no.359

漂流物をつかまえてあげられなくて
次を見送るぼくの失態を月だけは見ていた
新しい水曜日と真珠色した子猫だとか
優しいものばっか集めたつもりだったのに

頼みの記憶はいばらに包まれて引き出せない
女の子が憧れた十二月、何年経っても実現できない、不能

パイプオルガンが流れている地域で僕らは生まれた
条件を出せない状況とあてにしていない陽だまりの気配だけで

青空さえ見えればいいと思っていたおぼつかない時期
次に欲しくなるものが分かってもう手を伸ばさなくなった

あなたに追いつきたくなかった貝殻の浜辺
名前を刻むように人を傷つけていた

流れる血は何百年も前からの饒舌な沈黙
きみと呼んであなたと呼んだなれの果て

悲観する必要なんてどこにもなくても手がかりにすがりたい

誰にも分け与えることのできない僕の孤独が
今日も誰かを寝付かせる歌をうたいますように

まだ半分夢見心地だねって笑って
振り返らない葬列が救済になるように
百年先の朝陽だって先取って
この奈落に愛されないよう今を照らして

2+

no.358

世界は美しい
誰が何と言おうと
不安を知って欲しくて
きみからぼくを隠したんだ

指の隙間から
まるい瞳がのぞいていた
見極めようとして
言葉でしか伝わらないものを

奇跡に価値なんてない
あるのは少しの幸福感と慣れ
新しい明日のほうがよっぽど素敵
きみなら迷わずそっちを選ぶんだろう

口の中で転がしている木の実
煙と溶け合って青春は弾ける
ぼくたちは時間を忘れて踊った
意のままにならない手足で

あの頃描いた永遠
それとは比べものにならない
輝くものばかりいつまでも輝く
平等は汚れた生き物に愛想つかした

かきむしった首の後ろ
薄い爪痕がぼくに嘘を教える
きみが本当は喜んでいるって
だからかんたんに姿をあらわす

ごめんね
きみの涙はきれいだと信じたんだ
ぼくはそれを見てみたかった
自分勝手で本当にごめんね

消失を体験したかった
その光景をぼくも見てみたかった
投げつけられる言葉は数字のフォルム
いまふたりの足元から埋め尽くす

2+

no.357

まだだよ
綺麗なまま出会わせないで
結び目を急にほどいて
誰とも愛し合いたくないんだ

どうしても我慢できなかった
果実に例えられること
だけど擬態するには良いかもしれない
女の子になりたいわけじゃない

夕日に染まった川辺で願った
この景色が誰かの血を
透かしたものだったら
透かしたものだったなら、どんなに?

舌を残したまま口封じはずるい
あなたいつか消えるんだよ
まるで例外のような顔をしてかわいい
馬鹿みたいで本当に好きだな

ミルクに浸したバームクーヘン
不ぞろいに名前をあげよう
ぼくは救われたんだ
ぼくより弱いものに救われたんだ

魔物から逃げる
夜のマントにくるまれる
世界は他人ばかりで少し意地悪
ぼくはまだ誰とも終わりを迎えない

3+

no.356

あなたのことが
だいきらいだ、
言うたびに増えていく
見つめてきた笑顔が

ぼくにだって謳歌できた
ただしい青春がもしあるのなら
でもくじ引きはいつもハズレ
窓際の席は選べない

息が苦しくて
死なせてしまおう
楽にさせてあげたいから
短絡的な慈悲はいつも自分のため

あたらしい教科書をひらく
大人は守ってくれない
なぜなら
彼らを守る者がいないからだ

資格もないのに切った髪
また生えてくるから大丈夫
そう言い聞かせてぼくも鋏を持ったんだ
小指を切り落としたような音だった

泣かないあなた
騒がないあなた
求めないあなた
ぼくのものでないあなた

きらいと言っても伝わらない
なぜなら本当ではないから
嘘は存在できない世界なら
どうしてぼくはこのまま居残るんだろう

2+

no.355

正解しか言わないきみが、あなたが、ぼくが、嫌い。きらい。すみれ色の音楽が今日も人々の隙間を満たしていく。だから言葉なんかもう要らないよねって誰かがささやいた。もしくはぼくの頭がそうひとりでに思考した。神様の島に住んだことがあるよ。黄色の犬と、ふわふわの食べ物。フリルのスカートと枝のようにまっすぐな脚。百年でも千年でも超えてみせる。だって時間は最初から無関係だった。食べ残しから永遠に追っかけ回される運命。疾走する彼らにはこの景色が見えない。種が落ち花は咲く。実はまた結んで天を仰ぐ。夢だって疑ってもそこにある夢。ぼくしか愛することのなかった人々が凪に見え隠れする。透き通ったしゃれこうべ。いさり火に搔き消えることもない。何を幸せと呼ぶかは言葉を持つものの特権。何を愛するかは消えゆくものの特権。さあ目を開いて。

1+

no.354

さよならが言えなくて殺したんだろう。わかるよ、栗色のキャラメルが欲しかったんだ。美味しいよね、あれは。どの国の何にも似ていなくて。自分以外は順調に混沌を調教して、時たま雪景色にまぎれこんでは簡単に生まれ変わって見せるんだろう。懐かしい風景を見かけても地名思い出せず、さみしさだけ吹いているような。言ってしまえばそれだって錯覚。昨日まで一緒に絶望してくれてたあの子も勝手に夢中になれるものを見つけちゃうしさ。いやになるよね。あたりまえだよ。チューリップのスカートよりひろがる宇宙があるんだってさ。嘘だろって言いたいよね。たぶん嘘だよ。なんにもない両手でいくつまでならキャンディーを盗んでいいと思う。ねえ、教えてあげよう。白い犬と黒い犬が静かに審判を待っているよ。彼らにも教えてあげよう。脇見するほど純情じゃない。もう君しか見えない。生き返るために凍てつく世界。夜が叫んでいる。聞こえないふりしたっていいよ。暗号にこめられた真相。なるほど、僕たちが少しも似ないわけだ。

3+

no.353

あなたが沈んだ
ぶどういろの沼
ぼくが飲み残した
ぶどういろの夕陽

神様を呼べば救われる
そんなままごと
まだ信じてるって
あなたを勇気づけたかった

見え透いた嘘で
あからさまな下心で
昔読んだ本の一節
いまも髪に絡まっている

退屈をまぎらわすこともない手癖
ぼくたちが逃げ出さなかった領域
目隠しをして黙っていれば
まためぐり合う日がくるのかな

奇跡はそのまま宝石箱へ
枯れない花の吸い上げる雫

ぼくは
好きなところなんてひとつもない
あなたの
好きじゃないところなんかいっこもない

またはじめていいですか
諦めないでいても
汚れた手で顔をふいて
別物みたいなおとぎばなしで

4+

no.352

ひとがちいさく見えるまで飛ぼう
きみが突き落とされた岬も
ちいさいものはいつもかわいかった
ふたば、模型、こどものゆめ

朝がきたらかんたんに
きみのついた嘘なんて洗われてしまう
光とか雨とかに
きれいに勝てるものなんかない

だれと生きていく?
きみがぼくにたずねる
質問者になって除外させるの
ずるいところがあこがれだった

ここではたくさんのひとが
一日の間に亡くなったんだってね
いらない、そんなむかし話
ぼくより早い明日はない

あのひの絶望もこの今のため
そうだとしても幸福なんか知らない
きみがぼくから大切をとりあげるから
たとえばゆくえをくらますことで

たどたどしい従順
そんなことではないよ
凶暴な沈黙を突きつけられている
だけどまだ夢を見ている幼い横顔

4+
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