キュービックがきらきらひかる。もしもそのなかに地球があって、一億人のひとがあっても、色をそろえるためだけにためらいもなく回せるだろう?君ってそういうやつ。僕が君に期待するのはそういうことなんだ。毒に負けない体でりんごをかじって、きれいな歯型のついた食べかけを病人へ握らせるんだ。おいしい果実、万病に効きます、こわがらなくていい、さっき僕も飲み込んだじゃないですか。天使みたいな笑顔。なめらかなる二枚舌、耳たぶの突起、制服の下に隠れる女優や俳優。君の、のぞき込んでもどこまでもからっぽの目が、僕を正常に連れ戻す。寄り添わずには生きてはいけない。わかって。分裂したままでは飛び降りることさえできやしない。わかってる。渾身の力で君は屋上からキュービックを放り投げる。それは七色の放物線を描いて、僕の青春は、この星は、君のちいさな絶望は、届きかけてた光をみずから打ち消す。
月別: 2019年2月
No.640
レースを隔てた雨の音
ぼくたちが信じなかったら
窓にあたるのは星屑かも知れない
固まることのない血の雫かも、あるいは
言葉を持つものの中に
嘘をつかないものはいないから
確かめたければ
のこされた方法は一つ
一度きりの
ただ一度きりの
静かな尋問だけ
あなたは告げる、おまえは間違っている
いつしか砂浜に流れ出す赤
波がさらって海に溶けたら
水平線のあたりで夕陽になって
今はもう会えない、百年後にしかまた会えない
ぼくはあなたを知らないでいる
あなたはぼくを忘れないでいる
そんな夢や妄想が途切れないよう
他の何にも惑わされないで
これは呪いの始まり
これは物語の始まり
誰も知らない、誰も救わない
忘れられてもいい、優しくあれば良かった
絶望しなくていい、誰も救えないくらいで
だって分かりきっていたことだろう
手の中にあったすべてを手放した雨の夜に
ぼくが生まれ変わったあなたを知った夜に
【雑記】例外なく
やっぱりそうだ。私が好きになったものが消えたり悪いものであったりするはずがないんだ。
思考回路がサイコパスでも本当そうだからよかった〜。こんなにいくつになっても頭の中ごちゃごちゃなひとが好きって感じるんだからもう本当いいものなんですよ。私はそういうことを伝えるために言葉を捨てないでいたい。
コラムも小説もいつかAIが書く時代がくるんでしょ。てかもうそこまで来てるんでしょ。しってる!
となるとあとは主観的な好き嫌いだけですかね、ひとに残されるのは。客観的な、なんかこう大衆受けとか流行がどうなるかとかはビッグデータに任せときゃいいのでしょ。合理的だもん。誰かがガーッと言うより。
逆に言えば、主観的な好き嫌いに集中できる時代がくるってことですよ。一点集中がじょじょに崩壊して、境界のない、束縛のない、ルールのない、ゆるやかにつながる時代が幕開けます。
ひとはみな属したいものに属し、属したくなければ属さなくていいんだ。
今までは距離が近すぎたんだ。もう無謀なほど。無理でしょ、人間この距離感。近いもん。少なくとも私は無理であった。どうりで、と思い当たることが多々あるよ。
属したいところへ属していい自由だけでなく、属さない自由も選択できる。これらの自由を侵犯されそうなときには全力で阻止すること。好きなものを好きでいつづけることには誰の許可も要らないんだ。本当はね。言われてはっとするでしょ、忘れてたんだよ。ずっと昔は知っていたのに。知っていたくせに。楽な方へ流れちゃうんだから。まったく。
No.639
さようなら、また来ようね。コンビニのあかりは小説に閉じ込められて、まだ誰も知らない文明が開花する。連続した凶行も語られなかった美談もいっしょくたにされて、一節は流れ込む、さらに大きな流れの中へ、だけどたしかにここにいたよ、ぼくたち、生きている体から血を流して、死んだ体から流れる血を眺めて、うつろう景色に目を細めて、愛する代わりに呪って、名前も忘れて褒め合ったんだ、先に死なれないように、だってずるいから。正しいものがないことだけが絶対なんだよ、疑わなくていいことなんだよ。そうささやいたあなたの声も、残念ながら紛い物。だとしても、不都合は見当たらない。あなたを傷つける奴はこれからも現れるだろう、優しい声をして、ありふれた善意を見せて。ぼくは自分を大切にできないから、決めたんだ、あなたを守るって、そばにいよう、見えない銃弾がここで止まるように。狙撃手の落胆する顔が見たいな。夢でもいい、夢のほうがいい、みんなに愛されるあなたなんか、ぼくに愛される価値はないんだ。無理矢理に笑顔など浮かべなくても大丈夫、生まれ変われないものはないから。ぼくは次回は言葉を持たないものとして存在がしたい。あなたが安心して暗闇を打ち明けられるよう、夜よりもっと深い青で包みたい。人の知らない沈黙のとなりで、誰も知らない文明のはざまで、あたかもあなたが望んだ世界の最低辺で。
No.638
