No.812

春はたくさんの音がする。つぼみがひらく音、寝てるあの子の頬を風が撫でる音、光と水が笑う、今がいちばん好きだとあなたは笑う。新しいスニーカーのつま先がもう汚れている、どこへ行ったんだろう、そこで何をしたんだろう。嘘や秘密があったとしても、あなたは僕に対して愚直に思えるほどこれからも優しさだけを向けてくんだろう。僕はそれを愛と呼んであなたを安心させるんだろう。手をつなげないんだ。言葉を交わせないんだ。何度も思い出すうちに記憶は形を変える。今のあなたと一年後のあなたはもう違う。上手な嘘をつきたくて永遠を使った。一瞬一瞬が舞い散って視界を白く染める。どんな奇跡も追いつけない今、報われない純粋で胸がいっぱいだ。