これは取扱説明書。
浴びるように愛されることを恐れない。裏切りに期待しない。雨の降るところは見えないと言わない。風の強い日は鳥を探すこと。青信号のかがやきを宝石より美しいと認める。他人の傷について見ぬふりをしない。ヒーローになることを避けない。あれは手に入らないものだと二度と口にしないこと。それから、こんな僕を信じないこと。君は君の見た世界を生きること。
これは取扱説明書。
浴びるように愛されることを恐れない。裏切りに期待しない。雨の降るところは見えないと言わない。風の強い日は鳥を探すこと。青信号のかがやきを宝石より美しいと認める。他人の傷について見ぬふりをしない。ヒーローになることを避けない。あれは手に入らないものだと二度と口にしないこと。それから、こんな僕を信じないこと。君は君の見た世界を生きること。
「テスター」
暖かい場所を
求めて海を渡るんなら
冷たい海を
越えようとするんなら
たとえばこうするのは
どうだろう
僕はどうだろう
嵐で命を奪ったりしない
牙と棘はそのままでいい
かわいいなんて
いちいち言わない
そのかわり少し甘やかすかも
知らないことを知っているから
だから君は
君の知っていることを教えてくれよ
世界のことなんかじゃなくていい
君自身についてでもいい
何色が好きで
どんな歌が歌えるのかとか
我慢できない他人の癖や
平熱の温度
便利な道具だな
くらいに思ってくれればいい
最初のほうは
そしたらだんだん
それ無しじゃいられなくなって、
もしかすると好きになってくれる
あ、ごめん今のは無し
撤回する
だからナイフをしまって
これから一日だけ
お試しでいいんだよ
見張りのない窓を抜け出し
夜に虹を刻みに行った
まだ色彩を覚えているうちに
どこかに残しておきたくて
坂を転がるオレンジ
沈む夕陽に帰って行った
いとしの内出血
まだここにいるメッセージ
足りないものはない
そう気づいた
欲しいものはない
それが分かった
砕かれた氷に春を詰め
とどかない一日を飲み込む
まだ夢見心地だ
こんなにも指先はかじんで
君が迷子になって
困るのは僕
行き場をなくして
途方にくれるのは
あてもない旅を恐れるのは
道なき道に怖気づくのは
遠くなった時間が
また間近で驚かされる
もう終わったと思っていた
もう始まらないと思っていたのに
シンメトリーとループ
似通った光景に何度も遭遇
いつからだったか
君はもう僕を見ないね
落ちていく
どこまでも
真綿のクズと一緒に
突き飛ばされたのか
足を滑らせたのか
それとも自分で飛んだのか
落ちていく
そう怖くはない
もしかすると地面は来ない
こうなること
ずっと知っていた
ようにも思う
丘から見下ろすように
人の作り出した
橙の営みを見ていた
登るように
落ちていたって
涙がこぼれそうだった
ひとつひとつの窓に
これまでの僕が見える
笑っている怒っている
悩んでいる眠っている
疲れている回復している
疑っている信じている
しんじて、いる
いつか終わること
これからも続くこと
報いられること
裏切られること
それでも
それを
しんじてる
ちぎられた手紙が
花びらに変わる
この世のものとは思えない
それを表す言葉はない
君に伝えることはないだろう
体感することでしか知ることはない
そうだった
僕たちはひとりひとり
ひとつひとつの入れ物だった
それを忘れて
それに抗って
それから逃れようとした
ガラスが破裂する
活字が散乱する
手が伸ばされる
ありもしない声が聞こえた
遠ざかる日々の中から
火と雪ならいいのに
近づかないことの理由になるでしょう
言い訳を考えなくても済むでしょう
つまり平和ってことだった
僕は文節を脱臼させて遊ぶ
君は星空の下で眠るだけ
残念で心細い
いつまでもはそばにおれないこと
