由と引き換えに愛があるのならもっと話は簡単だったね。手を伸ばすところを見られたくない。あなたに気づいて欲しくない。そうすれば僕はたちまち臆病になってあなたを不安にさせてしまうだろう。輝かないでと願われたい。誰からも嫌われていてと思われたい。ねじれているんだとしてもこれが僕の初恋。夢の中でなら何度でも切り裂くのに。守りたいと思わなければ世界の不確定性への恐怖なんか取るに足らないのに。交わすためだけのやわらかな言葉を交わしあって生きるのに。

4+

no.407

曖昧にするのなんて簡単だ
後先を考えなければ良い
月と砂糖はすぐに溶ける
記憶も変わりなかった
過ぎていく季節を惜しまないのは
それがまた来ることを知っているから
同じページを行ったり来たり
新しいぼくの愛想は尽きない
変わりたいのは臆病だから
そのままでいることは危険だ
二人はそれほど強くはない
正しくいられないことを咎められたら
真っ赤なキャンディをあげる
わたされなかった林檎の代わりに
夢に出て来てあげる
もう無理だと言うんなら
綺麗じゃなくていい
潔白じゃなくていい
笑えなくても泣けなくてもいい
まずは許されること
今のあなたに大切なこと
まだ春も来ない川面に流れないで

2+

no.406

すぐそばでぼくが息を吹き返す
また蘇生してぞっとした
時刻は?
今度は夜?それとも真夜中?
安心の暗闇はまだここにある
どうしてぼくには与えられないんだろう
良いことも悪いこともたくさん試した
意味を考えたり考えなかったり
人はたくさん首を吊って
みんな上手にいなくなるのに
増えていくかすり傷
死ぬ以外はぜんぶ擦過傷だよ
悪くないと思っていたな
そういう投げやりなところ
言った人のこともう覚えていないんだけど
目覚めるたびに美しいなんて嘘だ
遠い国のあの子より恵まれてるなんて
まやかしだ、どれも、のろいだ
だけど、やさしさだと、思う終わりもある
他に差し出せるものがなくて
あなたは嘘ばかり差し出すんだろう
ぼくに差し出せる本当が見当たらなくて
きっと探してくれた、そして発見に至らなかった
いつの時代も振り返って自分を見つけられる
愛しているからだよ
ぼくよりタフで尊いものなんかない
そうとでも思わなきゃ誰がぼくを捕まえられる?
失敗したオムレツのお皿が欲しかったな
ぼくは素直に言わないので
今日も綺麗なふくらみが差し出される
ぼくにとって、
繰り返されることは幸福じゃないのかな
きみにとって、
いつまでも続くことが思い出になるのかな
反対を言いたいんだ
嘘を手に入れて大切な人を騙したいんだ

それはこういう優しさだった
これはそういう絶望だった。

4+