それはすごいことだよ
誰も言わないから気づかないだろうけど
奇跡と呼んで差し支えないものだよ
そうでなきゃ嘘だよ、ウソなんだ。
山間の暮らしを淡々と流すドキュメンタリー
都会から帰った息子が言うんだ
「やっぱりここに帰ってくると安心しますね」
腕に目元がそっくりの子どもを抱いて
あ、これ、知ってるひと。
思わずそう声に出してしまう。
「何を?」
「ぼくは、この人を知ってるんだよ」
「いまテレビに映ってるこの男?」
「そう」
「おっさんだな」
「優しかったよ」
「ふーん」
あなたは関係を追及しないで「こんな偶然があるもんだね」と言い「偶然しか無いよ」とぼくは答える、心の底から。
愛は、形を変えるところまで含めて愛だね
誓った永遠はいま他の命に注がれて
ぼくはあなたとごはんを食べる
明日ぼくは誰と過ごすんだろう
あさってあなたは誰に懐くんだろう
奇跡と奇跡が寄り添って
想いをひとつもこぼさない
それは強さでも思いやりでもなくて
単なるふたりの臆病だった
チャンネルはクイズ番組に切り替わり
小学生レベルの問題を間違えるあなたを笑う
ぼくの腕はがら空きだったよ
あなたに似た人ばかり探してたんだよ
「おまえ、さみしい顔をしている」
「あなたはそれを指摘するだけ?」
「いいや。慰めることができる」
「頼んでないのに」
「ずるいんだな」
「知らなかった?」
「忘れてた」
星になったら降り注ごう
ぼくが愛したものたちへ
夢のなかまで連れて行きたい
こんにちはもさようならも無いこの今
(忘れてろ)。