no.266

こんなこと、めずらしくもない
言い聞かせて引っ込めた涙が
後になって馬鹿みたいにこぼれてくる

道行くうちの何人か
怪訝そうに、または心配そうに
気にかける眼差しを送ってくる

共同体なんて何の力も持たない
それを育ててこなかった僕の感性にとって
愛も友情も何の救いにもならない
これまで邪険にしてきた罰だろうなあ

夜の街はフルーツポンチみたい
白玉だんごとパイナップルのあいだを
回遊するのは尾びれのおおきな熱帯魚
僕は不便な体しか持たないで道を歩く

虚しさが全部をリセットする
たとえどんなに美しくても
たとえどんなに健やかでも
それが何になる
欲しがらなければ無駄なこと

たとえば僕が貪欲で
おまえが人生に一度きりの
最初で最後の登場人物だったら
こうまではならなかったろうに

僕は豊かで
僕は飽きやすく
僕は持たされて
僕は他人を羨むことがなかった

こんなこと、何でもない
そう言い聞かせて笑おうとしても
あったものをなかったことにできない

ピンクの寒天
茶色のみつ豆
ぷりぷりの蜜柑
白玉だんごはたぶん小さな頭蓋骨

こんなこと珍しくもない
なんてことはない
小説にもならない
僕が抱えて行くしかない

別れようなんて、
おまえから僕に言うからだよ