ありがとう
きみの眠りのために月は沈む
焼けた空が傷を癒す間
優しさが形を変えていく
気づいていないふり
やめようかな
やめてしまおうかな
駆け引きだけが残っている
悲しませることは簡単だ
自分に嘘をつけばいい
起こらない事件のため
流されない血のため
いつかみんなに見放される
それまではまだ
涙は輝くものだと言って
それまでは、まだ
ありがとう
きみの眠りのために月は沈む
焼けた空が傷を癒す間
優しさが形を変えていく
気づいていないふり
やめようかな
やめてしまおうかな
駆け引きだけが残っている
悲しませることは簡単だ
自分に嘘をつけばいい
起こらない事件のため
流されない血のため
いつかみんなに見放される
それまではまだ
涙は輝くものだと言って
それまでは、まだ
天と地の結び目がない地点。産まれてすぐに新しく消える。知らない世界でまた産まれる。点滅の奇跡。言葉を取り上げられて途方にくれるかも知れないというのは杞憂だった。ぼくたちの伝達手段の総量は変わらない。いつか飲むはずの瓶の中身を絵の具に混ぜてわからなくした。得体の知れない存在にそれを手渡して絵を描かせた。崩壊する起承転結。迷子の文脈。語彙は舞って剥き出しの肌に染み渡る。ゆきとどいてゆく、かなたの方へ。誰もたどり着かないところへ。ゆきとどいてゆく。誰かの信じる永遠の方角へ。馳せる思いだけが触れられる場所へ。
手段を選ばないくらい強くなりたい。そう思うけど手が汚れたらちゃんと眠れない。もしもインソムニアが形あるぬいぐるみだったら、僕を眠らせてくれなくてもしっかり抱いて夜を過ごすのに。原因は他のところにあるって、どうしてそれを認めないんだって、答えは簡単に出せたはず。原因を突き止めない間は、何も改善しないあいだは、きみは僕から目が離せないだろう。まるで自分ばかり正しいみたいに話すね。せっせと繕ってくれて、かわいいひとだな。僕の所作の中でとりわけ食事の作法には眉をひそめるね。戒めにもならない。目の前に並んだ食材すべてに名前をつけるんだ。それから切って口に運ぶ。たまには砕いて、潰して、刻んで、捻って。だから時間がかかるんだ。利き手の握力、よく切れるナイフと刺し易いフォークだって欠かせない。水槽越しの光が銀色を跳ね返す。壁一面の聖書。魚にはわからない言葉。どちらが狂ってるか。決まってる。そんな質問をしてくるやつのほうさ。
ちいさな光を信じろ
頼りなく消えそうなほうを
あなたが目を留めた
きみの気をひいた
ちいさくて
頼りないほうを選べ
表面上は愛想笑い
生き抜くために
守り抜くために
すべてを費やし
すべてをなげうち
手抜きと最も無縁に
ひたむきに
健気に
いっそかわいそうになるくらい
スマートに
シニカルに
冷徹に
不器用に
持てるすべてを持って
放てるすべてを放って
みつけたものを守ること
気に留めたものを失わないこと
迷わないこと
気づかないふりをしないこと
認めること
受け入れること
愛しいと声に出すこと
重ねて伝えること
臆さないこと
逃げないこと
二度と
ちゃんと向き合って飲み込むんだ
そして逃がさないこと
たくさんの蜜をとどけて。光なんか夢見させないで。きみが僕をだめにして。早くいちばんになって。それ以外に邪魔させないように。ほだされた眠りの中でつかむもの。残暑にきらめく水道の蛇口。とめどなく溢れる水。液体の中で歪む風景。溶けることのない氷にとじこめられた春。旋風を受けて顔を上げよう。知らない色を確かめに行こう。明けずの夜と呼ばれたルービックキューブ片手に。使い古したランプにまた火を点けて。
朝を運んでくる夜になんか眠りを渡さない。まだ瞼は落ちない。悪癖を嗜んでいる、秒針をはずして。庭の池に落とした涙は百年後には宝石になってみつかる。リボンの髪の女の子に。その日の空を今晩はとりかえっこ。だからいつもと違う星座だね。博物館から逃亡してきた影絵たちが芝生の上を躍り狂う。音もないまま。僕も静かに息を吸って、世界の耳元で囁きたい。ほんとうは好きだって。きみだけを考えていたって。
いつも影を追っていた
爛れても
変わっていても
好きでいられる
自分を信じたくて
誰のための眠り
誰のための祈り
誰のための微睡み
誰のための二人
答えのない問題を
花びらにして敷き詰めて
争いを避けながら
殺伐と平和を演じる
長く続かない楽園で
誰も幸せにしない、
僕たち以外の誰も幸せにしない、
廃園のような花盛りの下
血を流す空を見上げた。初めてばかりが起こって、違う命を見ているみたいだった。僕が望まず手放したものは意志を持っているようで、引き止める努力もしなかった。言葉は排水溝に詰まり、不快感は黒々と溜まった。うずくまるとどの骨が動いてどんな形になるかってこと。何も問わずそれだけを描写するあなたがいた。信じなくても信じてもそこにあったもの。拒み続けた現実の中で、一日も。一瞬も色褪せなかった愛を知るんだ。
知っておくといい
ひとは簡単に忘れることを
たちまちに過ぎ去ることを
長く覚えておけないことを
その痛みは一瞬でしかないことを
努力で繋ぎ止められるもの
そう多くない
僕達にできることの数
ほんとうは少ない
とても、すごく、少ない
幸せそうに振る舞うひと
何かを確かめたがっている
ちゃんと幸せに見えるかって
問いかけてきている
ふ幸せを滲ませるひと
探すことを委ねている
何かありませんかって
外側から見たがっている
眉をひそめる汚物の中に
宝物を見つけたら
手をのばす?手を汚す?
神さまを信じる?
愛や夢を語りながら?
誰の墓標もウエハース
雨が降って蛙が鳴いて
列挙するまでもない四季の賛歌の中
踏みにじられてものともせず
泣かされた相手を許す必要なんかない
永遠を語った
あなたもいつか死んで
またひとりになるけれど
教えてもらった青の名前が
明日もぼくを生かすだろう
いいことだとも言わず
わるいことだとも言わず
とどまることなく流れながら
たまに少しのぬくもりと光
誰かを困らせないだけの愛と水
必ず終わるものを笑ったりしない
必ず置き去りにするものを憎まない
過ごした時間を後から悔いない
出会いと別れは星の数ほどあって
そのひとつひとつに灯火は宿るから