時間割を塗りつぶしてた。重なる笑い声を聞きながら。次に日付を塗りつぶしていった。最後に視界を塗りつぶしたら誰かの悲鳴が聞こえた。気がした。実際どうだったかは知らない。覚えてない。水にもぐった瞬間にいちばん近い感覚だった。風も太陽も優しくて、嫌いなものなんて焦げた目玉焼きくらい。それだって口に含むことができた。ぼくは今ロープの上を歩いてる。危険は何も感じない。だだっ広い平面にいたって、死ぬ子はどの時代にも死んだから。手のひらに誰かが文字を書いてる。何十日も、何百日も。薄っぺらな包帯をはずしてみたら、夕焼けがどこまでも続いていて、夜にも朝にもならないことがわかった。そして、ああ、きみ。ぼくの手のひらに何度も文字を書いていたのはきみだったのか。ごめんなさい、って。思わず笑ってしまう。きみ、だって、きみが、自分のせいでぼくがこうなったんだと考えているんだもの。思い過ごしもいいとこだ。どこまで見当違いなんだ。でもきっときみくらい鈍感なほうが人は可愛いんだろう。真実ぼくはとっくに飽きていたよ。一日も早く一生が終われば良いと。願ってた。終わらせる勇気がないから、祈ってたんだ。だけど種明かししたらこの先ほんとに何もない気がして「わかってるよ」って、初めて返事した。終わらない夕焼けなんてもう要らないと、ぼくが言うのをきみは待っているかも知れないから。ずっとひとりで待っていたかも知れないから。尖らせた鉛筆が丸くなるまで、時間割を塗りつぶしてた誰かみたいに。