no.304

どこまで届くだろう
そんなこと考えずにボールを投げる
白い魂は吸い込まれるように高く上り
何か見つけた地点に無事落下する

虹のような偶発性はない
だけどほんとうは全部決まってるんだよね
赤いハンカチの縫い目に大人たちをみていた
まだまだ子どもの僕たちは

聞いたことがないのに汽笛だとわかる
誰かを置いていく人
誰かを見送る人
始まりと終わりはいつだって切ない

頬の下に木目がある
その匂いを体いっぱい吸い込む
満たされるのはせいぜい肺くらいだとしても
生まれ変わらなくていいように今呼吸をする

2+

no.303

テーブルマナーは上等
ほかの命を食べ残し
明日出かける海岸について
うわさ話を楽しんでいる

箱詰めされた子供たち
知らないということ
ここではもっとも尊くて
人々はたまに遠くを見た

捨ててきた故郷
残してきたクラスメイト
抗菌の徹底した空間で
孤独なウイルスに恋しながら

漂着だけが頼りです
名前も性別も知らないけれど
留まることはできません
これはいったい誰への言い訳

雑音が重なり過ぎて透明になる
風景に溶ける
違和感をたたえたままで
昔からそこにいたように実在する

指の間から落下する煙草
やっと辿り着いた答えが紫煙に消える
くぐってもくぐってもたどり着かない
あの波のむこうはもうこの世ではない

2+

no.302

計画はいらない
ふたりは海を山をこえる
この星から出たい時には
夢を見ることした深い夢を

つないだ手のあいだから
種がこぼれることがある
それは土に埋めると金を生む
だからふたりは旅ができた

ある人がふたりの手を欲しがった
ぼくたちのうちいつも左のほう
ぼくじゃないほうが右手を奪われ

ぼくたちのうちいつも右のほう
ぼくの左手が奪われ
遠く遠くへ行ってしまった

ふたりは初めてばらばらになった
行き先がまとまらなくなってきた

やがてひとりずつ行動するようになった
でも金曜日の夕方になるともうさみしくて
たまらなくさみしいからまたふたりで歩いた

ぼくたちは続けて旅をした
確かめ合うためだったかもしれない
お互い以上に安心する場所はないと

ある国で犯人を見かけた
そいつはふたりの手をつなぎ合わせて
富と名誉を獲得することに成功していた

その晩犯人が殺された
現場からはふたりの手が消えていた
だけど警察は気づかなかった

ぼくたちは手を取り戻した
だけどもうくっつかないから
洗濯物が流れてくる川へ捨てた

犯人には子どもがいた
まだ小さな子どもだ
双子の

ぼくたちは後戻りした
自分たちで双子を育てることにした
双子は無口だった

子どものいないぼくたち
親を殺された双子
川を流れていく二本の手

過剰でもなければ
不足もしていない
愛と幸運のクロニクル

2+

no.301

雨の流れる跡で文字を教わった
これは雪ばかり降る国の物語
あれは龍を飼い慣らしている国の物語

どれもこれも虚構めいて
だけどきみはいつも真剣だった
もしもぼくが一度でも疑えば

きっと終わって
きっと途絶えて
きっともう会うことがない

そんな気がしたし
絶対にそうだった
夕陽の見える坂の上にいた

片手に季節外れのレモネードと
プラスチックのネックレス
足元は色違いのスニーカー

下手くそな蝶々結び
いつまで経っても向上しないね
やり直してあげよっか

(そう言う?
まさか!)

毎日ぼくが結んでもいいかな
もしもきみが嫌でなければの話だけど
そう言ったんだ

きみは眠る直前まで空に文字を描いている
ぼくに教えるそのでたらめが
本当をちゃんとつくっていく優しい世界

飲みかけのオニオンスープ
左肘に溜まる毛玉
こんな夜は放課後のきみが見えるよ

2+

no.300

ほんとうに何もいらないんだ
嘘だと思われるから
欲しくないものでも並べるんだけど

同じ日を繰り返す時計
氷でできた枯れない花
日によって色を変える小鳥

差し出せるものを差し出させてあげる
無駄なことを強いてあげる
それで相殺される何かがあるんなら

引き換えにできないものなんてない
かけがえのないものなんてない
時が押し流せないものなんてない

それが口癖だったのにね
口癖にまでしないと
自分を騙せなかったんだよね

わかっていた
だからお互いさま
この名前はもう呼ばない

あなたはいつも
ぼくの向こうに誰かを見ていた
ぼくではない、ぼくの知らない

気づいていたのかな
あなたはきっと忘れない
忘れないまま生きていくのに

2+

【雑記】食ってはないけど生きている、詩で。

気に入ってもらえる作品の一例

・魂を込めなかったもの
「込めてやろう!」って気負いがないぶん素が出やすいというか変なブレーキかからないんだと思う。

・後から読み返すと恥ずかしくなるやつ
・「明日の朝に消しとこう」って思う類
本当のことや本当に書きたいことは大抵恥ずかしい。

よっしゃー、どやっ。で書き終える時と、んん?なんか出来たぞ?どうだ、読んでみる?の時と半々くらい。
着地点は自分でも不明のうちに仕上がることも結構。
頭の中で完成する前に書き出す→自分で「どうする?」ってやりながら書く→これこれっていうのが出てくる→気分が良い。ってルートは多いかも。

