QUARTETTO#11『成長痛』

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いちばん始めから見ていたかったな。

あなたが産声を上げた瞬間、周囲で喜ぶ人になりたかった。はじめての食事、はじめての歩行、あなたの身の上に起こったすべてのはじめてに居合わせたかった。ランドセルを買ってもらって張り切るあなたを写真におさめたかった。あなたが悩んだり笑ったりするところを見守りたかったし、反抗期に入って口数の少なくなったあなたからぶっきらぼうな対応を受けたかった(あなたにもそんな時期があったんだろうか?想像つかない)。初めてのデート前日に緊張するあなたを陰ながら見守りたかったし(うそ、絶対阻止)、免許をとった日も、成人式の夜も、いろんな経験をして、オトナになっていったあなたを、ああぼくはどうしてあなたから一周遅れで産まれたんだろう。

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QUARTETTO#10『わるいねこ』

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たった数日そのコースを歩かなかっただけで、ずいぶんと景色が変わっていた。雨がたくさん降ったせいかも知れない。花は落ちて緑が繁る。薄く柔らかな葉っぱが太陽を照り返してる。生命の息吹を感じられる、爽やかな風の似合う、そんな形容詞をつけて愛でるべき変化だろうに、ぼくの心では季節はずれの黒い毛糸が絡み合っていた。ぱさぱさに乾いて、ほどくことができなくて、弱いところがぎゅうぎゅうに締め上げられる。助けたいのに、それはぼくに「みすてて」「もういって」と告げていて、ひとりの予感に震えていた。

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QUARTETTO#9『提言者』

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残業があり夜ごはんを一緒に取れなかった日、あなたはすでに寝ついていた。
物音を立てないようベッド脇に寄り添って、ローテーブルにお酒の瓶をみつける。
もしやぼくの帰りが遅くてさみしい思いをしていたな、と自惚れながら跪くと、シーツの中から蔦のようにするすると腕が伸びてきた。
そのまま首に絡みつく。
されるがままに身を任せていると、掠れた声がぼくの知らない名前を呼んだ。

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QUARTETTO#3『夜におねがい』

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死んでくれたらいいのに。

あなたの姿を思い浮かべると、そう思わずにいられなくなる。

たとえば雲ひとつない青空の日。
滅多にしない深呼吸。澄んだ何かを肺に満たして、少しでも和解できた気がしたんだ。
だけどふと視線を下げると、血管の浮いた手から、まだ長さのあるタバコが投げ捨てられる。
笑い声とともに橙色の火がジュッと鳴って、植え込みのツツジの花弁がほんの少し焦げた時に。

(ああ、死んでくれたらいいのに。)

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