No.850

ぼろぼろの紙切れを渡して
誰かが私へ宛てたのだと使者は言う
質問しようとした時にはもう
姿が消えてしまっていた

(いったいいつ 私は 目を離したろう)。

折りたたまれた紙を開いていくと
短い挨拶と近況を訊ねる言葉だけ
丁寧な薄い文字で書かれてある
差出人は誰だろう

お元気ですか
僕は元気ではありません
むしろもうすぐ星になるそうです
大人たちの吐く嘘を僕はずっと見抜いています
だけどそれは彼らの優しさなので
信じているふりをして生きています

悪戯だろう
どこからか面白がって見ているかもな
たとえば夜空の星座になって
忘れないと約束を忘れたふりをして
いま思い出したきみの名前を呼んで良い?

生きてたって変わらないよ
変わらないと思いながら生きてると
死んじゃいたくなるよ
人を好きになれないと生きてけないんだ
愛だ愛だの洪水は息苦しいだけ

使者の顔を見たよ
深く帽子をかぶっていたけれど
きみの笑い方を忘れてなかった
随分と平凡に生まれ変わったね
またいつかどこかで会えるね