no.307

かわいそうって思っていたおとなたちも単に夢を見ていてこどもたちの攻撃なんてちっとも効いちゃいなかった。口を開くためにはくわえたカミソリを落とせばいいだけだって気づくひとは案外と少ない。あたらしい国は青くて何も疑わなければそれなりに平和だった。かがやきを集めれば有名にだってなれたし誰かを幸せにする方法は惜しげもなく共有されそこらじゅうに散らばっていた。どういうことかっていうとたぶん誰も幸せになりたくなかったんだ。いちばん分かりやすい自己紹介は抱えている絶望だからそれを手軽に名刺のように差し出したかったんだ。攻撃しないでください。敵ではありません。あなたはわたしをそっとしておいてください。どうぞお気になさらず。ひとりになりたくてほどほどの壁を立てるんだけどその模様にひかれた他人が勘違いして寄ってきて話しかけたりするから不機嫌な茶会なんかひらかなくてはいけなかった。童話の世界にあこがれるのはそこに終わりがないからで結末をつけられることが面倒だというのもあった。それっきりになれば良いのにずるずる続くし評価を受ける。気にしないくらいなら始めから繋がらなければいいのにって思うしわがままだって言われても綺麗だと感じるものをだけ取り込んで生きていきたかった。そんな無菌室みたいな空間がお望みなら死ぬしかないよって笑う君がまぶしくて本当にそうだよねって頷いてこの冬を一緒に暮らすことができればどんなにか再生可能な記憶になるんだろう。そう言うと気色悪いって言うから本当にそうだよねって頷く。ほんとそうだよ、分かってる。