no.196

年中流れている無声映画。四辺からなる音の牢獄がぼくたちを照らそうとしている。ちいさな宝石の鎖をちぎって。消えない魔法の世界で、消せない魔法の世界で。負けたひとが次の手をさがしているあいだにまた道に迷うよ。行き交う人の顔にふたりの終わりが書いてあるから俯いていて標識を見失う。でもそれって好都合。つたない手書きの切り取り線は何も知らない。足並みを揃えて崖っぷちまでスキップしたいな。このまま見え透いた旅路なら。後先考えてストーリーの始まりをぶち壊す。僕のスカートの中で君は泣く。だからここに現実なんかない。君の唇は僕のかさぶたの味がする。舌はないんだけどふとそんな気がしたんだ。風に乗ってナポリタンのにおいがする。きっとどこにもないお皿をさがしてあちこち旅をしたいな。ようやくそれを見つけた時にはまた新しい幕が上がるんだろう。そしてふたりは笑いながら。