no.265

ギプスの上に置かれた手
温度は感じられなくても
体が優しく締めつけられ

どこへも行かせたくない、
と思った
いずれ旅立つこの手の人を

電信柱には蝉の一匹
テレビは最終戦の結果を伝える
涙みたいな汗がこぼれて
それはあなただけのものだと
知らないだろう、教えてあげたい

僕らふたりの通学路だった田んぼ道
蛍の光みたいに緑が輝いてる
空は不自然なほど青くて
その濃度を冬に持ち越せたらと願った

歌舞伎町の朝
人が生きること、今日が明日へ続くこと
ずる賢くても、要領が悪くても
ここにある夜が
誰にとってもそのうち必ず明けること

それら全部美しいって
言える人だ
それが全部嬉しいって
君はもう、言える人だ

(だから、
こわがらなくていい)