no.190

ちいさな交差点に建つ、ビルの一階にある。喫茶店の優しい店主は新しい野良猫を見るように僕を見た。白い椅子に腰掛けて通りを眺める。と言っても人通りは少ない。午前の光がアスファルトを柔らかく照らして、宅急便の配達人が何度か行き来をする。食器の触れ合う音。テーブルに添えられた生木。葉の何枚か枯れていて、それがつくりものではないことを僕に教える。毎日来ることはできない。僕は何気ないものを本当に欲しかった。店主がやってきて僕の前に遅い朝食を並べる。正方形の箸置きはさわるとざらざらしていた。躊躇いながら口にした。なんで。なんで。お腹が空いて、しかも僕は食べるんだろう。自分の睫毛に陽が当たっているのがわかる。そこから溢れるものはもう何もないことも。限りがあるんだ。幸せにも絶望にも。正体は明かさない。あさってが来ないことも言えない。こんなお店の店主は僕を気に入るだろう。絶対に。ぜったいに。名前も、素性も、ここに至る経緯も知らないくせに。明日やあさってがもうこないことも。何も抱えていないわけではないってことも。骨張った長い指が視界に入る。わからない終わりならまだ何もできない。おいしかったですか。まるで怖いものなんてないみたいに、あなたの問いに僕は答える。はい、とても。ごちそうさまでした。また来ます。

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