【小説】暫定天使の最後の恋人【未完】

(思いつき。途中でぱったり終わる話)

あなたが今いるここは天国です。

と言っても風光明媚な光景を比喩しているのではなく、正真正銘の。

いわゆる死後の。

と聞いて「はい、そうですか」と答えた人はあまりいないだろう。

だから、そう答えた。

「あ、はい、そうですか」。

天使。
こいつ、天使なのかな。
まあいいや、天使は、おっ、という顔つきで僕を見る。

「きみは、ええと、感情の起伏が足りないね」。
「そうですか」。
「そうやって生きてきたの」。
「生きて、そして死にました。やり直したいとは思いませんが、何かの役には立ちたかった」。

暫定天使は「ふむ。」と顎に手をやり頷く。

何も考えてなさそうな感じではある。

「無欲なのは素晴らしい。手間が省ける」。

何の手間かは聞かないでおく。

僕はとことん他人へ興味が無いので、少しでも期待を持たせたくない。

もしかするとこいつは話を聞いてくれるんじゃないか?と思われたくない。

「天使には、一度だけの特権がある」。

あ、やっぱり天使だったのか。

「自分が気に入った相手を一人だけ生き返らせることができるんだ」。
「そうですか」。
「良いか、たった一人だ。これはすごい特権だぞ、なんたってたった一人なんだからな!」。
「はいはい」。
「ということで、俺は君に決めようと思う」。
「はい?」。
「俺の特権を君に使わせてくれ」。
「なんで?は?もっと適任者がいるでしょう。飲酒運転に巻き込まれ、幼い子どもを残して死ななければならなかった方とか、プロポーズされた翌日に余命宣告された方とか、僕よりもっとおま、いや、あなたの特権とやらにふさわしい、値する方々が、山ほどいるはず。そもそも僕はあっちに何の心残りも無いし、できれば二度とあんな世界には戻りたくないとさえ、」。

天使がにやついていることに気づいて僕は話やめる。

「…なんです?」。
「感情を、見せてくれたね」。
「それは…」。

あんたがおかしな判断基準を散らつかせたせいだ。

「とにかく、他をあたってください。あなたの特権の使い道は僕ではないはずだ」。
「君の決めることじゃない。もう針を戻しておいたから」。
「はあ?」。
「行ってらっしゃい」。
「はああ?」。
「そして、またここに、戻っておいでね。再会しよう、大好きだよ」。

何と言ったんだ?
天使の言葉は、最後のほうは、よく聞こえなかった。

やけに腹の立つ顔をしてたなあ、ってことくらい。

目を開けた僕はベッドの上だった。
正確に言うと、病院のベッドの上だった。
なぜここが病院と分かるかと言えば、僕はここで死んだからだ。
それだけは覚えてる。

他は、忘れてしまった。

まいった、どうやら本当に時間が戻ってしまったらしい。

シーツに突っ伏した姿勢で誰かが寝ている。

(疲れてるだろう、起こしたくないな)。

なんとなくだけどそう思った。

だけどそのタイミングは勝手にドラマチックに、否応なしに訪れてしまう。

瞬いた瞳が僕を見て、目を擦ってもう一度見て、幻ではないと知って声にならない声を上げる。

はくはくと口を動かして諦めた、おまえに、ぎゅううううううと抱きしめられる。

死にかけ。
いや、生き返りかけの僕に許されるレベルの抱擁ではない。

「…は、放せ、苦しい。また天使に会わすつもりか」。
「ご、ご、ごめっ」。
「耳がキーンとする」。
「先生!そうだ、先生呼んでくるっ!」。

おまえはナースコールというものを知らんのか?

立ち上がって駆け出しそうなところを呼び止めた。

「待って。少し静かにしていたい。誰とも会いたくない。先生、にも。おまえだけ、いてくれればいい」。

動き出していた体がピタリと止まる。

そそそっかそっかーと謎の素直さでもとの椅子に収まった。

「ほしいものは?」。
「…静寂。しずかにしろ」。
「あ、うんっ。そうかっ。ごめんっ。ごめんなっっっ」。

おまえは僕を見てにこっと笑った後、そわそわしながら俯いた。

(なんだこいつ?)。

白状しよう。

僕は、こいつに関する記憶を失っている。

名前も、関係も分からない。

ただ分かるのは、こいつが僕を大好きだなってことと、あのいけすかない天使によく似てるってことくらい。

ふーん。

体はでかいくせに、肝っ玉は小さそうだな。

俯いているのを良いことに僕はその姿をじっと見る。

ふーん。

せっかく「特権」で生き返ったんだ、ちょっとくらい羽目を外しても良いだろう。

吹っ切れた僕は、そいつに向かって口を開いた。

(飽きたのでここで終わり。あとはご自由にご想像ください。)