No.798

ぼくはぼくでしか生きられない。あなたはそれで大丈夫だと言う。ダンボールに描いた星空が本物に変わるころ、時代もひとつ変わっていた。時間が過ぎなければ分からない秘密は誰の悪戯なんだろう。耳を傾けていれば伝わってきたのだろうか。あなたはそれを待っていただろうか。ぼくは本当はそうしたかっただろうか。気づかないままだから生きてこられたのかも知れない。みずうみの表面に無数の祈りが瞬いて、あなたはそれを祈りとは呼ばない。ただの星だと言い、きみは地上へ目を向けろと優しく諭す。嘘を閉じ込めたアクリルのルームキーで、潔癖の部屋へ帰る。百年なんてすぐだよと自分に何度でも言い聞かせて。

3+

No.797

たんたんと降る雨の音がする。集合から離れ、まっすぐ歩いて帰った自分を恥じる。不器用なせいではない。何も受け止められなかっただけ。夜を越えるために必要なものは、取り出した心臓に似た月明かり。飼い猫だった獣がはこんできた小鳥の骨。あなたの小指。「得体の知れないもの」と言うときその正体を、ほんとうの意味で知らないひとはない。ぼくにも分かっている。適応できないもののない世界で、居心地の悪さに無自覚になれない。あたらしい朝がきてぼくは、きのうの夜のことをわすれ、机に載せた小指を飴と間違えて口に含む。小指だったものはいま舌の上であまく、夜のほうが幻だったと言い聞かせることに成功する。いいわけを生きている。いいわけしたい何も、誰も、いなくなった時、ぼくは人間をやめるだろう。きみに会いたい。ぼくを平凡だと笑うきみに会い、よくあることだよぜんぜん特別じゃないよと笑って欲しい。その言葉になら素直にうなずける。絶望はいつもきみに劣っていた。飽き性の僕はそれをいつまでも見ていられた。

5+

No.796

あまさず受け止めたかった。こぼさず食べたかった。逃がさずつかまえたかった。きみは、怖いひとだね。優しい手がそう拒むのを待った。僕はずるい。知ってる。あなたに追いつくために、ずるくなる以外に思いつかなかったんだ。こども、死を美しいと信じているね。ありふれた出来事だよ。いまも、ほら、誰にも。会いたいひとがいる。と同時に会いたくないひとでもある。僕が生まれる前のあなたと、生まれた後のあなたにほとんど差はない。あなたはあなたの時間を生きて、僕は僕の時間を生きる。少し併走するかもしれない。どこかで交わるかもしれない。間違いをおしえて、この気持ちを恋だと誤解する前に。ほどいて。

5+

小説『机上の星』

首にかけた手を少し離し、また押し当てた。あなたは考えている。僕をどうしようか考えて結局殺す。それから部屋の中をうろうろすると、ここは狭いと言い残して散歩に出る。久しぶりに本物の太陽を見て、ああ変わっていないなと呟く。通りすがりの恋人同士が真似をして笑う。最近女の子が産まれた店主のいるパン屋からミルクパンとメレンゲを買う。あなたの幼い頃からの好物だ。それを持って公園へ行くと男の子が物欲しそうに見ているので渡す。親から叱られる。あなたはまた厭世的な考えを始める。ひとしきり鬱を愉しんだら喫茶店へ行く。前回来た時と雰囲気が変わっており壁に掛けられた絵が無くなったからだと気づいた。あの絵は?常連客へ訊ねると「夢の中」と回答がある。そうか。あなたはテーブルにコーヒー代を残し、住み慣れた部屋へ戻る。あの常連客は誰の問いに答えたんだろう?忘れかけていたが殺されたぼくが机の上にあるのを見て、ひとりにして悪かったと心の中で思う。大丈夫。分かっていたから心細くはなかった、あなた、そういう人だよ。そういう星のもとに産まれたんだよ。あなたは今日外であった事実には何一つふれず、今日感じたことだけをぼくに込める。ぼくはあなたが感じたすべてを受け取りもう一度産まれ、いま読者に読まれる詩となる。人は僕をあなただと言う。あなたはもう、別の僕を手にかけている。

3+

小説『ぼくたちの春夏秋冬』

最後の花火が落ちたとき
月が出ていることに気づく
隣の横顔は冷たいだろな
いま触れなくても触れた記憶で分かる

アスファルトを裸足で歩いてた
あなたを偽善者だと思った
羨ましいと思った
ぼくには取り繕いたいものがない

熱量を構成する一要素
信じた人も誰かの大切な人
単語に収斂された歴史が
ぼくの浅はかさを浮き彫りにする

小手先が通用しなくなり
呼吸がままならなくなり
虚栄心がほころび始め
夜が明けそうな冬の一日

あなたが現れた
ぼくの欠陥はあの日のためにあり
あなたの放浪癖はぼくのためにあった
出会った二人は一杯のスープを飲む

好きなものが少ない
だから見つけたら離さないようにしてる
おれにとってきみがたぶんそれで
間違いなさそうだからもう好きにしていい?

