No.833

渡すため取り出した心臓を
これ要らないと突き返された
戻らないのにもう戻せないのに
どうしてぼくは取り出してしまったんだろう
どうしてぼくは後先を考えなかったんだろう

それから体がからっぽになったみたいで
手足を動かしても重力を感じられなくて
死んでしまって境目を彷徨っているような
誰も助けてくれないし助けてあげられない気がした

レモンミンツを床にぶちまけてしまって
ぼくだってもうどうでもいいやと思ったんだ
受け取ってもらえなかった心臓のこと
すきま風にさらされる生乾きの輪郭や
救いだのヒーローだの考えるいつも夢見がちな脳

似ていて違う夏が来る
ぼくは生まれ変わらないまま歩き出せる
二度と戻らないことも帰ってくることもできる
羽ばたけないぼくはとりあえず靴ひもを結ぼう
散らばった色あせないレモンミンツを歩こう