No.483

手のひらで踊る月
贈り物がまちがって使われる
ほんとうは包装紙のほう
あなたが隠した伝言のゆくえ

サーカスは夜にかがやく
占い師はテントの中
病気でかわいい女の子
たましいの売り方を覚える

ぼくは知っていたよ
読むことができたんだ
こめかみが痛いな
こんな日に出会いたくなかった

それでもうれしいよ
会えなかった残りの日々よりも
あなたはぼくを暴くといい
どんな代償も支払わずに

3+

no.482

みんなあこがれのヒーロー
きみが負ける瞬間を
見届けるまでがぼくの役目
だれも気づかないけど

戦いたくないときもあるよね
守ってくれという奴がずるくて
安全な場所で震えるだけで
弱いことをいいわけにして

だから間違ったことをしたくなるんだ
悪役にそそのかされたふりでもしてさ
鏡を割ったら本当の黒幕を知るんだ
一番泣き虫なあいつだったって知るんだ

キラキラはドロドロ
だけどヒーローは迷わない
たくさんの眼差しが眩しくて
青空だけが似合うだなんて

残酷だと思う、率直に言って。
か、
わ、
い、
そ、
うだなって思う、シンプルにね。

この場所でずっと思っていたよ
見向きもされない青春だった
やめてしまえばいいのにって
どうぞぼくのせいにしてくれ

ただ単に楽なんだ
傷ついていないほうが
正義を疑わないほうが
自分を信じていてもいいから

平然と次世代へゆずろう
悪にも正義にも染まらないで
ひとつの物語を終わらせよう
緞帳が下りたら脈絡のないキスをしよう

ぼくのヒーロー
ふたりで一生分の間違いを犯そう
ぼくだけのヒーロー
きみなんかがいなくてもこの世界はだいじょうぶ。

3+

no.481

あまい時間を過ごして
夢の中でほどけていく
どんなに強く結んでも
嘘のようにほどけてく

どれだけ頼りがなくても
あなたはぼくの幸せでした
今どんなに冷たいだろう
月の光さえ跳ね返せずに

初めて会ったときのことも
初めて傷つけた日のことも
昨日のように思い出せるし
明日のように予感できるよ

原型は違っただろう
ぼくがどうにでも作ったんだろう
誰にも迷惑をかけずに
本当のあなたが消えていくだけ

近づいては離れる
真相は水槽に泳ぐ一匹の金魚
ついにつかむことはできない
ぼくの弱さがそうさせた

守りたいんだと仮定して
どんなわがままもねじ伏せた
思いだけは正当だと
血の通わないことで安心をして

ヘッドフォンをつけたまま眠る
あなたに届かせたかった
見知らぬ大勢や
得体の知れない世間じゃなく

鏡にうつった自分が姿を変える
そこには笑わないあなたがいて
夜よりも真っ暗な視線を送ってくる
向こう側からはぼくが見えてんだろう

真っ白な手紙が届くよ
あかりをつけ忘れた部屋で
嵐より恐ろしい静けさの果てに
悪意のない朝を発見するあなたへ

だいじにしていた貝殻が砕ける
こじあけた世界を風が吹き抜ける
楽園でならあなたは笑うことがあるんだ
それを知ってるぼくはもう泣かない。

3+

no.480

夜の海です
ぼくが呪いをかけたいのは
たっぷり飲み込んでしまうでしょう
これまで数々の言葉が沈殿しています

教室ではヒーローです
大人をあざむくことは容易です
彼らは見過ごしたがる、いつだって
あるいは、だまされたがるので。

ちいさく切断をします
そしてでたらめにつなげるんです
みんな適当に合わせてくれます
ぼくが頭をひねる必要はありません

だけどひとりだけ違うんです
ぼくのことを違うふうに見るんです
小さなひかりのようでいて
それがどういう意味かがわからない

ぼくは頭がいいのではなく
他人に考えさせないだけのこと
狡猾というのとも違うのでしょう
だって何も企ててはいないのだから

だけどあなたはそうは思わない
ぼくの姿を目で追っている
たまにこちらも見返して
視線はふと離れるのだけど

それはときどき甘い
ぼくは楽しみにさえした
夏休み前の通学路は蕩けそうなほど
あなたの背中が揺らいでる

ぼくは追いついて声をかける
初めて名前を呼んだときの表情で気づく
あなたはぼくを許しはしない
理由なんか明かされない

一度ずつ撃ち抜かれて蘇生する
あなたはきっと捨てて行く
いつかボロボロになって
ある日ふと自分を傷つける気がする

予感のために倒れたりしない
順序どおりに恨ませない
ぼくの血で汚れるのはぼくでいい
こんなものであなたを汚せない

3+

no.479

近いうちにあなたが終わる
さみしさも覚えないうちに
ぼくは受け入れるしかない
息継ぎなんてできないまま

あなたを好きなぼくでなくては
理由なんかみつからなかった
いつでもきっかけだったんだ
でも伝えたことはなかった

おばけみたいな入道雲
人間なんてシルエットでしかない
名前を与えて顔を与えて
それでようやく判別ができる

