No.635

誰のためにも生きたくなかったし、ぼくのためにも生きて欲しくなかった。約束したんだ。もしかしたら、きみはもう覚えてないだろうけど。あたり一面かすみ草の世界で。世界?いや、部屋だったのかも。かすみ草?いや、真綿だったのかも。記憶はおぼろだ。どっちでもいいや。ぼくたち、ちゃんと約束をした。誰のためにも生きないことを。きみはぼくのために生きたりしないと。逆も然り、おたがいさま。あの頃と比べたら、どうしたってノイズが増えたね。正しそうな声は優しくて。必要な叫びほどときどき耳障りで。唐突に思えるだろう。まるで発狂でもしたふうだ。ぼくたち不思議でたまらなかった。約束のない毎日、続けたって仕方がない。ぼくの苦手な椅子取りゲーム。この席をあの子にあげる。そのかわりにこの子を連れてく。いいでしょう。もう、要らないでしょう。別れが分かっていたって、誰もがさよならを言えるわけじゃない。平気、言えない時には花が降る。星が咲く。ちゃんと、ただ夢の中にかえっていく。あたたかな嘘の部屋。そう。ここにはスピーカーなんてなくて、誰の糾弾もないんだ、真実も嘘もたいして変わんないや、神さまはそうと教えなかったけど。

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