自分なりの「こうやって詩を書いてきた」論を作文するのも面白いかも。

自分では詩は感覚だろうと思ってたけどたぶん法則とか無意識に強いてるルールとかあって、それを感覚じゃない部分で整理すると面白いのかも。

私は書くことで救われていた時期があるので(今もか)、もしそれを見て誰かが「ふーん」って思って興味持ってくれるといい事だと思うし、いちばん下準備要らないのが詩や作文じゃないかなと思う。さらに言えば大抵のことって詩をベースにしてるんじゃないかな。音楽も絵も。イラストや歌や写真に詩は劣ると思ってた頃があったけど、今はそう思う。すべてのベースだって。
まあ、視覚的に訴えるものが強いのは分かるしできるだけ多くの感覚器に訴えるものは強いよ。映画とかコンサートとかね。
でも、詩は視覚部分、まあ、あとは触覚(詩集であれば紙の手触りとか)がせいぜい。
だけど、そのぶん読み手の想像力に委ねている。それって感覚器に頼らないぶん無限で無敵とも言える。

これまでの私の反省点としては「伝える努力」はあまりしてこなかったと思う。書いたから読んでね、ってスタンスでまあそれはそれで自分なりのやり方って言ったらそうなんだけど、他に何か新しい方法あるんじゃないかなと色々考えている。

私はこれで食ってはいないけど生きてるよということが誰かに伝わることがあれば、それは自分にとっても良いと思う。

漠然としたままとりあえず考えはメモ。

4+

no.299

宝石みたいなお菓子を前に
君はもう長いこと泣いている

クッキーに埋め込まれたチョコチップが
恨めしそうに窓の外を見る

ばらばらになるしかないふたりを
僕が、まもるよ

そんな呪文に力なんてない
だったら魔法は綿菓子みたいに無用

いくつもの暗号
(これ以上は無いんだよ)

他愛ない脱走計画
(散りばめたヒントの応酬)

僕たちの未来は
疑わなかった初恋にかかってる

果たすためならこんな喧嘩だってする

いつか切り裂いて新世界のため
葬ったつもりの永遠が復讐をする

3+

no.298

きみの詩に合うコーヒーをいれたよ
嘘ばっか、
だけど嘘をついてでも話しかけてくれること
本当はとてもうれしかったよ

ぼくの見栄は邪魔にしかならないよね
ありがとうって言いたいのに
絵の具もピアノもないからさ
ましてやかわいい笑顔なんて

いつだって暗いところにいるんだ
どんなに賑やかだって
明るい色彩に取り囲まれていたって
定員一人のワンルーム暗闇

ほんとうのぼくはいつも裸でそこにいて
得体の知れないものが傷つけるのを待っている
そうしたらそこから言葉が生まれるから

それはだれかを慰めるかもしれない
それはだれかをこの世界にとどめるかもしれない
そんなことを、ほんのちょっとだけ期待するんだよ

波立っていない液体は蒸気になって
香りはほんの少しずつ空間をつくり変えてく
ままならないことの心地よさにもっと早く気付くべきだった

二度と取り戻せない時間のいいところって
自分で名前をつけてそのとおりに呼んでいいってことだよ
書き換えのできない記憶だからこそもう逃がさない

今日も生き残ってしまったと嘆くひと
ここには詩とコーヒーがあって
ぼくはいつでも声なき声に耳を澄ませている

3+

no.297

僕は正解を知っている
だから教えたくなかったんだ
今なら分かってくれるだろう

雪より鱗粉の降る国に
言葉はなかった
文字もなかった

人々は眼差しと気配で感じ取った
それを不便に思う人はいなかった
僕だって例外ではない

汚染は旅人がもたらした
僕たちは新しいものに敏感で
全員が過敏だった

これは神聖というのだ
だったらあれは逆なのだ
あれは秘密と呼べるのだ
だったらこれは暴露される

めまぐるしい
嵐のような富と欲望
僕たちは守りたかった
だから君を閉じ込めた

窮屈だったと言うだろう
わけが分からなくて
退屈だったと言うだろう
希望とはそんなものかもしれない

君がまた陽の目を見るときに
この国はどうなっているだろう?
通じない言葉を口にする僕を
君はどんな目で見るだろう?

2+

no.296

風があの日を運んでくる
いつだって迷子になる
そしてまた出会うことがある

奇跡は麻痺する
純粋は匿われたまま
邪道へのショートカット

非礼を模倣する
既知をあげつらう
社会を踏みにじって

笑顔を見下げた
こんなことはしたくないんだ、
それって、ねえそれって本当?

うわべのやり取り
初めての愛撫に似ている
つまり言語化への恥じらい

黙っているうちに君と僕
こんなことに費やすんなら

まるで平気にお互いを置き去りにして

またばらばらになっちゃうね
何度だってさらわれちゃうね

3+