ぼくはひとりを平気だったよ
詩を書いたりしなかった
みんなへ向けてなんか
ただ、
膝に頬をくっつけたあなただけに

溺れようとして埋まりきれない
殺すべきではないからだ
あなたはぼくに気づかせたせいで
自分の中から抜け落ちてしまった

きっと、そう。

新緑を思い出せないんだ
幻を繰り返して変形させてしまう
同じまま持ち運びたいのに
ぼくが変わるから変わってしまう

生き延びないで
ぼくがいないあなたで
もう一度きれいに笑わないで
あなたを消した張本人になりたくない

やさしさを否定するのは別のやさしさ
愛を打ち消すのはまた他の愛
何もただしく矯正できず
離れられない肌を疎んでひっかくだけ

3+

no.478

七色を不規則に反射するもの
さわると透明になる立方体
鍵をかけて鍵を捨てる
あとは眺めるだけのものだから

壊せば天まで匂います
張り裂けないよう祈るのです
新しい時代のために閉じ込めた
捨てることができず閉じ込めた

ぼくの失恋
ぼくの自殺
ぼくの初恋
ぼくの誕生

きみの挫折
きみの葛藤
きみの残酷
きみの贖罪

あの朝はいつもよりインクが香った
新聞受けの中で平等に待たされた
誰にも言えないと思った
分かる人には分かると思った

安い鶏肉では妄想が募るばかりだった
きみは知りながらぼくを止めなかった
夜は星座ばかりかわいがって
逃亡者にすこしも優しくなかった

2+

no.477

噛み合うようにできている
だれのせいってわけじゃない
こんなものでも命なんだ
消そうとしても消えないだろう

ぼくはしくみを調べる
病の治しかたや食べ物の摘みかた
星が落ちてこないのはなぜか
必ずしも真実でなくて美しいほうをとる

きみがいつかひとを憎むときに
思い出して欲しいから
もしも致命傷を与えそうなときに
この光景が一度でも過ぎってほしい

ぼくは知っているから
きみが優しくも意地悪でもなく
ただあたたかく柔らかだったことを
名前のない頃からそうだったよ

仕方のないことだと思うだろう
きみが誰かのことを壊しても
きっと仕方ないと思ってしまう
そして守ろうとしてしまうだろう

山の向こうに沈む太陽がきれいだね
あちらでは新しい朝が来るんだ
次にひろがるのは星々だね
ひとつも地上へ分けてくれない夜だね

2+

no.476

夜が明けても
青を見せてあげない
きみが欲しいものは
もうきみをつつんでる

よこしまな秒針
思い出を頬張る
依存は絶対ではない
やがて金魚は水槽で溺れる

わかっていない
幸せは噛み締められない
ほんとうに幸せなとき
それをわからないから

ぎりぎりまで手放して
自作自演で取り戻す
起きては死んで
切り替えの瞬間に息をする

クロールしているとわかる
どこへも行けないとわかる
だからもう足をついて
見たかったように世界を見る

きみのせいで散々だよ
またも無計画な起死回生
乾いたプールサイドへあがる
生きるのに向かないやわな体で

1+

no.475

ルートを辿ろうとした
ぼくは生きてきたんだろうか
それとも産まれてもいないのか
であれば死ぬこともないのだろうか

どこまで行っても無垢のまま
繰り返されるばかりだからだ
遡っても判らないのは
子どもが子どもを追いかけるから

まあるい喉仏が伝えるには
人間は敵ではない
味方ではないのと等しく
ぼくたちは接触をしないので

割れそうな静寂
ひたひたと沁みてくる
雨水が新しい命ならいいのに
千切れてもぼくは透明であればいいのに

言ってもいいんだ
虹も星も美しくないと
きみが本当に自由の身であって
そう感じているのなら

何が欲しくて
何を嘘にする?
何が要らなくて
何を本当にしたい?

森がふたりを受け容れたのは
追っ手から逃がすためではないよ
ぼくらがいずれ力尽きて
次の生き物につながるからだ

1+

no.474

植えつけたわけじゃない
少なくとも不本意ではなかったはず
きみは一縷でも望んだんだ
遭難者にだけ見える幻の国だ

ひとつ認めて欲しいことには
自分を愛すことなど到底できない
でなければここにいなくてもいい
ぼくの役目を終わらせて欲しくない

宇宙の話をするよ
そのあとで草についた露の話を
読みかけの物語を続けさせたり
行ったこともない異国の風景を

どんな体験も想像力に及ばない
そこには切実さが備わるから
あのひとには勝てないと思う
きみは囚われすぎている

生々しさが人を救うなら
とっくにぼくが到達している
きみの目は遭難者のそれだ
手が届かないことで安堵する

まったく不健全だよ
傷だけがきみの時間を今につなぐ
それはぼくの敵視するあのひとが
最後にかけたきみへの呪いでもあって

忘れるに任せるしかない
時が進む以上は
だけど雪は降り続いて
ぼくが抱くきみへの思いさえ
なかったことにしてしまう

2+