No.834

雨が首を絞めに来る
約束したでしょうと伝える
十四の夏休み
新聞紙の雑な切り抜き
青と黄色を正確に知りたく訊ねた
僕は、とスカートの裾をつまんだ
私は、とネクタイの端を引いた
簡単だと知らなかっただけなんだ
終わりも始まりもこんなに簡単だなんて
言い訳を聞いてくれる人はいない、いなかった
あらゆるところに雨が降る
隙間を埋め尽くすように世界を溺れさせに来る

3+

【小説】夜の果て

かわいそうな話を百も千も集めて、もう愛してもいいでしょう?と尋ねたかった。夕焼けは誰かの血になぞらえるには光が、多かった。ぼくが所有していないものなんてないと、認めたくないんだ。

(理由を、残して)。

懇願ばかりするんだ。あきれた表情を浮かべていても、ああ好きなんだとわかる。こいつは、ぼくを、好きであるんだ。羨ましい。憎たらしい。ぼくも誰かを好きになってみたい。そんな目で誰かを見て、こんな気持ちにさせてみたい。それ、なんて、殺し文句。月に赤が混じって明後日の向こうまで沈む。夜は静かだ。馬鹿みたいだ。

夜は、夜だね。
月がなくても。
星がなくても。
黙っていても。
喋っていても。

夜を夜たらしめているものって、いったいなんなんだろうね。ぼくたちを包んでいるこの得体の知れない、静けさ。気の遠くなるような昔から運ばれてきた熱のような、それでいていま生まれたばかりの風のような。虚無でもなく、豊潤でもない。ぼくはそれを嫌いにも好きにもなれる気がする。中立、ということだろう。興味が無いんだ。夜には自分の抱えているものがなんであろうと、興味が無いんだ。無関心。それはある種の優しさと呼べるものかも。構われたくない。匿われもしたくない。ただ放っておいて欲しい者たちにとって。

たとえばそれは、ぼくたちのような。

弱さを理由に強者に楯突く。そんなやり方があったかもしれない。やり方の数だけ物語は、あったんだろう。未来は。結末は。だけどそれはもう弱さではないから、ふたりとは無縁だった。賢く生きられなくていいから、簡単に冷たくなりたくはない。大勢に分かってもらえなくていいから、誰かには丁寧に撫でられたい。それがわがままだと言うんだよ。ぼくたちは贅沢なんだ、誰にでもできることじゃないだろう、逃避行って。

月が出ているのに影が出ず、ぼくら今なら世界の果てまで行けそうだった。あるのなら。果てなんてものが、どこかにまだあるのなら。追手を気にして振り返ることも、いつからかやめてしまった。誰もここまでは来られないよ。声を介さず会話ができる。思いがそのまま流れ込んでくる。嘘もへったくれも無くなってしまった。そのうちふたりでいる意味も失って、ひとつの星座に組み込まれるかもね。そしたら嘘なんて吐きようがないや。

台所の床へ落としたナイフ。
ぼくという存在を生じた男女の亡骸。
夕焼けに混じって分からなかった。
本当に刺したかどうかも。
見破られる隠しきれない指紋の数々。
だけどその持ち主らは夜にしか所有されない、もう。
星座にまぎれて放つ光も届かない、届かせたくない、もう。

4+

【雑記】よんだりみたりきいたり

文学YouTuberベルさんの動画を見るようになり本屋へ行くようになる。

また紙の本を買うようになる。いろいろ買う。やはり国内小説が好きである。綿矢りさ『意識のリボン』を読む。綿矢りさは綿矢りさだ、いいな…。と思う。伊坂幸太郎を読む。シーンが切り替わって「ん?ん?」ってわからなくなる。伊坂幸太郎わりとわからなくなる…。でも評判なるので読む。わかるようになりたい。相沢沙呼『medium』を読む。これはね…!さんざん絶賛されてるし「すべてが、伏線」って挑発してくるので、ふーん、へーえ、ほーらやっぱりそうだ。って思ったらオッフ!ってなった。油断してましたね。装画キレイですね。遠田志帆さんですね。calamaioのDiteさんと活動されるなどしていた…。書店だと「はっ!このイラストはあのサイトの絵師さん…!」って出会いがありますね。あたかも絵師の親族のように本の傾きを直したり整えるなどする。アマプラで『祈りの幕が下りる時』を観る。守りたい人のために嘘を吐く系は刺さる…。『ハドソン川の奇跡』を観る。42年間のキャリアが最後の208秒で裁かれるの恐ろしすぎる。これはハッピーエンドだったけど(実話だから厳密にはエンドじゃなく人生は続いてるんだろうけど)、でもこれこんなにシミュレーションとかしてまで精査されるのつらい…。こっちだって人間なんだいちいち重箱の隅つついてくるような真似すんなようわあああ!って発狂もしくはいろんなものを衝動的に破壊しそうだが、そうならないからパイロットとかなれるんだろうな…。空の上という密室空間で多数の人命を預かる立場だもんな…。映画の最後にあったけど、その人命の後ろには彼らの家族とか友人とかそういうぶわーっと大樹のように人間関係など拡がってて、想像するだけで恐ろしくてパイロットはすごい…。

