言葉がぜんぶ光になって
形を失ったらどうしよう
差し出せるものが無くなったら君は
僕を残して歩いて行くかな
忘れないよと約束する優しさが
百年後の君を苦しめるだろう
忘れないでと願う傲慢が
百年前の僕をそれからずっと呪ったように
魔法は切れたよ
あったかも、もう分からないな
午後になると眠くなって強がりを消した
緑の上でだから眠る、君は命を泥棒して。
言葉がぜんぶ光になって
形を失ったらどうしよう
差し出せるものが無くなったら君は
僕を残して歩いて行くかな
忘れないよと約束する優しさが
百年後の君を苦しめるだろう
忘れないでと願う傲慢が
百年前の僕をそれからずっと呪ったように
魔法は切れたよ
あったかも、もう分からないな
午後になると眠くなって強がりを消した
緑の上でだから眠る、君は命を泥棒して。
(思いつき。途中でぱったり終わる話)
あなたが今いるここは天国です。
と言っても風光明媚な光景を比喩しているのではなく、正真正銘の。
いわゆる死後の。
と聞いて「はい、そうですか」と答えた人はあまりいないだろう。
だから、そう答えた。
「あ、はい、そうですか」。
天使。
こいつ、天使なのかな。
まあいいや、天使は、おっ、という顔つきで僕を見る。
「きみは、ええと、感情の起伏が足りないね」。
「そうですか」。
「そうやって生きてきたの」。
「生きて、そして死にました。やり直したいとは思いませんが、何かの役には立ちたかった」。
暫定天使は「ふむ。」と顎に手をやり頷く。
何も考えてなさそうな感じではある。
「無欲なのは素晴らしい。手間が省ける」。
何の手間かは聞かないでおく。
僕はとことん他人へ興味が無いので、少しでも期待を持たせたくない。
もしかするとこいつは話を聞いてくれるんじゃないか?と思われたくない。
「天使には、一度だけの特権がある」。
あ、やっぱり天使だったのか。
「自分が気に入った相手を一人だけ生き返らせることができるんだ」。
「そうですか」。
「良いか、たった一人だ。これはすごい特権だぞ、なんたってたった一人なんだからな!」。
「はいはい」。
「ということで、俺は君に決めようと思う」。
「はい?」。
「俺の特権を君に使わせてくれ」。
「なんで?は?もっと適任者がいるでしょう。飲酒運転に巻き込まれ、幼い子どもを残して死ななければならなかった方とか、プロポーズされた翌日に余命宣告された方とか、僕よりもっとおま、いや、あなたの特権とやらにふさわしい、値する方々が、山ほどいるはず。そもそも僕はあっちに何の心残りも無いし、できれば二度とあんな世界には戻りたくないとさえ、」。
天使がにやついていることに気づいて僕は話やめる。
「…なんです?」。
「感情を、見せてくれたね」。
「それは…」。
あんたがおかしな判断基準を散らつかせたせいだ。
「とにかく、他をあたってください。あなたの特権の使い道は僕ではないはずだ」。
「君の決めることじゃない。もう針を戻しておいたから」。
「はあ?」。
「行ってらっしゃい」。
「はああ?」。
「そして、またここに、戻っておいでね。再会しよう、大好きだよ」。
何と言ったんだ?
天使の言葉は、最後のほうは、よく聞こえなかった。
やけに腹の立つ顔をしてたなあ、ってことくらい。
目を開けた僕はベッドの上だった。
正確に言うと、病院のベッドの上だった。
なぜここが病院と分かるかと言えば、僕はここで死んだからだ。
それだけは覚えてる。
他は、忘れてしまった。
まいった、どうやら本当に時間が戻ってしまったらしい。
シーツに突っ伏した姿勢で誰かが寝ている。
(疲れてるだろう、起こしたくないな)。
なんとなくだけどそう思った。
だけどそのタイミングは勝手にドラマチックに、否応なしに訪れてしまう。
瞬いた瞳が僕を見て、目を擦ってもう一度見て、幻ではないと知って声にならない声を上げる。
はくはくと口を動かして諦めた、おまえに、ぎゅううううううと抱きしめられる。
死にかけ。
いや、生き返りかけの僕に許されるレベルの抱擁ではない。
「…は、放せ、苦しい。また天使に会わすつもりか」。
「ご、ご、ごめっ」。
「耳がキーンとする」。
「先生!そうだ、先生呼んでくるっ!」。
おまえはナースコールというものを知らんのか?
