no.182

ありがとうがさようならにきこえる夜。でたらめなようでそうではない夜。きみがぼくを見ていた。今のではなくて遠い昔の。(と言っても地球の歴史から見たらそれは瞬きにも劣る時間かもしれない)。ぼくはふと、きみに産まれた気になる。錯覚。半分はまだ夢の中にいるってこと。きみはぼくの、まだ今のぼくでないあのころのぼくを見ながらミルクを飲んでいる。たくさんのお砂糖。ぼくは思う。いつか見たのではなかったか。この光景を。誰の視点。誰かの視点で。ぼくを見るように誰かを見ているひとの姿を。それはひとりの青年だった。窓辺に座る母を見つめる、父の視点だった。ぼくは熱の放しかたを知らないで涙を落としていた。ずっと会えなかったみたいだ。一緒にいなかったことはないのに。たった今会えたみたいだ。時を超えて嘘みたいに。朝陽よ、まだ待って。願わくばもう一晩、この幻を繰り返して。泣いたっていい。ずっと切れ端だった。笑ったっていい。結ばれることもあるって知らなかったんだ。