no.198

誰にも負けないものがあるなら胸を張って言うのに。だけどそれが見つからない間は何も言わなくていい。探していることを理由に何もしなくていい。わかっているよ。意味のない回り道だって。秘密は祈りに匿われてどこにも到達しない。置き去りにされた何かみたいさ。腐って、滲んで、やがて消えてしまうだけの。不都合をまとったまま腕を伸ばせるほうが正しいに決まっている。佇まいだけで悟ってもらおうなんて無謀にもほどがある。君ならわかってくれるはず。君ならわかってくれないと嫌だ。薄紅の花弁の奥に隠れていくこの光景は早送りなのか巻き戻しなのか。現実にいま見えなくなっていく。いつか忘れたことも忘れてしまうんだろう。ひるがえったプリーツスカート、紺色の。覚えたままにさせてはくれないんだろう。白い肌。その下に血が流れているだとか。証明なんてどこにもないんだ。二人が一緒にいた時間の。僕にだってそんな確信はない。君はどう。君も同じように幻だったの。