立ち上がって駆け出しそうなところを呼び止めた。
「待って。少し静かにしていたい。誰とも会いたくない。先生、にも。おまえだけ、いてくれればいい」。
動き出していた体がピタリと止まる。
そそそっかそっかーと謎の素直さでもとの椅子に収まった。
「ほしいものは?」。
「…静寂。しずかにしろ」。
「あ、うんっ。そうかっ。ごめんっ。ごめんなっっっ」。
おまえは僕を見てにこっと笑った後、そわそわしながら俯いた。
(なんだこいつ?)。
白状しよう。
僕は、こいつに関する記憶を失っている。
名前も、関係も分からない。
ただ分かるのは、こいつが僕を大好きだなってことと、あのいけすかない天使によく似てるってことくらい。
ふーん。
体はでかいくせに、肝っ玉は小さそうだな。
俯いているのを良いことに僕はその姿をじっと見る。
ふーん。
せっかく「特権」で生き返ったんだ、ちょっとくらい羽目を外しても良いだろう。
吹っ切れた僕は、そいつに向かって口を開いた。
「
(飽きたのでここで終わり。あとはご自由にご想像ください。)
首が寒い。いや、冷たい。何かあてられている。
首にあてられる冷たいものと言ったらそれはもう銃口かナイフだろう。
ぼくの生き方をしているなら誰でも。ぼくの人生を生きるなら誰でも。
「ああ、やっと終わる」。
安堵とともに素直になってしまう。
もし機嫌を損ねて、置いて行かれでもしたら大変だ。
(やっと終わる)。
という「強がり」を、言ったふりをした。
形をとらえるのって大変ですね。
なぜみんな上手にできるのか分からなかったけど、最近ようやく分かった。
下手だったんだ。
ただただぼくが下手だから、みんなが上手に見えたんだ。
酸素が薄い。だから笑えない。ここは、適していない。
薄く消えたい。誰かを傷つけたりせずに。
わがままかな。わがままだよ。
でももし自由にできるものが一つあるなら、こういうことだよね。
他に言い残したことは何も無い。
残したいものも何も無かった。
柄か引き金を引いて。
これは作業。
吸って吐くように、拾って捨てるように、あたりまえの習慣として、きみはそれを引いて。
間違って見えることのなかにも、正しさはちゃんとあるよ。
冬の光は透明だけど
好きな色を変えてしまう
好きな人を変えてしまう
きみの好きな私も、たぶん。
変わらないでいると
誰かは救われると思っていた
変わらないことで
変わらないままで
救うことも救われることも
本当はできていなかった
「ありがとう」という言葉には
優しい、
ヤサシイ、
「救えてないけどね」が
隠れていた
推測が下手で気付かなかったな
たくさんの嘘があって
傷つけたり傷ついたりする
嘘だとばれなかった嘘もあって
嘘が世界や心をうまく回す
きみの世界は、どう?
私の世界は、こう
今、冬の光が照らしているのよ
眠れないきみから奪ったものだよ
もう届いてる、
きみが言う
手はもう届かせられる
もし届かないなら
あなたが拒んでいるだけ
本当は途中が気持ちいいだけ
ぼくは分からない
いつまでも分からない
分からないでいたい
痛みを消す理由を
知りたくない
窓ばかり広い部屋で
帰宅という言葉を練習した
ノートに何度も書いていると
応えるように風が吹く
帰りを待っている
帰りを待っていて
また交わるように信じてる
平行線は少し歪んでいて
言い訳を通用させる
だからいつまでも現実を見ない
許されないことを許している
愛されない今を愛している
手のひらを見た。ずっと一緒だったのにあまり見たことはなかった。そんなことが多い。そんなことばかりだ。
冬に向かう午前九時。壁にかけられたままの制服が笑ってる。
世界はたくさん開かれていて、開かれているから、居場所の無さに気づいてしまった。こんなにあるのに。こんなに幸せなのに。
あとはもう死ぬしかないんです。
理由を探られたくないから他殺がいいです。僕を殺した人に不幸になって欲しくありません。協力をします。
春に買った便箋に思ったままを書き連ねる。携えたままあちこちを彷徨い、ついには紙飛行機にして歩道橋から飛ばした。夕暮れ。
偶然を待ったのに、その羽根は生き物のように自ら羽ばたく。おまえも、おまえも、僕を連れて行かないんだな。
なにしてんの。
話しかけるのはもう君くらいだ。
やあ変人。
振り返ったら涙がこぼれる気がしてやめにした。
「やめにしたら」。君が言う。「なにを?」。つい顔を見てしまった。怪訝が勝り涙はこぼれなかった。「いや、もしそこから飛ぼうとかしてたら」。
君は全く見当違いだったが、そう見えたならそうなんだろう。
「ばか?痛いのは嫌だよ。不確実なのも」。
そうだろうね。
佇む君の右手には一日二人ぶんの食事。
君は、君は、かわいそうだ。
自分がいても報われない恋人を持って。
存在理由を探し続ける愚か者を繋いで。
「一緒にごはんを食べよう」。
「明日も生きるよ」。
紙飛行機が夜に向かって流れて行く。
無数の星を縫ってさらなる高みへ吸い込まれて行く。
そんな夢を見た。
こんな現実の底から。
仰向けに見た電球
魚がくれたお守りみたい
気づかなかった
忘れていたよ
あかりを消したい
照らし出すものを
ぼくは醜い
君も、そう思う?
