No.815

始まりに手紙が届かなかったから、もう終わったと思っていい?もう忘れたと思っていい?ぼくら絵に描いたように幸せだった。水に映った月を食べようとした頃。映画のワンシーンみたいに星を蹴散らして笑った。モーター音とページをちぎる音。規則的な回転と羽ばたき。ふたりで作った不規則が、これから十年でも百年でも続いていくようだった。いま一つずつ蓋を閉じて、迷ったんだ、ここを発つ時が今ではないのかと。人知れず上昇する数字。気配はするけど、それも幻かもな。抱きしめるもののいない世界で、手紙を書くよ。宛先のない手紙だ。きみへの、きみたちへの思いは尽きることがない。白い束を海に放ったら一斉に羽ばたき出す。それを、それだけを、その妄想だけを頼りに、紺碧に筆先を浸す。蹴散らかされた星が、食べられた月が、そこにはもう戻っている。