No.641

キュービックがきらきらひかる。もしもそのなかに地球があって、一億人のひとがあっても、色をそろえるためだけにためらいもなく回せるだろう?君ってそういうやつ。僕が君に期待するのはそういうことなんだ。毒に負けない体でりんごをかじって、きれいな歯型のついた食べかけを病人へ握らせるんだ。おいしい果実、万病に効きます、こわがらなくていい、さっき僕も飲み込んだじゃないですか。天使みたいな笑顔。なめらかなる二枚舌、耳たぶの突起、制服の下に隠れる女優や俳優。君の、のぞき込んでもどこまでもからっぽの目が、僕を正常に連れ戻す。寄り添わずには生きてはいけない。わかって。分裂したままでは飛び降りることさえできやしない。わかってる。渾身の力で君は屋上からキュービックを放り投げる。それは七色の放物線を描いて、僕の青春は、この星は、君のちいさな絶望は、届きかけてた光をみずから打ち消す。