no.257

首、頸動脈のあたり。ふわふわの毛並みを押し当てていると安心をする。いつからかそこにあって、あることがあたりまえだったもの。人はそれに安らぎを覚え、覚えさせたいと思う。永遠を誓う。幼年時代はこれから先を生きるためになくてはならない、思い出を培う場所だ。そこが礎となる。向けられる言葉は甘く、微笑みは優しい。留まろうと思わないうちは、終わりを知らない。だけどやがて考え方を知る。歩み寄ってくるものに耳を傾けるうちに、これはなくても平気だ。ぼくはもう強い。錯覚だろうが幻影だろうが構わない。ぼくがそう思っていることが大切なのだ。もう要らない。そんなふうに言って多くの人はたくさんのきみを何度も捨てる。転がったままきみは待つ。そして見ている。大切にしてくれた誰かが騙され、傷をつけられる。まるで感情を試されているみたいだ。何度も陥って挫けてしまう。立ち上がろうとしてまた叩きのめされる。そこには平等はなく要するに嵐に飲まれてしまったんだと思われる。きみは特段悩まない。ボタンの目でそれを見ている。やがてそれはきみに気づく。そこにあったんだ。ずっといたんだね。もう一度戻ろうと思う。連れて行ってくれ。疲れたんだ。あの日々が一番良かったな。きみが聞く声はずいぶんとしゃがれている。他に方法を知らないからきみは押しつけられた頸動脈を十字に切る。透明な傷跡から魂がこぼれて人の願いは叶う。きみはまた放っておかれる。痛むところがあるか。もしもあったなら教えて欲しい。手がかりにするから。引っ張り上げてあげる。そして私がきみを産んであげよう。ようこそ誰もが死にゆく綺麗な世界へ、今度はきみの番だ。