小説『ぼくたちの春夏秋冬』

最後の花火が落ちたとき
月が出ていることに気づく
隣の横顔は冷たいだろな
いま触れなくても触れた記憶で分かる

アスファルトを裸足で歩いてた
あなたを偽善者だと思った
羨ましいと思った
ぼくには取り繕いたいものがない

熱量を構成する一要素
信じた人も誰かの大切な人
単語に収斂された歴史が
ぼくの浅はかさを浮き彫りにする

小手先が通用しなくなり
呼吸がままならなくなり
虚栄心がほころび始め
夜が明けそうな冬の一日

あなたが現れた
ぼくの欠陥はあの日のためにあり
あなたの放浪癖はぼくのためにあった
出会った二人は一杯のスープを飲む

好きなものが少ない
だから見つけたら離さないようにしてる
おれにとってきみがたぶんそれで
間違いなさそうだからもう好きにしていい?

笑ってしまった自分がいた
余ってるからあげるよ
命は大切にしろと教わったからさ
見かけによらずぼくは優等生なんだ

春夏秋冬
夏秋冬春
秋冬春夏
夏秋冬春
そしてまた春夏秋冬

ワイドショーが行方不明事件を報じる
悲壮な面持ちのコメンテーター
大丈夫、それほど不幸ではない
ぼくたちは幸せに過ごしている