No.619

月が街を照らしてる
人工の光が卑屈に滲む
どちらもきれいだと感じていた
冷たいベランダに裸足で立って

夢の中は静かだった
海に潜ったようで
ひとりなのに温かかった
本当にあたたかかったんです

手に入らないものを
見ているだけで満たされるものを
誰にとってもそうであることを
僕はしずかに分かっていた

昨日は黙っていてごめん
羽毛にまみれて待っていた
唇に残る甘い粉末
この恋が終わるのを待ってたんだ

3+

No.618

大嫌いな君へ
君がまだ出会っていませんように
僕ほど君を大切にできるひとに

大嫌いな君へ
君がもう二度と幸せになりませんように
僕との思い出だけで生きていきますように

大嫌いな君へ
君の悪い癖は死ぬまでなおらないでしょう
誰も笑って済ますことはできないでしょう

大嫌いな君へ
だっていくらなんでも酷いでしょう
限定ケーキは店頭に並ばない

大嫌いな君へ
大嫌いな君
大嫌いな
大嫌い

拝啓、

大嫌いな君へ
嘘をつくのに飽きたのでそろそろ会いたい
君も同じ気持ちじゃないと不公平です

3+

No.617

声を届けたいひと
声が届かないひと
声を持たないひと
声に傷ついたひと

いろんな声があり
声を受け取る暮らしがある
ハローでぜんぶ伝わればいいのに
意地悪だから近づかないで

ぼくはあなたにとってよくない
存在かもしれません
あなたがぼくを好きになっても
好きを返せないかもしれません

贅沢な悩み
そんなものはどこにもない
自分に素直になろうとして
無視できない感覚を声にしただけ

綺麗事の優しさに
気づいてしまったら一つ終わるね
あなたは弱くて強かった
自分の口にした綺麗事のとおり死んだよ

遠近法を利用して
自分を悩ます奴らを魔法で消しちゃうんだ
だけど隣人は善人かもしれない
そう言ってためらうんだ

みんなは善人じゃないかもしれない
みんなは優しくないかもしれない
みんなは愛してくれないかもしれない
みんなはあなたを許さないかもしれない

だけど、

悪人ばかりじゃないかもしれない
慰められることもあるかもしれない
愛せることとがあるかもしれない
許すも許さないも言わずそばに置いてくれる

そんな人がいないと思うほうが
ぼくにはずっと不自然に思える

だから行っておいで
行って見ておいで
ずっとじゃないから大丈夫
終わりは作っておいたから

つらい時は声に出すんだ
誰も聞いてなくてもいい
誰かが聞いていてもいい
つらいと自分が分かるようにしておくこと

そうしたらぼくにも届くからね
あなたは頷いた
ぼくはそっと背を押して地上へ落とした
この世のあなたの誕生前夜に

5+

No.616

悪い夢の中にいるんだ
そう思い込んだ春の一日
曲がり角の奇跡は起きなかった
あどけない夜がひらいていく

書き換えられた辞書を手に
空っぽの主張を繰り返した
鳥にだってできるよ
飛ぶ生き物にだってそれはできるよ

瓶詰めの赤い花びら
光と文字が浮遊して
ぼくの顔をゆがんで映す
あなたの声をゆがませ届ける

あの子がいいな
この子になりたい
べつの生き物がいいな
今の自分じゃいやだな

星がゆっくりと点滅する
速度に合わせて歩き出す
支離滅裂な仮面は器用で
だけど誰からも発見されない

あの子に似てるな
あの子にも似てるな
ぼくの求めるものじゃない
あなたの探すひとじゃない

なりたい
目的語も言えないくせに
なりたい
四文字ばかりを繰り返した

とまってくれない時間が怖い
変わってゆけない自分が憎い
置いてけぼりのあの子が笑う
何をそんなに夢中でいるの?

