no.153

好きなものに好きって
言ったら終わる魔法
とじこめておかなくては
気づかれないようにしなくては

あのひとは夢の遠い街
夜がすみれ色に降る一日の終わり
覚えていられる言葉は減って
ほんのみっつになっていく

ぼくと
きみと
新しい真夜中

手さぐりで何を探すの

凶器

名札
目隠し

砕けたステンドグラス
瞬きしたら元どおり
誰も信じはしないけど
ここも今も夢の中だよ

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no.152

針の尻尾にリボンをつけて
傷とも呼べない傷
誰にもわからないよう
あのひとだけに見つかるよう

思慮深くはなれない
彼女たちみたいに
謙虚さなんて持ち合わせてない
彼らみたいには

あなたは垣根のむこう
すぐそばにいていばらのむこう
何度騙しても怒らないのは
いつか僕を置いていくからだね

行間の迷路
涙が怪物に変わるまで
だけど彷徨うことをやめてしまえば
いつもの悪夢にみつかってしまうの

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no.151

きみについての悪口をきいて僕は深く眠れる
相対するもののなかはこんなにも柔らかくて優しいのか
繊細であることを悲劇だと思わない
愛されない余地しかないみたいに見えるから好きだ
みんなが目隠しをして夜を歩くんだ
繋いだ手からは何もわからないことをそこで初めて知るんだ
誰もが一度はめざして降ってきた雨ならば
傘を忘れたせいでずぶ濡れになったくらいで憂鬱になんてなりっこない

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no.150

一日の終わりに朝から再生する。なかったかな。間違いはなかったかな。誰も困らせなかったかな。誰も悲しませなかったかな。自分だけだったかな。すべてひとりよがり。カーテンのむこうでタイヤが雨粒を弾く音が聞こえる。きれいなものが消えていく世界で、思い出ばかりいつまでも輝くと宣言する。つくられる傷の数や深さが決まっているんだとして。だから早めにやり過ごしたいんだとしても。一気につくってしまっては息絶えてしまうよ。食べられるごはんの量が決まってるんだとして。一度に食べてしまえば噎せてしまうよ。好意も、悪意も。ひとつずつ口に入れて噛み砕くこと。用法用量をよく守って健やかに生きること。けっして約束を破らないこと。黙ってどこへも行かないこと。何があってもひとりで死なないこと。きみが口を開くなら、僕は。ショートケーキに向かわせていた手だって止める。止められるんだよ。だからそんなふうに子ども扱いをしないで。

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no.149

君が今もどこかにいるなんて信じたくない。
空と水平線の境目は透明になっていて、それは一見、青色に見えたとしてもまた別の世界から漏れた光かもしれない。
僕らが光にあたたまる時、誰かが凍えて口をつぐむんだ、見ず知らずの恋人たちの得体の知れない愛のために。
今はもう、どこかへ消えてよオクトーバー。
君のいない僕がいることで、昨日より心臓は少しだけ軽い。

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no.148

どんなにか良いだろう。
いま僕がここで君の手を離したことが、百年後、誰かの命に繋がって、これまでにない光がお互いの瞳に宿ったことを誰かが知って励まされるのであれば。どんなにか美しいだろう。瓶の中の夕闇がいつか誰かの夢に現れて魔物から身を守るあたたかなマントに早変わりするならば。どんなにか尊いことだろう。誰もあずかり知らないところで、出会う予定もないひとびとが、ひとつの旋律に耳をすますとき、戦争は遥か遠いおとぎばなし、語り合うまでもなくそばにある平和、それぞれにとっての言語は第三者の耳に心地良く、毒は甘く、蜜は分け与えることができ、その身に宿した新しい何かは誰のものでもなくすべてのひとが触れていいのだとしたら。
どんなにか。それは、どんなにか。

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no.147

体に悪そうな色のお菓子ばっかり食べているところ。きみは本当は死にたくなんかないんだろうね。一度もふれたことのないひとの考えかただもの。それが僕にとってはいつまでも眩しく微笑ましいよ。屋上から飛び降りるときどんな感じがしたかって?最高だったんだ。白い部屋で目を覚まして諦めたんだけど。わかってるって言ってやる。誰かが歌うみたいに簡単じゃない。僕にはわかるって言ってやる。言葉が嫌なら黙っていてやる。夜空を見上げると自分の存在がちっぽけに思えてくるなんて大嘘だね。どこまでも限りなく置き去りでどうしようもないんだ。みんな溶け合ってもう真っ暗なのに、僕にはほのかな白が残されている。それは君にも。支え合いたいわけじゃないけれど人によってはそういうことになるのかもしれない。僕が捨てなかったものすべてを思い切って放り投げても、空は拒んで頭上に流星を降らせるだけだろう。待っていてもすぐには来ないけどわざわざ行動しなくても期待外れのいつかはやって来る。いつか、かならず。

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no.146

離すために掴んだ。何もしなければ景色の一部だった星の砂。これからたくさんのわからないものに出会うだろう。傷がつくだろうし涙はながれるだろう。そのときになって疑うようなことがあってはいけないから、真実をここに記す。君を愛して失ったものは何もない。毎日は薔薇色だったと。

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no.145

おとなにならない。ぼくだけは。わたしだけは。みんなそればっか魔法みたいに呟きながら新しい服を、今日も脱ぎ散らす。内側じゅう蛍光色でいっぱいにして。死体のふりをしながらそれが何にもならないこと、目をそむけたためにかえって強く意識してしまうこと、知る必要のなかった色までくわわって世界が鮮やかに全身を満たすこと。もともとどこにあって誰を食べて生きてきたのか、なにひとつ難しくなくても今はまだ知りたくないんだ。頭の上にある明るい月には蓋をして、夜の果てまで手を繋ぎたいよ。

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no.144

落ちて行くのは一瞬なのに浮上するのは難しいこと。何故ってきいても答えは深い谷の底。底があるのかもわからないのに。放り込んだ声は星の裏側から出ていって今ごろ宇宙を泳いでいる。仮定をすべて本当にして。きみは新しい星に着床する。その頃には植えつけられた概念も消え去って。ただなんとなく、ただなんとなくだけが残っている。僕が告げたこと。僕が注いだもの。僕が植えた種。僕が寄せた頬。総量が決まっていて平等に分散された。明日あたらしいきみに届くといいな。またあたらしいあなたへ届くといいな。おはようって言って。置き忘れたおやすみを取り戻すんだ。

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