いま窓の外で蝉がみんみんじゃわじゃわ鳴いて、黒い犬がわんわん吠えている。

4+

No.833

渡すため取り出した心臓を
これ要らないと突き返された
戻らないのにもう戻せないのに
どうしてぼくは取り出してしまったんだろう
どうしてぼくは後先を考えなかったんだろう

それから体がからっぽになったみたいで
手足を動かしても重力を感じられなくて
死んでしまって境目を彷徨っているような
誰も助けてくれないし助けてあげられない気がした

レモンミンツを床にぶちまけてしまって
ぼくだってもうどうでもいいやと思ったんだ
受け取ってもらえなかった心臓のこと
すきま風にさらされる生乾きの輪郭や
救いだのヒーローだの考えるいつも夢見がちな脳

似ていて違う夏が来る
ぼくは生まれ変わらないまま歩き出せる
二度と戻らないことも帰ってくることもできる
羽ばたけないぼくはとりあえず靴ひもを結ぼう
散らばった色あせないレモンミンツを歩こう

4+

No.832

きみがみくびるのでぼくはきみを笑顔にしようと思う。雨が降っても楽しいことなんだと、子どものころに言ったでしょう。新しい靴が汚れるのも構わず、虹の映る水たまりを飛び越えたでしょう。きみがきみを信じているかどうかなんてぼくにはまるで関係がなかった。ぼくはきみを笑顔にしようと思う。きみに笑っていてほしいのはぼくだから、ぼくはぼくの願いを叶えることに躊躇がないんだ。

6+

【雑記】いつかこぼれおちるものの話

アカウントを作っちゃ消し作っちゃ消しで続いているのはここくらいなもので、むしろここがあるから消すのかな?と思います。

そしてふとある日つまりさっき、作ったことを忘れていたブログを見つける。

んー?
あー。
あー……。

となって、好きな気持ちは出し惜しみしていてはいけないんだと本当に思う。

ずっと好きだと思うじゃん。

ちがうんだな。

本当に変わるんだよ。

ずっとあると思うんじゃん。

ちがうんだな。ちがうんだ。ちがうんだなー。

そりゃたしかにずっとあるものもあるけど、全部がずっとあるわけじゃないし、むしろずっとあるものって珍しいよな。

なのでずっとあるものはずっと大切にしないといけないし、一瞬でも好きかもと思ったものは明日にはもう忘れているという可能性を感じつつ、でもここへ降りてきてくれてありがとうという気持ちで慈しまないといけない。

それを好きな人にはかなわないので、好きなものができたら「いまの私にかなう人はいない」というつよつよな気持ちで愛するとよい。

3+

【小説】フルーツバスケット聖夜

フルーツバスケットが苦手だった。いや、きらいだったと言っても良い。

ぼくは人の考えていることをよく読み取ることができ、幼少期はそれで大人たちを喜ばせたものだ。おみやげの隠し場所、記者にも暴けなかったという秘密、趣味で練られたという暗号、子ども向けの本には掲載されないような謎々……。

ぼくがそのすべて解くことができたのは、博識だったからでも早熟だったからでもない。ぼくは少し裕福な家庭の、平凡な子ども。だけどぼくには特技があった。

どんな難問であっても、出題者らの瞳の中に答えを見つけられるという特技が。

視線は雄弁だ。誰にとっても平等に雄弁なのだろうが、他の人よりもぼくに対して、少しだけ多く語りかけてくる。むき出しの臓器だもの。

同年代の子たちと過ごす時間が増えてくるとぼくは「特技」を伏せるようになった。賞賛よりも悪意が向けられることが増えたためだ。

彼らはぼくを嘘つきと呼び、勝手に機嫌を損ねた。正しく解読するぼくよりはるかに、ときどき過つおっちょこちょいな先生や、的を得ない発言をする同級生のほうが好ましいと見えた。

