No.797

たんたんと降る雨の音がする。集合から離れ、まっすぐ歩いて帰った自分を恥じる。不器用なせいではない。何も受け止められなかっただけ。夜を越えるために必要なものは、取り出した心臓に似た月明かり。飼い猫だった獣がはこんできた小鳥の骨。あなたの小指。「得体の知れないもの」と言うときその正体を、ほんとうの意味で知らないひとはない。ぼくにも分かっている。適応できないもののない世界で、居心地の悪さに無自覚になれない。あたらしい朝がきてぼくは、きのうの夜のことをわすれ、机に載せた小指を飴と間違えて口に含む。小指だったものはいま舌の上であまく、夜のほうが幻だったと言い聞かせることに成功する。いいわけを生きている。いいわけしたい何も、誰も、いなくなった時、ぼくは人間をやめるだろう。きみに会いたい。ぼくを平凡だと笑うきみに会い、よくあることだよぜんぜん特別じゃないよと笑って欲しい。その言葉になら素直にうなずける。絶望はいつもきみに劣っていた。飽き性の僕はそれをいつまでも見ていられた。