no.22

残酷とかわいいは同義だよ
ぼくの中できみは天使だよ
いや天使とか実際知らないからきみだよ
だってぼくの中で最高の比喩だよ
もうきみをきみ以外でたとえたりしないから
(まちがえちやってごめんね)
アイコンでありシンボルだよ
ピアスの隣に盗聴器つけて
かかりつけ医みたいにきいてるよ
BGMみたいに当たり前に流れるよ
きみの鼓動と呼吸だけ頭の中に流してたいよ
電車もラジオも邦ロックもいらないや
きみの太ももの火傷の理由知ってるよ
その傷がまた膿んだら指を入れていくんだ
そうしたらぼくの手首の傷から指先が出るんだ
そう言わざるを得ないような世界世界世界がこないかな
そう信じて心地よい昨日昨日昨日を積み重ねていく明日明日明日
きみのこと嫌いな奴ばっかりの世界世界世界に住みたいな
きみをよんだりさわったりかわいがることが罰ゲームの世界世界世界にならないかな明日明日明日っから

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no.21

ねがいごとが消えていくのを待っていた
同じ一日はこないといいきかせて待っていた
あかねびのかかる欄干の上に
新しい血をさらにしとどに垂らし渡っていた

思春期みたいにかたい胸でやわな思考で
見慣れた顔に似た赤の他人とすれ違いながら
馴染んだ何かを早く壊したくて仕方がなかった
それはきっとありがとうって言うよ

神さまなんて呼ばなければよかった
愛なんか一度でも知らなければよかった
やさしくしてくれるものに囲まれて人は自由を失うよね

あなたは簡単だから誰が監視してもしてなくても
ぼくが吐いたものを手のひらに受けられる
この世に石鹸があるからだよね
あなたの暮らしに石鹸を買い忘れない人がいるからだよね

無垢だから息ができなくなるんだ
だったら誰にも疑われず病むくらい
与えてくれて悪くはないだろ
傷つくな、なんて無責任なことを真夜中に語るな

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no.20

ぼくは間違うだろう
きみを閉じ込めたいというだろう
砂糖とか琥珀とかきれいなものに
永遠のために誘導するだろう
生きづらさを訴えるきみにはうってつけだ
だけど忘れてはいけない
ぼくは間違うことがある
きみを諭そうとする
この姿勢がすでに間違いだったりする
ぼくが澄んだ目でものを語るとき
そのときは本当に狂ったと思っていい
だからいま言っておく
ぼくがどうなってもきみは忘れるな
死なないこと以外に大切なことはない
信じるすべて裏切って逃げてでも
生きないほうを選んではいけない
理由をさがしてはいけない
理由などはないから
正気のぼくの願いだと割り切ってほしい
押し付けがましくて不気味だろうが
きみは命を守らないといけない
ぼくを幻滅させながら老いなければ
欲した理由はそのあとに降りしきる

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no.19

街に光がななめにさす
やわらかい鋭角がいのちをさす
木々のざわめきが次を呼んでいる
きらいな時間はもうすぐ終わる

白いノートに手のひらをかぶせ
書き切ったものを破り取る
誰の目にも触れないように
言葉の胎児を丸呑みにする

たくさんの凶器が地上にはあって
それで救われる人が確かにいる
はるばる遠くから見れば
血痕の輝きだってそれなりに星座だろう

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no.18

ぼくたちの町の真ん中にある
緑色のガスタンクは卵みたい
何年も何も生まれては来てないけれど
もしかしたらもう空っぽかもしれないけれど

それにはちいさな梯子が付いていて
許されればてっぺんに行けるようだ
ぼくたちはそれを禁じられているけれど
いつか登って見下ろして飛んだりとかしてみたい

そばの倉庫で首つりがあったみたい
いちばんいい夜を選んだよ
誰もが眉をひそめながら笑うなかで
本当に素敵に感心してる人だっている
いちばんいい夜がみんなに訪れるといい

そう思える一日がまたあるといい
誰かが誰かを殺したときだけじゃなく
たまに不定期にぼくを襲うといい
えたいの知れない愛みたいなものだとか

あふれればいい
排水口が詰まったみたいに
綺麗じゃないところからふいに
何かの間違いみたいに

流れに逆らって方向転換する
信じたものを疑うわけだから
棘がささったりするけれど
抜かなくても死なないでしょう

顕微鏡の奥に広がる世界
誰から何をされても嫌な顔ひとつしない
それはぼくの特技であり生存条件だった
きみの細胞とレンズ越しに目が合う
バラバラのときだけはみんな可愛い

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no.17

ぼくを目覚めさせた雨とこれまで世界に流れた血とどちらがどれくらい多いだろう
格子窓からむこうの景色は届かないってだけで繋がっていること、三枚の羽根で冷やされた皮膚にくるまれて今朝もただしく鼓動と呼吸をしていた、 逃げ出した隣人のピアノの音がしずくみたいに鼓膜に降り積もっていつかあふれる
朝の時間は輪郭を奪われて蕩けていきそうだ
優しいきみはぼくを正気に戻したくなさそうに満ち足りていて、そんな愛と以前もどこかで触れあっていた気がするんだ
誰にも名前がない頃、ぼくを知るひとなんて当然まだどこにもいなくて空がまだ一滴の雨も落としたことがなくて、飽和寸前の頃とかに

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no.16

生き急ぐ
ひとを笑うな
死に焦がれる
ひとを笑うな

あなたが望まない
ものを望む
心より望む
ぼくを笑うな

あなたが捨てるなら
ぼくが喜んで拾って
あたらしい言葉を教える
あたらしい文字とか教える

あなたが知らない
ぼくもまだ知らない

ひとから見たら魔法のような
そしたらまるで楽園みたいな

生き急いで
死に焦がれて
今にも完全にくたばりそうで
なお
不完全に繋いだ手を離さないもの

錯覚をふくめて幸せになれる才能ひとつで
あなたのだいじな地獄なんかを切り裂く

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no.15

卵を割る
黄身の丸さを目の当たりにする
カーテンをあける
蕾がいっせいに花開いていて鮮やか
犬が吠える
太陽が顔を出す
隣室の祈りが止む
毎朝毎朝
世界がぼくをいらないって言う

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no.14

自転車を降り妖精の死骸を跨ぐ
夜は昼よりたくさんの光を集めて
何を捨てても世界はうつくしかった
誰に捨てられても世界は

身軽なのは奪うばかりの海のせい
砂の街は人知れず溶けて
いつか呪いながらあつめた
貝殻いっぱいのスパンコール

振り返って名前を呼べば
疑わしげな視線が縋り付いてくる
だからぼくは教えてあげる
きみはもうここにしかいないよ

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no.13

六月のプールサイド
ジェリーが光を封じる
教室からカノンが聴こえ
悲鳴は慎ましくかき消される

明け方のぬるいアスファルト
落とされた者たちのつかの間の楽園
所在無さげにまるまった小さな命
玄関先のリズミカルな足音

かのひとの遺言を諳んじて
空き缶に活ける花の影
やわらかな手のひらに爪を立て
きみのすべてがぼくを愛している

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