ぼくは駆け出していた
逃げるためでもいい
血を回せ
心臓を眠らせるな

いくつもの街を過ぎ
花畑を踏み荒らし
銃撃戦をくぐり抜け
冷たい川を泳いで渡った

人の姿を失いボロボロで
何もかもが毛布に見えた
優しいかどうかなんてもういいや
声をかけてくれた者に尽くそうと思った

おそるおそる歩み寄る足音
顔を上げると目と目が合った
持たざるぼくと持ち過ぎたあなたの出会い
永い夜が性懲りもなくまたひらいていく

4+

No.615

何回も言って
安心しないで
平和なんかない
絶対なんかない

いつまでもあるなんて思わないで
いま、いま、この一瞬を
焼き付けるように見つめておいて
よそ見してる暇なんかないだろう

帽子が飛んだ
鳥が撃ち落とされた
木の葉が擦れて音を立てた
赤ん坊が笑った

(いま、)

波しぶきが上がった
ページをめくった
髪に新芽が絡まった
卵焼きが上手に焼けた

(いま、いま、)

体温計が壊れた
切手を新しく買った
カレンダーを見た
昔の名前を忘れたふりした

(いま、いま、いま、)

退屈な駆け引きを捨てて
邪魔な秘密をほどいて
心臓にストローを突き立てて
僕に足りないものを流し込んで

(さあ、今)。

3+

No.614

君に
幸せをもたらさないんなら
青春なんて飛び越えていいよ
一度も笑わず無関心でいいよ

北のほうへ伸びていく鴇色
白があるからあんなに淡い
混じりけがないのではない
たまたま白が降っただけ

剥ぎ取られませんよう
君を匿う夜が
正体を明かすことができない
それでも二人でしかいられない二人が

滑稽なほど脆くて
かなしいほど愛おしい
ある日突然かき消されても
誰を泣かせることもない

些末で
矮小で
生きてたって退屈かい
死んだらもっと退屈だよ

だから嘘なの
わがままなの
生きるより他にない
これは、そんな命の戯言なの。

4+

【雑記】2019.1.1

あけましておめでとうございます。
このブログも5年目突入です。
その間、いろいろありました。あなたにもいろいろあったでしょう。
これからもいろいろあっていろいろ変わるでしょう。
変わらないことが救いになることもまだあると信じて、元旦。
よくぞここまで生きてきた。誰もがそれだけで褒められるべき。讃えられるべき。

11+

No.613

見つめてはいけない
ソーダ水越しにしか
指先で弾く恋のありさま
音にならずに飛んでいけ

文字を飲み込んだからだ
砂に書かれた思いの丈を
波がときどき攫うのは
海がときどき鳴くのは

ゼロに戻れるはずはない
聞いてしまった
話してしまった
秘密ならここにあるから

うまくいかない
なんにもない
ここにはなんにも
壁を超えてぼくを覗き込んでも

名前は呼ばない
振り返らずただすれ違ってよ
花束で目隠ししてあげる
ぼくのいない道を進めよ

3+

No.612

救われるものはない
自分を大切にしない
あなたが手をのばしても
ぼくはあなたに生きて欲しい

許さないひとがいる
恐れるひとがいる
楽しむひとや喜ぶひと
すべてあなたの中にいるんだ

聞きたくない音には耳をふさぎ
涙を拭いてくれる手にだけすがる
当然のことだろう
いっぺんに大切にはしない

要らないものを置いていくこと
愛せないものを誰かへ譲ること
何がなくてはならないかを知る
あなたの血が何でできているかを

もう綺麗にできない昨日
思い通りにならない百年後
ぼくには描くことができる
それでもまっすぐに立つあなたの姿が

5+

No.611

金魚に酸素を与える
平穏に向かい投石する
あなたが呆れ返る
どうしようもない盗癖持ち

みんなの幸福を信頼しない
あなたにも信頼して欲しくない
おそらく長続きしないから
十五のぼくが笑うかな

綺麗事って優しさだった
きみにとってそうあるように、と
綺麗事って弱さだった
私に降らなかった光が降るように、と

おとなは臆病
子どもは危険
大層距離があったね
わかり合おうとするには

人知れず更けていく夜はない
ぼくの孤独もあなたの涙も
裏側の誰かの糧となり鼓動となる
気づかぬうちに境界なんて溶け切って

大丈夫、
打ち明けられない秘密も
だいじょうぶ、
一瞬でも空気を震わせたなら星になれる

新しい明日くらい迎えられるよ
なんてことない幸せが始まるだけ
今は怖かろうが嫌だろうが
黙ってぼくに愛されると良い

額をくっつけておいて
見つめ合わなくて済むように
やがて名前を思い出したら
見知らぬぼくにも愛をおしえて。

4+