no.73

みつけるために失おう
気づくために忘れよう
帰るために迷子になろう
ほどくために絡ませよう
仲直りのために喧嘩しよう
愛のために戦争しよう
健やかのために不摂生しよう
きみがためにぼくになろう
朝のために夜を呼ぼう
右向くために左に寄ろう
まんなかを作るためはしっこへいこう
歌うために口を閉じよう
夢見るために目をつむろう
思い出すために今になろう
光のために影だって食べよう
(シューの内部は臓器でいっぱい)

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no.72

この声は染みこんでもいい
この色は染めてきてもいい
目を閉じて耳をふさいで
この時のために無知で来たよ

きみが何かを語るとき
ぼくが何かを捨てるとき
ふたりは昨日朝方の肉片
魂は今日もレールに残っている

電柱に落書きされた神様が
真っ暗な瞳で真相を見ていた
だけど口は無いから告発しなかった
その瞬間切符越しに傷にふれた

行き先は霞んで消えそう
ぼくたちをどこへも連れて行かず
どこからも旅立たせることのなかった
冷たく硬い切符越しに初めてふれた

おはようの終わりに
はじめましての左で
さよならの続きとして
わざと違えたスペルの暗号

行き先を読み上げると切符は溶けて消えた
動いているものは流れ出した血ばかりの朝だ

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no.71

終わりかたを考える。始まったばかりのブリュレや、巷で噂の流星群。雨が降り始めた、休前日の夜。開いて間もない本の上。他には例えば新しい関係。君との出会いも。どんなふうに終わってしまうんだろうと。だから新しいことは億劫で、星は産めない。僕より臆病だった君がもう別の人間に見えるよ。こんなにも尊く感じなくて済んだのに。率直な言葉でしか表現できない拙さについて。きっとあのとき光を捨てればよかったんだね。だけどそうさせない何かをずっと信じていた。それはたぶん今も中心にほど近い場所にあって、楽園の捨て場所を見張り続ける。残された今、無愛想でちぐはぐの片割れたち。慈しむに事欠いて暴言の応酬。見えないものだけ柔らかい。いつかの君の思い出を吸い込んで、真っ暗闇になった夜。僕だけが光源であるというこの世界の絶望。行かなきゃ。もう離して。

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no.70

月が満ち欠けすることほどに
不安定に当然に期待されずに
僕の魔物がまた目を覚ます
新しい優しさが届く前に
君のための泣く部屋を蹴って

雨の中に誰かの足音を聞く
ひとり、ふたり、みっつ、しにん
風の中に誰かの喉笛を聞く
いつつ、むっつ、しちにん、はち
数の中に誰かの残り日を聞く
ここのつ、とお、とお、とお

(十より先はまだ知らない)

何の問題も無いことを人前で曝けることが
何やら酷く恥に思われて奇形を謳った
満足な手脚であること満足な故郷であること
その裏切りは贅沢で甘美で毒性の高く
誰も誰も決して真似してはいけない類い

空から滴るかの日の茜した羊水
死は、
新しい優しさのために踏み躙られた
選ばなかった生は、
糾弾を恐れて遠雷に呪詛を紛らせる

天から迫る灰色した雲の塊
孕んだ不吉を僕へ転化したがって
地から湧き伝わる振動の嘆き
圧されてなお平気な僕をまるで憂えて

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no.69

満ちたとき
愛だって繰り返さなかったとき
平和だったとき
平和って言わなかったとき
ほんとうに幸せだったとき
まだ知らなかったとき
幸せという言葉が
浮かびもしなかったとき
危機は反芻が暗示する
不安にならないとき
おまえすこし頭おかしいねって
きみが笑ってぼくから興味を失うとき
金平糖じゃないから噛み砕くことはできない
いま少し愛と平和で幸せだとする
生まれなかったときに比べて
死ななかったときに比べて
ほんの少しは、幸せだったとする

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【ネタ】おきにめせば

「好きだ」とか「愛してる」とかやたら言ってくるし公衆の面前だろうが構わずべたべたスキンシップしてくる吸血鬼にだんだんイライラしてきて「何でいつも軽々しくそんなこと言える(する)わけ?」ってブチ切れたら「だってお前たちはすぐ死ぬだろう。だからおれは言いたいときに言う。したいときにする」て言われていろいろ心境複雑になる男子高生が主人公のBLを読みたい。

