No.683

きみになら分かるよね、そんな目でぼくを見るな。あなたになら伝わるよね、そんな手でぼくにさわるな。何も共感を得たくて秘密を明かしたわけじゃない。雨が降る夜、ビニール傘ににじんだネオンの青に照らされたぼくを、曇天に眠る三日月に恥じたくなかったんだ。(愛し愛されてみたいんでしょう?)。ある特定の答えを信じて疑わない、質疑応答に向き合いたくなかったんだ。ひどい、きみのために、私を傷つけるの?(ああ、)まさか、あなたの満足のために、俺のことを見捨てるの?(ああ、切実に、黙れよ)。久しぶりに全速力で走った後はにせものしか欲しくなくて、ぬいぐるみとだけ手をつないで日付変更線をまたいだ。薬もないのに遠出なんかしたせいで、ぼくは腹部を切り開いてしまう。痛い、きっとそう言いたかったのに。ほろほろ真綿が転がり出てはSOSを跳ね返して光るだけ。

3+

No.682

鮮やかでなくなった
気づかれるのが怖くて毛布をかけた
ぼくの上にかきみの視界にか
どっちでもいいよ、遮られたいだけ

他の子とちがうお弁当
隠したがってること知られたくなくて
わざと机の上を汚してた
誰も傷つけていないこと慎重に観察して

塩素の匂いが降るんだ
待っていたようにも思う
あんなに死にたがりのくせに
ぼくはきっと欲張りなんだ

身のほどをわきまえない
あと少しで届くかもしれない
否定することで猶予が欲しかった
叶いそうなときにはわざと柄と刃をまちがえた

血が流れるくらいがなんだ
涙が出て心臓がぎゅうとなるくらい
この傷口にはふさがって欲しくない
きみの痛みがわからなくなるくらいなら

2+

No.681

停止に飽きたし歩いてみるか
そう思って触れてみる
なまぬるい縫合跡
深さは誰のせいだったか

責められても言い訳をしない人
ほんとうの正体はわからないままだ
もしかするとカーテンの影かも
この世に生きていないかも

終わりを見守る静かな夕暮れ
夕暮れという言葉を知らなかったころ
ぼくらはもっとぐっすり眠れた
羊の数をかぞえたりしなくても

明日になったらまた陽が昇るの
約束がおとなを不幸せにするの
つないだ小指が離れそうだから
今度は手と手をつないで光を

あなたのように生まれたかった
いつも素直になれなかった
祈りが後悔になってしまうから
祝福が花束を枯らしてしまうから

寄り添いたい
ぼくの足跡がサインを消さないのなら
自分のためだけに囁きたい
フィルターが泣き声をすくうなら

空を切り裂くパイロット
青の向こうに未熟な生き物
欲しがらなければ良かった
ぼくが望んだきみのいる景色がゼリーに沈む

2+

No.680

きみは知らない
ぼくがときどき
薄い剃刀をくわえたまま
満月を見上げていたころを

あなたは知らない
わたしがときどき
剃刀と貝殻をすり替えて
ただ祈っていたことを

分かっていてもしてしまう
そんなことがあるんだ
たくさんたくさんあったんだ
ぼくたちも例外ではないから

遠くを見ないで
後ろを振り返らないで
わたし今のあなたを見ていた
もう少し生きてみようと思ったの

2+

No.679

別れが好きな色をまとっている
生きるものの周囲に死があった
それでも僕の手足は動かせて
チャンスは何度もやってきた

兄弟姉妹が寝静まる夜に
白昼には姿を消してたすみっこが
そんなら泣けばいいのにって誘うんだ
僕の我慢を知っていたんだ

磨いたナイフで瞳の色を知る
あれがよかったのに、
これがよかったのに、
わがままのまなざしは虚空を見ていた

望めばいつでもゼロになる
科学にも音楽にも救えなかったもの
つめたい唇であかりを灯す
言葉はひとりでに発光をはじめる

僕の嘘が誰かを救って
君の嘘が誰かを貶めるとき
天井から垂れ下がる紐がつくる
不完全な円の中に流れ星を見る

錯覚のように
魔法のように
宇宙を流れていく
あれは、僕の命だ

初めて水に潜った時に知った
青色とは光のことだと
すべての色は光のことだと
何度でも包まれることができるんだと

僕がそう望めば
僕がそれを拒まなければ
僕がそれに耳を傾けたなら
遮るものは何もなかった

首を通す代わりに腕を通して
破滅に向かう星をつかんだ
きらきらは輪っかをくぐって
僕の舌に宿ろうといった

誰も見向きもしない
科学や音楽が見落としたもの
目の小さな銀色の網を張って
さいしょの詩を君だけにつむごう

5+