No.875

おまえかわいそう。ぼくなんかに好かれてる。取り柄がないんだ。なにひとつ。あげられないんだ。命だけは別として。朝か夜かわからなくなったら電話して。それだけでいい。ぱんぱんのスケジュールに、夕立みたいな空白ができたら、埋めに行くよ、駆けつける。都合のいい犬がいてとか、せいぜい話のタネにしたらいい。おまえがまだ片足を突っ込んでる世界のほうで。劣ってることを個性だと言い換えて、自分が今も笑顔をつくれるって信じてる。かわいそうでかわいい。かわいくてかわいそうで最高に凶悪。出しすぎたカッターの刃の引っ込め方がわからなくて、傍観者の机の中に入れといた。作者がはった伏線のように、それはある人の日常を良くも悪くも打破する。誰かが不幸と呼んだ出来事で、救われる命もある。おまえが知らないこと。おまえがまだ知らなくていいこと。ノートを借りたよ。平行に並ぶ線を見て、告白をやめた。丁寧に消された形跡を見て、おまえを選ぶことをやめた。そう決めて、ノートを返した。おまえは何も知らず笑ってた。無くしたと思ってた。ありがとう。

(ぼくには無理だ、こんな世界。)