「特技」を伏せるようになるとぼくは少しずつ受け入れられていった。ぼくの「特技」は出番をなくし、消えてしまったかに思われた。

フルーツバスケットが恐ろしいのは、視線から逃れるすべがないからだ。

しかしぼくには「特技」があるので誰がどこへ向かうかが分かる。したがって自ら進んでそうしない限り中央に立つことはないのだが、参加者らの視線をひとつひとつたどっていくと、どうにも弱気なものがあっていけない。気にかかっていけない。

彼は視線を集めることを苦手としていた。

恐怖と言い換えてもいい。不安や恐怖の多くがそうであるように、意識すればするほど彼は最悪を招いていた。ぼくには彼が手繰り寄せる悲劇のありありと見て取れた。その悲劇が彼にとってどれだけ甚大であるかも。

そこでぼくはどうしたか?
わざと負けを選んだんだ。

勝ち続けてきたぼく自身なぜそうしたかが不明だった。

安堵した彼がぼくに感謝の眼差しを向けてくるのを不思議に受け止めた。

(わかるのか、へぇ)。

記憶はここで終わる。
ぼくは大人に戻ってくる。

一字一句じゃまをされたくないんだ。
雑念にも、迷いにも、編集者にも。

「代筆屋にも?」
「きみがいなくては困る」

リクライニングチェアから体を起こそうとするので「わかってます」と「だいじょうぶです」を続けて伝えなければいけなかった。

作家は自分では紙にも液晶にも向かわない。適度な硬さの背もたれにゆったりと体を預けて瞼をおろし、頭の中にあるものを読み上げる。代筆屋のぼくはそれを書き取る。

そんな関係だ。
それだけの関係だ。

「さっき、話すペースが乱れましたね。何かしらの澱みがあったようにも感じました。回想でも?」
「さすがはおれの代筆屋だ」

関係を再認識するようにぼくをそう呼び、作家大先生様様はふたたび瞼を閉ざした。

なんという無防備だろう。
この部屋にはふたりしかいないのに。
水平線に沈む夕陽以外に目撃されていないのに。
こんな状況でぼくが取って食うかも知れないというのに。

内心をつい筆記しそうになりぼくはあわててペンから手を離した。逸脱している。

「フルーツバスケット」
「フルーツバスケット?」
「まだ小学生だったころに、クラスで流行ったんだ」
「流行り廃りのないゲームでしょう、あれは。今でもおこなわれる類ですよ」
「おれのために、わざと負けてくれた子がいてね」
「わざと、って。なぜ分かるんです?」
「目が言ってたんだよ。そんな目だった。おれには分かるんだ」

そうか。
ぼくは他人の視線に敏感なあまり、自分の視線がどんな作用を及ぼしているかに無頓着だった。
ぼくと似たような「特技」を持つ人がいないとも限らないのに。

とんだ間抜けだ。
愛嬌があると言っていいくらいだ。

「……おれは逃げたけど、その子は才能を活かせているといいな」。

まぶたの下で、動く以外の機能を忘れた双眸はやわらかい肉に包まれている。

幸福。

そんな二文字が浮かぶ。
夕陽よりも赤い、朝陽よりもあたたかい。
触れたことはないから想像するだけの、命。

「なぜ今その子を思い出すの?」
「思い出したわけじゃない。ずっと忘れないだけ」

作家がその手で自らの視力を奪った時、ぼくは理由になれなかったんだろうか。まだ見たい景色には、光景には、世界の一部には、足りなかったんだろうか。答えは見え透いている。ここにある今が証明している。

「若気の至りだね」
「若気の至りどころの話じゃ……」
「後悔はしていない」
「後悔している人は皆そうやって言い聞かせるみたいですよ、自分に」
「知らなかった。さあ、物語の続きを始めよう」

ぼくとあなたの?