笑ってしまった自分がいた
余ってるからあげるよ
命は大切にしろと教わったからさ
見かけによらずぼくは優等生なんだ

春夏秋冬
夏秋冬春
秋冬春夏
夏秋冬春
そしてまた春夏秋冬

ワイドショーが行方不明事件を報じる
悲壮な面持ちのコメンテーター
大丈夫、それほど不幸ではない
ぼくたちは幸せに過ごしている

4+

【雑記】ですらないもの

ぼくの好きなきみをきみは捨ててしまったと言う。捨てたものだからもう拾おうとしないで欲しいと言う。どうすりゃいいの。ぼくには今もきみが泣きたそうにしているのが見える。思い過ごしだと否定するだろう。でもみえる。平行線は交わらないまま、だけどこの糸が平行線である証明は誰もまだしていない。

4+

【雑記】変えたことと変わったこと

今年に入ってから、詩の更新は5の倍数日にしました(これまでは3の倍数日だった)。なんとなくそれくらいのペースで良いかなと。

雑記が増えるかも知れない。雑記がルームウェアだとしたら、詩や小説はもうちょっとよそ行きな感じ。よそ行きってどこ行くんだといった感じですが、乖離してたり演じてたりとかいろいろあるので、ルームウェアではないのかな。などと書くとまるでファッションに興味のある人が豊富なコーディネートを自慢するかのように聞こえるかも知らないですが、本当にそんなことはなく、1シーズン1コーディネートだったらどんなにラクだろうと本気で思う自分に危機感を覚え、人並みにファッションブログや動画をチェックするなど。

さいきん私はお寿司を食べれるようになった。以前は食べることができなかった。食わず嫌いだった。しかし、いつしか食べれるようになった。なんとなく「刺身、食いたい」と思った日から。これと似たルートをたどった食材に「トマト」がある。かつて、私はトマトを食べることができなかった。しかしある日ふと「体がトマトを欲している」と感じ、食べたその日からトマトをふつうに食べられるようになった。

このようにそれまで拒絶していたものを自分から欲して受け入れていくことができるようになる、というのは人間や環境や考え方においても起こりうるんだろうなと思う。なるべく「今」の自分を尊重したいと、そう思う。しかし実際なかなかむずかしく、朝起きてハッとすることがある。歩こう。

6+

No.795

夜が消えていく
きみの瞳から
朝も昼も
やがて好きだったものも

始まりを見ていた終わりがあったよ
色褪せない夏があったよ
終業式の帰り道
八月の終わりに引っ越すことを告げた

きみは知っていたよと言った
いつ教えてくれるのかと思った
ぼくの口から
最後まで言ってくれないんじゃないかと

数年ぶりにきみと再会したとき
言った覚えが無いと言われる
突然で悲しかった本当に寂しかった
だからおまえは私を一生かけて甘やかすべき

電車の窓から橙が手を伸ばしても
絶対に触らせなかった
永遠に価値はないと思うから
いつかちゃんと消えたかったから

ちいさな時差の組み合わせ
またいつか会えるよ
あのひ会えたみたいにさ
そう言いきみは八月の向こうへ行ってしまう

今こそ満たせ
車両いっぱいに橙を
呼んでも取り戻せはしなくて
ふたり何度も見た星々が閉じた目蓋で増殖した

4+

No.794

カレンダーの日付をもう塗りつぶさなくて良いんだよ
ぼくは語りかける
ひとりごとより少しだけはっきりと
自信がないんだ、伝えられる自信が
きみが落とした視線を上げる時ぼくの胸に太陽が昇る
それは光と熱と命をもたらす
あたたかいものは生きている命
きみはそれをまだ知らないと言う
ぼくを前にして知らないと言い
もはや冷たくもないぼくの手がきみの頬をすり抜ける
あの日が最後だと分かっていたならぼくは
きみの幸せを願ったりしていないのに
月が訪れて離れ離れのふたりは
つながることのない世に淡い夜を夢見ている

4+

【雑記】2020.1.5

あけましておめでとうございます。
初詣へ行ったりもちを食べたりゲームをしたりAmazonプライム・ビデオを観て過ごしました。

きのうは『ワンダー 君は太陽』を見てずっと泣いてた。クライマックスなど泣かせポイントでのポロポロ泣きは結構ありますが、断続的に泣いてたのは初かも。ああ、この人もそういう事情だったのか…系にめちゃくちゃ弱いので、あと優しい人たちがほんと優しいし人間つよい。あたたかい。令和初の映画である。

映画といえば先日これまたプライムビデオで何気なく見てた『THIS IS US/ディス・イズ・アス 36歳、これから』という映画?ドラマか。ドラマの第1話が、何気なくポケーッと見てたぶん、まじで驚いてしまって「ええっ?!はっ!そういうことかー!」となった。このようになにかしら仕掛けがありますと言うこと自体がネタバレになってしまう気がしたけどもう言ってしまう。

昨年は感性に訴えるもの、本や映画やその他「すきだなー」と感じるもろもろに時間やお金や関心を傾けられなかったので今年は、いいなー好きだなーにウェイト大きめにしたい。

2020年もよろしくお願いします。

おわり。

5+