no.276

その一族は夕焼けを窃盗する
早く夜を泳ぎたいんだ

集めた夕焼けから血をつくり
次の命に注ぎこむ
それだって大切な役割だ

当番制で週に三回まわってくる
手順は簡単

集めた夕焼けを
おおきなシャーレに薄く伸ばしたら
帰路についていた鳥を救出する
間違って紛れ込んだ生き物を

それからピンセットで雲を取り除く
取り除いた雲は怪我に塗る薬になる

鳥と雲がなくなったことを確かめたら
透明な四角い容器に移し
代々伝わる秘密の言葉を囁きかける

そうすれば色彩の濃度は一気に上がり
新しい血のできあがりだ

夕焼けには
ついに言葉にならなかった思いや
誰にも伝えられず消失した感情が
たくさん溶け込んでいるのだから

ふと寂しくならないわけがないよ
ふと懐かしくならないわけがないよ
君たちの体じゅうを流れているのだから

と、一族の一人が教えてくれた。
(僕の知っている誰かによく似ていた)。