小説『通学電車』

※読み切り。高校生×リーマン。途中で飽きた。続きや途中経過はそれぞれイメージしていただければと。

通学電車。
あなたにとっては通勤電車。
つり革につかまって窓の外を見る、あなたを見る。

なんとなく目が吸い寄せられてしまうのは、単純に好みなんだろう。自覚はないが、他に理由なんて思いつかない。こんなにたくさんの人がいるのに。
他にあなたを見ている人はいなくて、存分に堪能できる。
毎朝スーツだからたぶん会社員。
薬指に指輪は、ない。
ネクタイは曜日ごとに決めている。
おれが降りるひとつ前の駅で降りて行く。
その背中が人混みにまぎれるのを目で追っていたら、この駅から乗ってくる同級生がおれを見つけて、おれはやっと現実に引き戻される。

どしゃぶりのある朝あなたはいつもと顔色が違った。
雨か涙か?
電車が揺れてそれは涙だと分かった。
次から次へとこぼれてくるのだ。
なにがあった?
雨の朝に、まだ始まって間もない一日の朝に、通勤電車の中で思い出して泣くほどのどんなことがあなたの身に起こったのか?

気づいたら一緒の駅に降りていた。なんで?

自分でも怪訝に思いながらあなたの後ろをついて行った。あなたは途中から歩みを緩めてついに立ち止まった。気づかれたかと思ったがそうではない。

おっさん、だいじょーぶ?

その場で俯いているあなたに声をかける。
あなたはハッと顔を上げた。電車の中では気づかなかったけど、目の下に隈がある。ホットアイマスクあててあげたい。血行良くするマッサージとかしてあげたい。かわいそう、こんなに、寝不足で。

あ、ああ、大丈夫だよ。すまない。こんなところで立ち止まって。
日曜日、デートしませんか。
え?
えっ?あっ、すいません何言ってんだおれ。すいませんつい、いや、ついってことはないんだけど、あなたがとても悲しそうに見えて、おれなら楽しませてあげるのになあって思って、そしたら、つい。

我ながら気持ち悪いいいわけだったが、あなたは「ふは」と笑ってくれた。とてもかわいい。

「きみ、すごい勇気だね。それ、買ってあげよう」
「あ、ありがとう、ございま、す?」

それが、おれたちふたりの出会いかただった。

三年経った今でも鮮明に覚えているよとあなたは言う。