No.796

あまさず受け止めたかった。こぼさず食べたかった。逃がさずつかまえたかった。きみは、怖いひとだね。優しい手がそう拒むのを待った。僕はずるい。知ってる。あなたに追いつくために、ずるくなる以外に思いつかなかったんだ。こども、死を美しいと信じているね。ありふれた出来事だよ。いまも、ほら、誰にも。会いたいひとがいる。と同時に会いたくないひとでもある。僕が生まれる前のあなたと、生まれた後のあなたにほとんど差はない。あなたはあなたの時間を生きて、僕は僕の時間を生きる。少し併走するかもしれない。どこかで交わるかもしれない。間違いをおしえて、この気持ちを恋だと誤解する前に。ほどいて。