時間割を塗りつぶしてた。重なる笑い声を聞きながら。次に日付を塗りつぶしていった。最後に視界を塗りつぶしたら誰かの悲鳴が聞こえた。気がした。実際どうだったかは知らない。覚えてない。水にもぐった瞬間にいちばん近い感覚だった。風も太陽も優しくて、嫌いなものなんて焦げた目玉焼きくらい。それだって口に含むことができた。ぼくは今ロープの上を歩いてる。危険は何も感じない。だだっ広い平面にいたって、死ぬ子はどの時代にも死んだから。手のひらに誰かが文字を書いてる。何十日も、何百日も。薄っぺらな包帯をはずしてみたら、夕焼けがどこまでも続いていて、夜にも朝にもならないことがわかった。そして、ああ、きみ。ぼくの手のひらに何度も文字を書いていたのはきみだったのか。ごめんなさい、って。思わず笑ってしまう。きみ、だって、きみが、自分のせいでぼくがこうなったんだと考えているんだもの。思い過ごしもいいとこだ。どこまで見当違いなんだ。でもきっときみくらい鈍感なほうが人は可愛いんだろう。真実ぼくはとっくに飽きていたよ。一日も早く一生が終われば良いと。願ってた。終わらせる勇気がないから、祈ってたんだ。だけど種明かししたらこの先ほんとに何もない気がして「わかってるよ」って、初めて返事した。終わらない夕焼けなんてもう要らないと、ぼくが言うのをきみは待っているかも知れないから。ずっとひとりで待っていたかも知れないから。尖らせた鉛筆が丸くなるまで、時間割を塗りつぶしてた誰かみたいに。
【雑記】ペガサスのいるところ
好きでやってるひとには勝てないなあ〜。最近そればっかり感じるし言っている気がする。さらにもうすこし踏み込むと、好きでやってるってことに無自覚なひとは最強だなあ。
好きでやってることを自覚してしまうと、「いつか嫌いになるかも」って少し恐怖心が出てきたり、他人から「あなたはいいよね、好きなことやれて〜」って言われることでなんかこうネガティブな気持ちになってしまうかもしれない。
だけど、
「好き?え、自分ってこれ好きだったの?気づかなかった」
みたいなのが強いんじゃないですかねええ。
次に強いのが「好きじゃないけど嫌いでもない。でも今はこれが自分にとって1番いい方法だからやってるだけ」ってスタンスの人ですね。
好きじゃないから飽きたり嫌いになったりすることってないもん。
うーん、こっちのほうが強いかな。好きなものを好きだと自覚してしまうと、後は喪失の恐怖に飲み込まれるのを待つだけってことでしょ。ネガティブだなおい。
じゃあやっぱり好きとか嫌いで物事を選ぶのは良くなくて、合理的か実践的かとかで考えたほうがいいんだろうか。
でもそうしたら人間とは?ってなるし、何のために生きてるかわからなくなるんだけど、そもそも生きる意味も目的もなくてたぶんみんな死ぬまで暇なので生きてるだけ。それに無自覚なだけ。
えっ、死ぬまで暇なので生きてるだけ。
自分で言ってちょっと気に入った。この言い方だと生死のあいだにスペースあるよね?真空だよ、ここ真空。きっとこの部分にペガサスが生きてるんだな・・・。
No.637
無人駅。新しくも見えるし、昔からあったふうでもある。改札付近に花が飾られていた気がするし、これから舞い散る予感もある。もしここが誰にもたどり着けない駅ならば、誰へ何を伝えよう。明けない夜はないよ。そんな言葉を希望であるみたいに言う、きみとは絶対に分かり合えないと思った。つないだ手を離して、あれからどれくらい経つんだろう。数えていないけど、数えていなくてよかったと思う。未練たらしくてうんざりしただろうから。でも言いたい。明けない夜は、つくりだせるものなんだ。つくりださずにはいられないひとが、つくりだすもの。ふうんって片目を細めて首をかしげられてもいいや、同じものを食べてはにかみたい、一回でもあったら出会えてよかったって訂正する。ぼくはもう「いつか」なんて言わないんだ。いつかが言い訳だと知ったから。ホームに列車が音もなく滑り込んだ。ぼくの前で扉が開閉し、いままでのぼくだけを乗せて走り出す。両目の縁から色とりどりの涙がこぼれていた。ひとつひとつにはまだ名前がなくて、ぼくはそれを誰かへ見せたい。そう、たとえばきみに見せたい。だってきみなら知っているかもしれない。知らなかったとしても、色の名前くらいでたらめで言えるだろう。ひとりよがりだったぼくに声をかけるくらい、変わり者だったんだから。世界が#83CCD2に染まり出し、なんにも聞こえなくなって初めて、ぼくは歩き出した。自分の足で。
【雑記】ぬいぐるみの時代から
そんな執着とか愛着ないなあと思っていたけど、懐かしいもの見ると「ふおおお」ってなるな。行間ぎちぎちのテキストサイトとか。
読みづらっ!(だがそこがいい)みたいな。
便利できれいなものばっかりじゃなくて、行き来するものだと思う。流行とか時代の流れは。ずっとそうでしょ?知らんけど。知らんがな。だって、数十年しか生きてないものな。
1つ前だった、というだけで、小さい頃親しんだ、というだけで崇拝できるんだよ。
バーチャルリアリティに慣れ親しんだ人がおとなになった時に懐かしむものってどんなものだろうね。その先はどんなものが懐かしまれるんだろう?