訊ねそうになり口をつぐんだ。もし作家にまだ光を感じる器官が残っていたとしたら、ぼくは発光している気がする。見えないけど、確かめようもないけど、そう確信している。

「途絶えたことはないです」

微かな言葉はきっと作家に届き、心を少しだけ乱している。予感と予感が合わさってさざなみを立て、深い夜を連れてくるまで。

3+

No.831

夢を見たんだ、
ああ、ぼくはまた夢の話をしてる
きみは退屈でないかな
自分の夢の話ばかりのぼくといて

理由になろう
そう言ったあなたが孤独だった
理由になってあげよう
水槽の中に居たかもしれない赤い魚のために

物語には柵がない
柵がないように見せているだけ
ただそこにあるものがあると信じたいから
そんなものはどこにもないと諦めたくないから

みんな無理をしていて
敏感に察知する人に請け負わせてる
絶望とか失望を請け負わせてる
最後には利口な子どもが旅立っていく

きみの夢の話が好きだよ
善意も悪意も脈絡も無いもの
きみの脳味噌がつくりだした寄せ集めが好き
氷が溶けて音を立てる

ぼくは普通になれません
普通の人なんてどこにもいないと
知った顔で言うおとなを信用しません
だから子どもなんだよ

今年もまた記憶の景色で花開いた
花開くまで気づかなかった
同じ場所から進んでなかったね
赤くちいさな魚はとっくに水槽を出てったね

2+

【雑記】エンジンかけるためのエンジン作文

「虫だって生きてるのに殺すなんてかわいそう」

これには強く反対である。まったく相入れない。その思考の方向性まじ無理である。

生きてたら人の家に土足で入ってきて賃借人の心の臓を止めるくらい驚かせても良いとでもいうのか?違うだろう?じゃあなんだ、貴様の部屋にさ、見知らぬ、そして言葉の通じない見た目ギトギトのおじさん(なぜかおじさん設定)が部屋にいたらどうするか?

即殺害以外に道は無いだろう。

話し合う。共存する。逃がす。

ちっ、ばかが!どいつもこいつも生温い理想論ばかり言いやがって種単体で見たらこっちが圧倒的に弱いのだから本気でレジスタンスしろよ生きてるからかわいそうじゃなくて生きてるから怖いんだろうがクソが。

などと何に対しての台詞が分からない言葉をぼやきつつチキンを極めた私はお掃除に余念が無い。キュッキュッ。

今年は素晴らしいことにまだ1匹も出ていないのだ。笑顔である。喜ばしいことであるが当然である。知識と行動で圧倒してるからな。笑顔である!

だが、一抹の不安もある。それは「ここまでやってそれでももし出くわしたとしたらそいつは新種のハイブリッドタイプかも知れず我は恐怖で卒倒するかもしれぬ」というものである。

「ここまで」!「したのに」!「それでも」!

三重苦。

無念。自責。そして恐怖。

あまりの恐怖に怯えた私はついに彼らの情報を調べ始めた。なんでも祖先は3億年以上前から存在したらしく、しかもほとんど今の形と変わらないそうだつまり!ほぼ完成形として誕生したということだ無理、こいつかてない!

勝てないほど強い相手に「かわいそう」は無いから、強い相手には全力で立ち向かえそれしか生きる道はない。しかしこの感覚ではあまりにも無力あまりにも非力。慣れねばなるまい。なるほどそうとも言え、私は彼らの画像を目にすることで適応を試み…おえっ…ものの数秒で断念した。

なんせ私は幼少期から液晶画面ばかりと交流していた割に視力がいい!眼科医が「ほぅ」となる系!どゆこと!ただ無力!見えるだけ・気づくだけ!それなのに戦闘能力は極めて低いというあれ!

…はっ、そうだ。擬人化してBLものにしたら克服とまではいかないにしても、えー、なんだ、メンタル的にラクになれるのでは?はは、まさかそんなもの存在するわけが…したのである。

そしてこの流れ数年前にもやったんだなーというのを、見覚えのある表紙への既視感から感じ取る。

わたしはずっと同じ人間であるのだ。

んー、んー?かわいいかなー…?

かわいいはず…

いけるか…?

いや、無理である。

擬人化によっても拭いされない。

つまり人類には身の回りを清潔に保ち、万一のための手榴弾を握りながら生活する以外に打つ手がないということである。

そして悲しいお知らせがあり、ここまで意識してしまった以上、実物を見たときにわたしの驚嘆と恐怖は最高潮に達することが予見される。

デッドオアライブ…人事を尽くして天命を待つ。なすすべはないのでコーヒーを飲み仕事するとする。

4+