No.824

ぼくには大切なひとがいないから、世界という言葉しか使えない。日が昇ったあとの街は、色に満ちていた。それは懐かしかった。なぜ新しくならないの?風景がぼくに問いかける。振り返っても届かなかったくせに。なぜ新しくなれないの?もう一度問いかける。声は幻だったかもしれない。新しい季節。終わりの六月。来年や再来年はどこにいて何を食べるだろう。誰と何を見て笑うだろう。嫌いなものはひとつもなかった。嫌いという気持ちが持てなかった。どうでも良かった。傷ついたふりをして笑った。ちぐはぐな世界とあやふやなぼく。似たもの同士で陽のあたる場所をはみ出して歩いて行く。この夢は抱えたまま歩ける夢だ。叶わなくても許される夢だ。