平気そうだね
星は傷つかない
時間は流れる
立ち止まる理由は無い
幼なじみが死んだ
最後に会った時
喧嘩をしたようだ
手紙でぼく思い出したよ
人の感情を覚えていられない
悲しみも絶望も自分のため
優しいことを免罪符に裁くの
そういうところ嫌いだった
自分も他人も否定せず生きる
傷つくのも傷つけられるのも嫌
いつまで柔らかなままだろう
大人になれない子どももいるんだね
日が短くなる午後
太陽をポケットに沈めて
明日の朝きみを探しに行く
世界の明日を奪っていく
冬の朝からハーゲンダッツもしくはサーティーワンを食べる生活を送っている私である。贅沢のレベルは人それぞれなので心からこれで良いと思っています。
当たり前なのに忘れがちなこととして「人っていつか死ぬなあ」と最近思う。自分も、自分の周りの人も、そのへんの見知らぬ人も、苦手な人も、善人も悪人も、みんな平等にいつか死ぬなー。と思って一日を始めるけどお昼くらいには普通に忘れてて眠気を感じたりするなど。
でも死んだことがなくてあまり想像つかないし、想像したって仕方のないことだから忘れるようになっている。仕方はないけど意味はあるかも知れない。「いつか死ぬなー」と心の片隅で思っておけば、この選択でいいのか?と考え直したり熟慮したりするきっかけになる。
しかし考える時間や深さが長いほど、深いほどいいのかって言うとそうでもなく、むしろ「よし!」で決めた方が後に幸福な選択になったりもする。
死ぬのは死ぬんだがそれを持ち出してあれこれ考えているほどに私は今ふつうに平和なんだろうなとポッピングシャワーを食べながら思った。食べてる時って結構ひまだな?食べる以外してないもんな。
食べてる時に成分表を見たりカロリー計算するのは愚者だわ。素直においしく食べよう。あした死ぬかも知れないので。死なずに生きたとしても好きなもの食べた方が良いって絶対。
ずーっと正当化しながら味わってる。
最初から最後まで知っている作家の長い物語をなぞっているだけのように無意味。意味を考えたものから落ちて死んでいく。真逆から見たら上って生まれ変わる。死んだ命が星になると聞いてから、ぼくは星空を見上げるたびに蕁麻疹が出る。それを綺麗だと思うのか、それを美しいと信じるのか、わかり合えない。電子も言葉も誰かが何かを伝えたかった証、途切れたものも、つながったものも、等しく「その先」を信じて一度も満たされなかった。おまえ馬鹿だよ。そういうふうに思考を拡大させてさ、何も大切にできない自分を大切にできないんだ。代償、と呼んで。傾げたぼくの首に赤いマフラーが巻かれる。おまえの首は無防備に晒される。外気にも僕にも。人目にも星空にも。誰かを疑うとき、いちばん疑われているのは自分だった。誰かを責めるとき、いちばん責めたいのは自分だった。わかってる。わかってるから。だとか、おまえは詭弁ばかり。詭弁も言えない恋人よりよっぽどいいや。もうどうでもいいや。
かわいい飲み物。かわいい景色。かわいい生命。かわいい死に様。きみは何にでもかわいいをつけて綿菓子を頬張る。かわいい恋愛。かわいい現実。かわいい惨虐。かわいい一生。そうだ今度わたしかわいいところへ行くことに決めたの。それはどこ?教えないよ、秘密にしたいもん。じゃあなんで言ったの?かわいいなんてどこにもないもの、わたしそれを手に入れられないもの、だけどあなたはそんな話を聞いてくれる、だからわたし伝えたかったの。きみは明日ここにいないだろう。分かっても僕は止めないだろう。そういうところよ、かわいいあなた。かわいいわたし。かわいいふたり。かわいいひとり。かわいそうで、かわいいことね。