no.103

ずっといっしょにいられるよ
秘密にされることがきらいじゃないなら
きみについて語ろうとすると
みんな邪魔をしようとするからね

ずっといっしょにいられたら
安定剤はいらなくなりそうだね
焦点の合わないあのお医者さんを
ぼくは苦手じゃないんだけれど

ずっといっしょにいられるの
何も失わないまま、なんて望まないよ
幸せの量って決まっていて
それは必ず残るんだから

じっと見てくれたらいいんだ
顔を背けるくらいなら
いつかの僕がそうだったように
そのうち染みてくるだろう

もしもそのときは
もしもそうなったときは

僕に何かを言いたくなっても
もう手を振らなくていいんだよ
黙っていたってわかるんだから
かならず見つけ出すんだから

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no.102

暗号を迫害しないこと
そのルールが
僕を守る
方法は他にもあって
誰にも言えない

まわりくどい手段
誰も正解にたどり着けない
隠したいものに対して
細工があまりに大きい

ひとつひとつ膨らんで
やがて誰も向き合わなくなる
頭の後ろに回したお面が
最愛に微笑む

嘘を暴かないこと
誰にも暴けないこと
平和のふりを続けること
それしかないと思うこと

単純だと思えないものが
単純のふりをして近づくから
安全とは言い切れないものが
安全のふりをして近づくから

黙っていることが不可能なら
僕は喋り書くだろうし
それを止めないと言うのなら

相容れないふたつはいつか
初めて接触して粉々になるんだろう
見て悼む第三者のない場所で
ひっそりと派手に、やかましく

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no.101

これから足を踏み入れようとしている
佳境の結末を知ることができたなら
予感だけこんなにも強く
まだ起こっていないことのために怯えている

いつか触れ合った魂はみんな綺麗だったから
今や夥しい愛を受け入れる形態になっていて
それは確かにそうあるべき姿だと思うし
何かにつけて褒めそやすことも妬みに見えるかな

救わせてくれるものがどんどん消えていくよ
隠し方がうまくなって、嘘が本当になって
助けさせてくれるものが減っていくよ
はやくはやくって手を繋ぎあって仲間はずれ

僕は自分がいつか死ぬとは思えない
そんなはずは無いとわかっているけど
死は、
踵の結び目を断ち切られた影法師みたいに
埃の積もらない部屋の床に投げ出されている

紙飛行機が運んでくるたくさんのデマが
だけどあるひとにとっては動かしがたい真実が
騙されることもできない僕を笑うためだけに着地
その杜撰な折り目にまだ残っている指先の温度

(だれのもの?)

そばでずっと鳴っている
寝ていたって鳴り響いてる
生き物には発し得ないような輝きなどが
おまえの文法はおかしいと言うけど怒らないで

それはときどきこちらに伝わる言葉に変わる
鳴りながら変換してくる
望まなくても僕には分かる
贈る相手もいなかった光のやり場に困ってるって

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no.100

うわべだけの付き合いって悪い意味で使われているように思うし自分もそういうニュアンスでしかないと思っていたし実際そうある部分がでかいんだろうけど、うわべを繕う努力もまた他者への労わりやねぎらいや優しさの類に属するのではなかろうか。余裕のなくなった、人間の、なんと露骨に利己中になることか。余裕がないときの自分の、他者に対する、なんと嫌な反応か。そのことを思うと、うわべとか偽善とか建前とかそういうの、ぜんぶ、いいと思い始めた。思っていた。なんでも正直でオープンで明るくて公平で元気でわんぱくで誰とでも仲良く清く正しいことだけが清く正しいと言いたくないしそれもこれも暴論だから教室の黒板の上に貼ってあるスローガンみたいなやついつも苦手だったしそのとおりの生徒は別世界の住人。だけどその世界の住人は清く正しいうえに優しくて悪意がないから別名を天使といった。天使に非はなかった。もちろん天使以外にもなかった。強いて言うなら天使とか天使以外とか言ってる劣等感の権化が、その感覚がよくない。そしてその世界に属すことができない人種はその世界を貶めたり比較することでアイデンティティを得ている節があるから結局依存。誰もが誰かに救われていた。どこにも上下はなかった。敵も味方もいない世界。知人とオーディエンス。そのグラデーション。

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