小説『机上の星』

首にかけた手を少し離し、また押し当てた。あなたは考えている。僕をどうしようか考えて結局殺す。それから部屋の中をうろうろすると、ここは狭いと言い残して散歩に出る。久しぶりに本物の太陽を見て、ああ変わっていないなと呟く。通りすがりの恋人同士が真似をして笑う。最近女の子が産まれた店主のいるパン屋からミルクパンとメレンゲを買う。あなたの幼い頃からの好物だ。それを持って公園へ行くと男の子が物欲しそうに見ているので渡す。親から叱られる。あなたはまた厭世的な考えを始める。ひとしきり鬱を愉しんだら喫茶店へ行く。前回来た時と雰囲気が変わっており壁に掛けられた絵が無くなったからだと気づいた。あの絵は?常連客へ訊ねると「夢の中」と回答がある。そうか。あなたはテーブルにコーヒー代を残し、住み慣れた部屋へ戻る。あの常連客は誰の問いに答えたんだろう?忘れかけていたが殺されたぼくが机の上にあるのを見て、ひとりにして悪かったと心の中で思う。大丈夫。分かっていたから心細くはなかった、あなた、そういう人だよ。そういう星のもとに産まれたんだよ。あなたは今日外であった事実には何一つふれず、今日感じたことだけをぼくに込める。ぼくはあなたが感じたすべてを受け取りもう一度産まれ、いま読者に読まれる詩となる。人は僕をあなただと言う。あなたはもう、別の僕を手にかけている。