私などはもはやできる限り生身の人間と接さずに生きていきたいなあと思っているので、だいたい思ってきたので、そういう考え方が迫害されることなく、まあべつにもてはやされなくてもいいんだけど、「ありだよね」ってスルーされる世の中になってほしい。みんなだよ。どの考えに対してもだよ。
「あ、うん。ありだね」って。干渉のない世界。まあ、なんだ、弊害とか出そうだが、弊害のない世界ってないでしょ。「きみの考え、ありだね。ぼくはこうだけど。じゃあね、元気でね」みたいな。
そもそも干渉したり批判したりするのって、自分のポジションが脅かされるかもしれないという意識がさせるんでない?
だったら人間同士くっつきすぎだからはなれたほうがいい。適度な間隔をあけて、ぶつからないように、いがみ合わないように、たとえば宇宙の星と星くらい。まあせめて存在してるなって分かる程度に見えてればいいんじゃないかなって思うんだけど、これはこれでいろーんな反対意見があるだろうし、私だって自分の考え方に異議をとなえることはできるぞ。
またぬいぐるみの時代がきて、バーチャルの時代がきて、ぬいぐるみの時代を生きた子がハイテクなバーチャル映像見て「ふああ・・・これこれ、これだよ。なつかしい。このころはみんな適度に隔離されていて、思いやりがあって、あったかみがあったなあ。バーチャル全盛期って、古き良き時代だよなあ。今は人間同士が近すぎていがみ合ってばかりいる」とか言うのでしょ。
デジタルもアナログも縫い目のように、出たり潜ったり、自分が今いる場所を否定するために、今いない場所を正当化して生きる希望にしたりするのでしょ。
はかない。
No.636
夜明けから逃げる。この旅は誰にも気取られず続行する。うつ伏せた雑誌の下に表情を隠す。穏やかでいられないくらい、炭酸水が鳴いている。鏡の中じゃあなたは今もヒーローなんだ。嘘つき呼ばわりされたくないなら、一緒に行こう。鏡の中じゃあなたは今もプリマドンナ。いいえ、そんなはずはない。と、まわりは嘘ばかり吐く、うん、そうだね。嘘だよ。嘘には耳をふさごう。ぼくが牽引するパレードはやがて水平線と等しくなるよ。そうしたら夜明けから逃げ切れない人びとが、どうしたって出てきてしまって、ぼくはぼくが一番きらいな人たちがぼくに対してしたように、あなたたちを見捨てて行くんだ。薄汚れた相棒のぬいぐるみにしゃべらせる。しかたがなかった。おまえは悪くないよ。ひとりになったとしても。泣くことはないんだ、もとに戻っただけのことだろう。夢から覚めただけのことだろう。それが分かっただけでも良かったさ。ヒーローも、プリマドンナも、おまえの滑稽な一人芝居。ぼくがまだぬいぐるみだなんて、信じてるんだもの、ばかな子、悪い子、生かすことはおしおきのためだよ。薄汚れたぬいぐるみなんてどこにもいないよ。パレードなんか見ないよ、どうやって見るんだ、おまえは家から一歩も出ていないのに。
No.635
誰のためにも生きたくなかったし、ぼくのためにも生きて欲しくなかった。約束したんだ。もしかしたら、きみはもう覚えてないだろうけど。あたり一面かすみ草の世界で。世界?いや、部屋だったのかも。かすみ草?いや、真綿だったのかも。記憶はおぼろだ。どっちでもいいや。ぼくたち、ちゃんと約束をした。誰のためにも生きないことを。きみはぼくのために生きたりしないと。逆も然り、おたがいさま。あの頃と比べたら、どうしたってノイズが増えたね。正しそうな声は優しくて。必要な叫びほどときどき耳障りで。唐突に思えるだろう。まるで発狂でもしたふうだ。ぼくたち不思議でたまらなかった。約束のない毎日、続けたって仕方がない。ぼくの苦手な椅子取りゲーム。この席をあの子にあげる。そのかわりにこの子を連れてく。いいでしょう。もう、要らないでしょう。別れが分かっていたって、誰もがさよならを言えるわけじゃない。平気、言えない時には花が降る。星が咲く。ちゃんと、ただ夢の中にかえっていく。あたたかな嘘の部屋。そう。ここにはスピーカーなんてなくて、誰の糾弾もないんだ、真実も嘘もたいして変わんないや、神さまはそうと教えなかったけど。