No.761

リズムがぼくを離れていかない
花瓶を買ったんだフラスコの
花が好きになれなくて
花さえも好きになれなくて

手紙を書くよ
あなたの声は知らないけれど
手紙を書くよ
切手を貼りたいという動機だけ

新調したペン先を今
信号機の青に浸す
禁止という言葉が行間から生まれ
隣の行に吸い込まれて消えた

ぼくが手紙を書くこと
手紙を書くためにペンを握ること
ペンを握るまでに至るあなたへの思いが
明日、欠落するかも知れない

今だけだ
どうしても眠ることできない
今しかない
よそ見している余裕はない

火のようにペンを走らせる
独りよがりに似ている
凍てつく前にペンを走らせる
ぼくはたぶん大人にならない

封筒に宇宙の切手を貼り
星から吸い込んだもの全部を還して
一生に一度の最期を迎える
この世には美しいものがたくさんあった

優しいひとがつくってくれた
正方形の窓から夜明けが見える
遠くのちいさな星よありがとう
ぼくより先に沈まないでくれて

3+

【小説】『花葬の双子』

僕が私になる頃、空はすみれ色に変わっていた。正しい順番は疑うこともできたが、正しくあるという共通の目的のために平和は保たれ、僕達ははっきりと決別しようとしていた。忌ま忌ましい朝に向かう最後の夜の始まりに、惰性でストローは一本。側から見れば仲睦まじい双子のように見えるだろう。わずかの唾液とわずかの毒が互いの舌を潤していくので、器官はしばしその役割を忘れた。血に大差はない。人間が考えるほど血というものに大差はない。ふいに君は窓際に飾った花が枯れた話をする。不精な僕が原因であると責めているのだ。そこで僕は愛猫が不審死を遂げたことを引き合いに出す。とびきり真っ黒の、砂上に落ちた果物の影のようにかわいいやつだ。もういない。君が餌の調合を間違えたこと、知っているんだからな。弱みを散らつかせた後は瞳の中に真相を探り合うけど、一筋縄でいかないこともまた分かっている。どちらも。畢竟この争いは静かに平行線をたどって、いつもの場所へ落ち着いた。すると決まって僕は君のいないこの部屋がどれだけ虚しいか言って聞かせ、君は君で僕のいない暮らしがどれだけ退屈かを熱弁する。やがて夜が来て真夜中を経て朝が訪れ、暴力的な光がカーテンをこじ開ける頃。僕と君とは決別の目的を忘れてしまいひとつの棺に収まって、次の宵まで仲良く眠る。花が咲き小猫が跳ねる、僕らの大好きな棺に。両親の手によって優しく埋められた時のように、柔らかくまるく白い膝を互い違いに折り合って。

2+

No.760

愛の取得に失敗し
何ミリリットルの血を賭けた?
再生が先か終わりが先か
他の誰もが平和に見える

ひとを好き
なんて嘘
もしひとが
手に入るなら言わなかった

言葉が嘘ならいいのに
本当を隠し合っているなら
探しているなら分かり合えるのに
手がかりを埋めた氷はまだ溶けない

好きだったひとは遠くにあって
いつでも孤独を教えてくれる
忘れそうになったら瞬いて
おまえはまだ真夜中だよと教えてくれる

2+

No.759

発光するものに照らされて、ぼくは今もここにいる。これからもここにいていいんだよ。優しい声に縛られて。脈をはかる長い指が感覚器にのばされるのに時間は要らない。いつでも言い訳ができるよう偶然を装って。みんな歩き出したよ。ぼくだけがここにいるよ。不自由のない場所で、培養される愛の中で。大丈夫。震えなくてだいじょうぶ。誰もが安心して信じられる存在をたしかめたいんだ。きみはちゃんと必要とされているよ。脈をはかる以上のことをせず、指が離れていく。後には甘い体温だけ残って、それもすぐに消えていく。一度でも困らせたい。一度でも踏み外したい。壊したい。『わがままを言わない』。成長過程で幾度となく刷り込まれたそのルールを破ると、あなたの目にも光が宿る。なんだ、意外と簡単かもしれない。そこからぼくはいくつものわがままを垂れ流す。精確な計測器のようにストイックなあなたが我を忘れてぼくに触れるまで、あと、7秒、白い、天井、左手のタグ、ああ、ぼくは、生きて、いたんだ。

2+