寿命格差もえ!
遺す苦悩、遺される苦悩。

この時に男子高生の思考の焦点は次のふたつに絞られる。

・こいつはこれまでにもおれじゃない誰かに対して同じ事をしてきた(=唯一の存在としてのアイデンティティー喪失)
・そしておれもこいつより先に死ぬ(=連綿と続く交流史の一コマでしかない自分に対する焦燥や絶望感)

そして彼は何をされても感じなくなって吸血鬼に対しても冷たくなっていくけどそれはもともと芽生えてた初恋の裏返ったものを無理矢理延長してる類だから後から凄いのね、嫉妬とか歪んだ感情が。そしてなんとか自分が「最後のひとり」になりたいって考えて不死の男の殺し方を発見するために学者になるんだけど結局一生かかって見出せないのね。死の床で傍に寄り添う吸血鬼の昔と変わらぬ姿を見て、諦念とともに(もっとまっすぐ気持ちを伝えていればよかったのかな…)ていう一抹の後悔を抱えながら息をひきとる老人を見下ろす赤い瞳が優しい。

1+

no.68

いつか忘れてしまう時間のなかに今いるということをいつも忘れそうになる。いつも。不完全に黒く塗りつぶされた紙に画鋲で穴をあけて太陽にかざす。顔の上に星座ができるけど自分で見ることはできない。できないことは、わからないこと。例えばそれが正しいのかどうかも。近くのものから目を逸らしたい時に人はできるだけ遠くの世界を語った。博識の視線はだからさみしいのだ。僕が憧れてもなれなかったひとは、てのひらに泉を持ってた。新しい水が今でもそこから惜しげなく溢れていることを、透明な檻から祈っているよ。それを守るために何も掴めないでいることを、あの日も今も。また出会ういつかまで。祈っている。

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no.67

嫌いなものを好きになるまでの時間と、好きなものを好きじゃなくなるまでの時間と、どちらが長いのかな。きいろい果物がたくさん実った樹の下でそんな一言から会話を始めた。質問のようで質問ではなかった。戯れの開始宣言にすぎなかった。ぼくたちはいつもこういうことを話しているつもりで、まわりから見たら他愛もなかっただろう。だけど時間に終わりはあるから、一見むだなもののために費やすくらいの贅沢なら試してみたかったんだ。おとなにならないこどもはいなくて、こどもにかえれるおとなはいないけど、だからってこどもを忘れるおとなはいない。一度そうだったことを、ぼくたちは二度と忘れられない。予め呪われていたから。ふたりの頭上で緑を広げたこの枝が、若葉より以前の、枯れた落ちた一個の実だったころから。かわいがられ損ねた執念が、花を咲かせて種子を落として、いまぼくたちに見せかけの質疑応答にふさわしい木陰を与える。

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no.66

思ってもみなかった
こんなことに
使っていい、なんて
使う日が、くるなんて

わかるよ、って
だっておんなじだから、って
きみに言えたとき
傷痕の深さは報われる

正体よりも共感が大事で
どんな兵器より確かに
心臓を撃ち抜くだろう
だって殻を剥けば舌より脆い

これからたまに話そう
死ななかった日のこと
まるでべつの一生みたいに

この今に繋がる気配なんて
微塵も感じていなかったけれど

平和って怖いね
駄目にしながら裏切り続けて
いちばん嫌いな顔で嘲笑うんだ
自分勝手に傷つきながら

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no.65

暗闇でも識別ができるのは
血の味は視界より鮮明だから

ひとつずつ色の名前を忘れていく
最後に残すものについて議論する

時間を振り払って不詳の生き物たち
不完全な縫合痕にも雪は積もる

きみの掌、ぼくの掌
結晶の崩れるまでの僅かな差異が
それに気のつくことだけが
ふたりきりの証明であり
明日はまだ何者でもないことの優しさ

頬杖
眉間のメス
軽口
生温い抱擁
初恋は愛を拒んだ

きみの髪がぼくの視界を遮る
そのために伸ばしたんだろう

膝だと言ったら林檎だと種明かし
夜をいくつも越えていけそう

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