正気に戻ると狂ってしまいそう
だからティースプーン一杯の毒を
狂気は羽毛より柔らかく包むから
誰にも文句は言わせないよ
いつか後悔するんだろう
今その手を離したこと
弁解の一つもしなかったこと
幸せになれるなんて嘘をついたこと
絶望がなければ童話は要らない
最後の日を終えたらまたベールを被り
死者の吐き出す言葉の列に加わる
そして僕たちはまだ誰も知らない歌をうたおう
僕を蔑ろにした奴が
もっと早く消えればいい
例えば君については
とりわけそう思っている
いつか同じ目に遭って
似たように傷つくくらいなら
君のことは憎いと思うのに
だけどそれと同じくらい
そのままでいてほしいと思っている
罰なんかの観念は持たずに
いつだって慈悲と遠くにいてほしい
僕の存在をおびやかす
非常識であってほしい
フォークがさすもの
スプーンにのるもの
初めての光景ばかりを見せて
プラスチックより脆い世界のために
簡単に笑い飛ばせる妄想
なけなしのイマジネーション
永遠なんていらないんだ
君を壊してもいいと考えている
もしも新しい仮面に手を伸ばすんなら
地獄に行きたかった
悪党と友達になりたかった
血の海で溺れた話
他人のする命乞いのことを聴きたかった
だけど取り囲むのは白い花だった
つくられた純潔でも
それで満足する人が多かった
または満足したふりをできる人
蜘蛛の巣で髪飾りを作ったり
黒猫に名前をつけてあげたかった
あなたたちは知らないだろう
あれがどんなに寂しがりやであるか
鍵のかかる棚の本が読みたかった
口にすることを禁じられた歌を歌いたかった
ロープの張り巡らされた森の入り口をくぐって
致命傷を負った脱走兵に会いたかった
待っていた
棺の中で待っていた
腐らない体は退屈でしかない
涙の一粒も拭えないくせに
その部屋のドアから漏れ香ってくる
今朝方ガラスの割れる音がしたから
海での一日を詰めた瓶を
おそらく落として割ったんだろう
証言から確信を得ること
あくまで自己満足でしかなくて
ぼくはたぶん怖いんだ
きみがあっけなく肯定すること
季節は間違いなく移り変わっていた
繰り返しに見えるから気づきにくいけど
生まれたなら死んでいた
誰もそのことを悲しみはしなかった
古い本の中で
忘れられる草花のしおり
また明日ねと閉ざされたページ
それは何百年でも待つだろう
迷宮でした指切り
相手が誰だったか
やっと思い出したよ
ぼくはずっと酷かったね
くるぶしまでの水が続いている
映っている星を拾って食べる
空の模様が一つ消える
舌の上で転がしながら判定を待つ
こんどもだいじょうぶだった、
誰にも見られることはなかった
食道をゆっくり開いたら
半分柔らかくなったそれを流し込む
また歩き出すとしよう
指先についた蛍光塗料が
少しずつ存在を知らしめる
発見の確率がかすかに上がる
近づいてくる球体
でたらめな比率
肌に感じる視線の正体
君からのメッセージ
詰られたくない
まだ誰も信じることができないのかって
その感性で僕を駄目にしないで
同情は甘くて優しいことを知っているんだ
指の股にこの夜のビー玉を転がしたら
霧を吸って膨張した蜘蛛の巣が
新たな血管となって僕を火照らせる
君の冷たい溜息が聞こえる
生き物はあっけない
せいぜい百年か二百年
チャートで進む一生は慎ましやか
約束を守り抜くことなど難しくはない
破りたいのは暇つぶしをしたいからだ
一つの名前と顔をもらいながら
誰かの反応が知りたくて馬鹿をする
昨日までの僕だってそうだった
飲み下された星が胃に落ちた
と同時に思い出がひとつ消えた
それはどんな内容だったんだろう
一分前よりちょっと身軽になる
病床から見えていた景色
変わることはないって思っていた
君が持ってきた物は絶望じゃなかった
それだけで充分だよ