No.816

深夜にきみの検索履歴を眺める。僕は悪いヤツだと思う。僕なら救えるんだ。だからしない。傍観している。悪いヤツだと思う。知っていることと知らないことが運命を変えるなら、知っているのに知らないふりをしてやり過ごすことが運命を変えたりしないだろうか?バカげてる、きみは言うだろう。それを分かってる。いつか読んだ小説のフレーズが、今僕の胸をえぐっていく。月がきれいと言えた頃、もっと瞳に映れば良かった。懇願に飽き足りて呪いのように。きみは映せば良かった。作者は読者の存在を知らず、僕が本当のひとりになった時に読む一行。大丈夫かと尋ねるきみのほうが大丈夫じゃなくて、振り返った僕は何も知らないふりをして笑った、色あせた行間に傷跡を隠して。